あの屋敷の出来事の翌日。
陽のあたる丘公園に暖かな陽光が注いでいる。
「アレフ! 早く早く!」
亮が笑顔で離れているアレフに向かって手を振っている。
二人はエンフィールドの案内がてら気分転換として外へ出ていた。
全てを回ったので最後にここへ来たのだが、自分は疲れているのに亮は疲れのつの字も見せない。
「悪ィけど、俺そこのベンチで休んでるから……」
「うん、わかった」
返事をすると亮は向こうの広場に駆けて行く。
アレフは微笑ましく感じながらベンチに腰をおろした。
「あの元気はドコから出るんだろうな」
ほんの一つ二つくらい違うように見えるだけなのに
遠目から見ても近くから見ても亮は女にしか見えない。
今日だけでも会った知り合い全てには「また女を引っ掛けたのか」と言われ、女の子達には「どこの女だ」と迫られ、挙句の果てにちょっと目を離した隙にナンパまでされていた。
必死でワケを話したり、弁解したりしたのに当の本人は首を傾げるだけで……。
たまらずアレフは溜息をついた。
今日だけで何度ナンパ野郎どもにイライラしたか。
それもこれも、亮が似ている所為だ。
雪のように白い肌。
美しい紫電の瞳。
儚げな微笑。
全てがスクルドを思い出させる。
けれど、それ以上でも以下でもない。
ただ似ているだけ。
それなのに何故いらついてしまうのか。
―――まるで、そいつらに嫉妬してるみたいじゃねーか……
アッホらし、と呟いてポケットに手を突っ込んだ。
カサ、と手に何かが当たった。
何だと思い取り出してみる。
それは写真だった。
四人の男女と、五人の子供の写真。
亮の家で見つけたものだ。
―――そういやー、あのとき思わずポケットに突っ込んだんだっけ…
屋敷で得るの悲鳴を聞いた時に慌ててつっこんだのだ。
そうだ。これを亮に見せれば何か思い出すかもしれない。
それにこの塗り潰されている意味もわかるかも。
アレフは立ち上がり、亮の元へ移動した。
「休憩終わったの? アレフ」
「あのさ、この写真、おまえん家で見つけたんだけど何か思い出せねーか?」
「写真……?」
亮は差し出された写真を受け取ると無言で見つめた。
やがてゆっくりと口を開いた。
「……どうして」
「ん?」
「どうしてこの写真がここに? 家にあるはずなのに……」
―――しめた!
何か思い出したようだ。
「なあ、これはおまえの家族なんだよな?」
「そう。セイ。お母さん。……。リヤ。……。私。コウ。リナ」
亮は丁寧に左から順に指差して教えてくれる。
だが黒く塗り潰されている二入はとばかして。
「この塗り潰されてる二人は?」
「……わからない」
どうやら、この二人については思い出せていないらしい。
「なんで、この写真を持っていたの?」
「なんでって、さっきいったじゃねーか。この前おまえん家行ったときにみつけたって……」
「この前って、いつ?」
「いつって……」
アレフは前にも感じた違和感を感じた。
それに普段やあの時、初めて話しをした時よりも喋り方も声のトーンもなんだか幼い。
「亮、おまえどうし……」
「私は亮じゃないわ」
―――亮じゃ、ない?
「私、は……」
急に亮の体中から力が抜けるようにバランスを崩していく。
「あ、あぶねっ!」
アレフが慌てて亮を抱きとめたので倒れはしなかった。
亮は気を失っている。
『この前って、いつ?』
先程の亮の声が脳裏に甦る。
『私は亮じゃないわ』
自分を真っ直ぐ見て言った目。
嘘を付いているようには見えなかった。
「なんなんだよ、いったい……」
訳が判らず、アレフはただ立ち尽くしていた。
亮祐:管理人です。副題の意味は不可解な言動。副題どおりになって良かった。
翔:行き当たりばったりで書いてるの!?
亮祐:以前の加筆修正では台詞削ったり、墓参りなくしたりしましたが今回は特に変わらず。ここでちょっとおさらいです。亮くんが見つかったのは20日のAM。目覚めて家に向かったのが25日。これはこの次の日の出来事だから26日ということですな。
翔:ややこしいな!
亮祐:次はトリーシャ視点で話が進みます。エンフィールドを案内していた時の話も書きたいなと思いつつこの辺で。
BGM:命の儚さ/「煉獄庭園」