EMPTY A CONCEPTION

incomprehensible speech and behavior  1

モドル | トジル | ススム

 あの屋敷の出来事の翌日。
 陽のあたる丘公園に暖かな陽光が注いでいる。

「アレフ! 早く早く!」

 亮が笑顔で離れているアレフに向かって手を振っている。
 二人はエンフィールドの案内がてら気分転換として外へ出ていた。
 全てを回ったので最後にここへ来たのだが、自分は疲れているのに亮は疲れのつの字も見せない。

「悪ィけど、俺そこのベンチで休んでるから……」
「うん、わかった」

 返事をすると亮は向こうの広場に駆けて行く。
 アレフは微笑ましく感じながらベンチに腰をおろした。

「あの元気はドコから出るんだろうな」

 ほんの一つ二つくらい違うように見えるだけなのに

 遠目から見ても近くから見ても亮は女にしか見えない。
 今日だけでも会った知り合い全てには「また女を引っ掛けたのか」と言われ、女の子達には「どこの女だ」と迫られ、挙句の果てにちょっと目を離した隙にナンパまでされていた。
 必死でワケを話したり、弁解したりしたのに当の本人は首を傾げるだけで……。
 たまらずアレフは溜息をついた。
 今日だけで何度ナンパ野郎どもにイライラしたか。
 それもこれも、亮が似ている所為だ。
 雪のように白い肌。
 美しい紫電の瞳。
 儚げな微笑。
 全てがスクルドを思い出させる。
 けれど、それ以上でも以下でもない。
 ただ似ているだけ。
 それなのに何故いらついてしまうのか。

 ―――まるで、そいつらに嫉妬してるみたいじゃねーか……

 アッホらし、と呟いてポケットに手を突っ込んだ。
 カサ、と手に何かが当たった。
 何だと思い取り出してみる。
 それは写真だった。
 四人の男女と、五人の子供の写真。
 亮の家で見つけたものだ。

 ―――そういやー、あのとき思わずポケットに突っ込んだんだっけ…

 屋敷で得るの悲鳴を聞いた時に慌ててつっこんだのだ。
 そうだ。これを亮に見せれば何か思い出すかもしれない。
 それにこの塗り潰されている意味もわかるかも。
 アレフは立ち上がり、亮の元へ移動した。

「休憩終わったの? アレフ」
「あのさ、この写真、おまえん家で見つけたんだけど何か思い出せねーか?」
「写真……?」

 亮は差し出された写真を受け取ると無言で見つめた。
 やがてゆっくりと口を開いた。

「……どうして」
「ん?」
「どうしてこの写真がここに? 家にあるはずなのに……」

 ―――しめた!
 何か思い出したようだ。

「なあ、これはおまえの家族なんだよな?」
「そう。セイ。お母さん。……。リヤ。……。私。コウ。リナ」

 亮は丁寧に左から順に指差して教えてくれる。
 だが黒く塗り潰されている二入はとばかして。

「この塗り潰されてる二人は?」
「……わからない」

 どうやら、この二人については思い出せていないらしい。

「なんで、この写真を持っていたの?」
「なんでって、さっきいったじゃねーか。この前おまえん家行ったときにみつけたって……」
「この前って、いつ?」
「いつって……」

 アレフは前にも感じた違和感を感じた。
 それに普段やあの時、初めて話しをした時よりも喋り方も声のトーンもなんだか幼い。

「亮、おまえどうし……」
「私は亮じゃないわ」

 ―――亮じゃ、ない?

「私、は……」

 急に亮の体中から力が抜けるようにバランスを崩していく。

「あ、あぶねっ!」

 アレフが慌てて亮を抱きとめたので倒れはしなかった。
 亮は気を失っている。

『この前って、いつ?』

 先程の亮の声が脳裏に甦る。

『私は亮じゃないわ』

 自分を真っ直ぐ見て言った目。
 嘘を付いているようには見えなかった。

「なんなんだよ、いったい……」

 訳が判らず、アレフはただ立ち尽くしていた。





 


亮祐:管理人です。副題の意味は不可解な言動。副題どおりになって良かった。
翔:行き当たりばったりで書いてるの!?
亮祐:以前の加筆修正では台詞削ったり、墓参りなくしたりしましたが今回は特に変わらず。ここでちょっとおさらいです。亮くんが見つかったのは20日のAM。目覚めて家に向かったのが25日。これはこの次の日の出来事だから26日ということですな。
翔:ややこしいな!
亮祐:次はトリーシャ視点で話が進みます。エンフィールドを案内していた時の話も書きたいなと思いつつこの辺で。


BGM:命の儚さ/「煉獄庭園」

モドル | トジル | ススム

-Powered by 小説HTMLの小人さん-