茜色の夕焼けがエンフィールドを赤く染めている。
トリーシャ・フォスターは慌てて走っていた。
晩御飯の買出しもまだだったし、何より今日は父であるリカルドが非番だった。
けれどローズレイク脇に差し掛かったところで足を止めた。
今、微かだったけれど湖の方から歌声が聞こえたから。
寄り道している場合ではなかったが気になったので湖の方へ向かった。
ローズレイクの湖が夕日で赤く染まっている。
湖を囲むように咲いている花畑の中にトリーシャが探している人がいた。
座り込み、後姿をこちらに向けて歌っている。
歌っているのは昨日アレフに街案内をしてもらっていたジョートショップの居候『亮』だ。
聞いた話では記憶喪失らしい。
着ている服はこの間の大きめのものではなく、黒を中心としたシックな物を着ている。
それにしてもあんな所で座り込んで何をしているのだろう。
話し掛けようと足を一歩踏み出した。
「こんにちわ」
先に挨拶をしたのは亮の方だった。
トリーシャも挨拶して亮の隣りに座る。
亮は数本のたんぽぽを編みこんで冠を作っていた。
「何してるの?」
「かんむりをつくってるの。おみやげにしようとおもって」
そう告げると亮は再び先程の歌を歌い始めた。
それは、澄んだ歌。
森の中で聞いた水滴のような歌。
トリーシャは美しい歌に聞き惚れていた。
前に街の住民が亮の歌声を聞いて騒ぎを起こした話を聞いたことがあった。
無理もない。
こんな美しい歌なのだから。
だがトリーシャが驚いたのはそれだけではない。
歌いながらなのに冠を編む指は素早く、あっという間に出来上がった。
「できたv ダンディライオンv」
亮は嬉しそうに出来上がった冠を持ち上げた。
その表情は本当に嬉しそうだ。
まるで幼い子供のように見える。
「ダンディライオン?」
「うんvせいようタンポポのべつめい。はっぱがライオンのたてがみみたいでしょ? それにおはなのいろもきいろだし」
いわれてみればそうかもしれない。
急に頭に重みがかかった。
頭には亮が作ったダンディライオンの冠があった。
「あげるv」
「え? いいの? おみやげのハズじゃあ……」
「いいよ。あともうひとつくらいならつくれるし。それに……」
「はなしかけてくれて、うれしかったから。ひとりでいるのさみしかったし。ひとりでいると、サンのことおもいだすから……」
寂しそうな亮の紫電の瞳にトリーシャの胸がズキンと痛んだ。
サンとは誰のことだろう。
訊こうと思ったが自分が晩ご飯作りのために急いでいたことを思い出した。
「いっけなーいっ! ボクもう帰らなきゃっ! 亮さんまたねっ! 冠ありがとうっ!」
「あっ、まっ…」
亮は声をかけようとしたがトリーシャの足は速く、既に声が届かない所まで行っていた。
諦めて亮は、今度はクローバーで冠を作り始める。
「あ〜あ、まだきいてなかったのにな。おねえちゃんの、なまえ…」
その呟きを聞いたのは、亮が作っている冠だけだった。
亮祐:管理人です。タンポポの別名「ダンディライオン」。これは某ドラマで知りました。実は亮とトリーシャは前回のpurple eye
syndrome -不可解な言動- 1で一応会ってるんです。陽のあたる丘公園へ行く前に「また女を引っ掛けたのか」といった知り合いのなかに彼女も入ってるんです。いつかその辺も書きたい。あと今回亮くんが着ていたのは最初発見された時に着ていたあの服です。
翔:――で、最後セリフは?それに今回亮のセリフ、オールひらがなだし。
亮祐:それは……秘密です。
BGM:命の儚さ/「煉獄庭園」