EMPTY A CONCEPTION

incomprehensible speech and behavior 4

モドル | トジル | ススム

 3月最後の休日、アレフは亮とジョートショップに居た。

「亮、何考えてるんだ?」
「あ、うん。別に……」

 亮は再び机に伏せてしまう。
 朝からずっとこんな調子だ。
 何かを考え込むように塞ぎこんでいる。

「どうしたんだよ? せっかくの休みをただぼーっと過ごすなんてもったいないじゃねーか」
「うん……」

 返答も空返事だった。
 その時、ジョートショップの扉が開かれた。

「おじゃましまーす」

 やって来たのはトリーシャだった。

「やあ、トリーシャ」
「こんにちは.。亮さんもこんにちは」
「君は確か…トリーシャ・フォスター、だったよね?」
「そうだよ。ハイ、これ」

 亮の頭にたんぽぽの冠が乗った。

「これ、は?」
「昨日の冠だよ。せっかく作ったおみやげを持って帰っちゃうのも悪いから返しとこうと思って」

 亮は頭に乗せられた冠を手に取り、まじまじと見詰めた。

「俺が、作ったの……?」
「何いってるの、亮さん。昨日ローズレイクで作ってたじゃない」

 トリーシャの言葉に亮の顔色は少しずつ青くなっている。

「あ、そういえば歌ってたあの歌って何の歌? すっごく綺麗な歌だったけど……」
「ごめん!」

 亮は急にトリーシャに頭を下げ始めた。

「本当にごめん! トリーシャ!」
「ど、どうしたんだよ? 亮」
「亮さん?」
「実は、覚えてないんだ。昨日のこと……」
「え……?」

 不安そうな顔で亮が話す。
 同じだ。
 亮が手首を切った時と。

「覚えてないって、昨日の夕方ローズレイクで歌いながら作ってたじゃないかっ。覚えてないの?」
「うん……。朝になって起きたとたん、急に目の前が暗くなって、気付いたら夜になってて…」
「じゃあ、ボクに『ヒマワリみたい』っていったことも?」
「……うん」
「そんなぁ……」
「ご、ゴメンね? トリーシャ。本当にごめん……」

 亮が謝ったその時、誰かが扉を開けたことを知らせるベルの音が鳴った。

「いるか? 亮」
「こんにちわ」

 訪れたのはトーヤとシーラだ。
 シーラとはこの間エンフィールドを案内した時に出会っていた。

「あ、ドクター。それに……シーラ・シェフィールドさん?」
「ええ。昨日はありがとう、亮くん。今日はこれを返しに来たの」

 シーラが差し出したのは白い無地のハンカチだった。

「これ、なくしたハンカチ……! ドコにあったの?」
「何いってるの? 亮くん。これは昨日あなたが貸してくれたのよ?」
「え……?」
「ピアノのおけいこのことで落ち込んでた私にそれを差し出してくれたのはあなたじゃない」

 シーラは昨日の事を話し始めた。
 エレイン橋から流れる川の水を眺めていた。
 声をかけられたのはそんな時。

『どうしたの?』

 後ろから聞こえてきた声。
 男とも、女ともいえない。
 振り向くと黒い髪が風に靡いていた。

『あなたは、アレフくんと一緒にいた……』
『これ』

 彼、亮が白いハンカチを差し出した。

『何があったかは知らないけど、君に泣いてる顔は似合わないよ』
『……ありがとう』

 そう。
 私は泣いていた。
 どうしても、あの曲を上手く弾くことが出来なくて。
 ハンカチを受け取ると彼は笑ってくれた。

『よかった……』

 しなやかな右手を取り、甲に口付けを落とした。

『―――!? あ……』
『じゃあね』

 そして亮は踵を返してその場から去っていった。
 後に残ったのは彼に口付けられた右手からじんじんと伝わる熱さと赤くなった頬だった。

「まさか手の甲にキスされるなんて……。あんなことされたの、初めてだったから……」

 語るシーラの頬が赤く染まっていた。
 そして亮の頬も赤く染まっていた。

「俺そんなことしたの? 全然覚えてない……」
「亮……」

 亮は昨日の記憶がないに等しかった。
 それにどう考えても亮は泣いてる子を慰めるようなことはしても、そのまま口説くような真似をするようには思えない。

「だって、昨日あったことさえままならないのにっ……!」
「亮」

 パニックを起こしかけた亮をトーヤが落ち着かせた。
 そのまま亮の耳に口元を近付け、小声で何かを伝える。

「…わかり…ました…」
「じゃあ、俺は帰らせてもらう」

 そしてそのまま帰っていった。
 気になったトリーシャがシーラに質問した。

「そういえばシーラ。どうしてドクターと一緒に来たの?」
「前で偶然会ったの。ここに来た用件を話したら『俺も一緒に行こう』って……」

 今の話をした時、トーヤは少し考え込んで言い出したのだ。
 俺も一緒に行こう、と。
 断る理由もなかったので一緒に来た。
 アレフもその話しも気になったが、今は先ほど耳打ちされた事の方が気になった。

「……亮、ドクターに何をいわれたんだ?」
「それは…大したことじゃあないから……」
「亮?」
「ごめん、アレフ。帰って……」

 亮は二階へ登って行った。
 自分も追いかけようと思ったが嫌がられると困るのでそのまま帰ることにした。

 翌日、その行動を深く後悔することになるとも知らず。





END


亮祐:管理人です。謎が浮上したままですね。incomprehensible speech and behavior和訳すると不可解な言動は今回で終わりです。最後の分にもあるとおり次の美術館盗難事件でアレフはの行動を酷く後悔することになります。
翔:ところで今回はアリサさんとテディは?
亮祐:……買い物に行ってるということで。ではこの辺で!


BGM:命の儚さ/「煉獄庭園」

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