拘束衣のような黒い服。
褐色の肌。
銀色の髪。
「よお、五月☆」
そして両目を隠すように覆われている眼帯。
「ホギャーーーーーーッッ!!!」
全ての条件に唯一当てはまる人物、シャドウの突然の出現に五月は訳の解らない悲鳴を上げた。
事の始まりは弟の如月の今日の稽古を終えたこと。
屋敷へ戻ろうとした時、何故か横の倉のことが気になり、入ってみると置くにかなり年代物の書物を見つけた。
どんな書物かと思って手に取った途端、辺りに幾筋もの閃光が走ったかと思うと己の中からシャドウが姿を現した。
「何もんなバケモンにでも出会った悲鳴あげんなよ」
「上げるに決まってるだろっ! 何でおまえ外に出てきたんだよっ! 俺の中に戻ったんだろっ!?」
「あ〜? いった筈だぜ? またいつか生まれてくるかもしれねぇってな」
いつもの愉快そうな笑みを浮かべるシャドウは前と全然変わっていない。
自分の分身といえどこいつのことだ。
今度はいったい何を企んでいることか。
「くそ! こうなったら今度は俺の中に戻すんじゃなく消滅させてやるっ!」
「あ? おまえ何いって……」
「問答無用っ!!」
五月は持っていた書を放り出し、持っていた剣を構えた。
けれどそれは叶わなかった。
運悪く父の長月と弟の如月が現れたから。
「何じゃ、騒がしい」
「何やってんの? 五月兄」
二人の眼がシャドウの姿を捉えた。
シャドウのことだ。
己を維持しようと五月に憎まれるためならこの二人に何かしかねない。
「二人とも危ねぇ!」
慌てて五月は二人を守ろうと反応する。
――が
「よぉ、爺とチビ」
「おまえか、シャドウ」
「あ、シャドウ兄」
普通に会話を交わす3人の様子にっす転んだ。
「ちょ、ちょっとお三人さん……?」
「なあ、まさか五月の奴、まだ俺のこと思い出してねぇワケ?」
「うむ。そのようじゃな」
「あの……」
「シャドウ兄、そのチビってゆーのやめろよ。俺もう18だぜ?」
「バーカ。俺から見りゃてめえはチビで十分だ」
「――って、俺の話を聞かんかいっ!!」
「「「何だ(じゃ)?」」」
「何で親父も如月もシャドウと平然と話ししてんだよっ!? つかお互いのこと知ってたのかっ!?」
五月はもう混乱していた。
いきなりシャドウが現れたり、そのシャドウが平然と父親や弟と親しそうに話したり。
もう何が何だか解らない。
「んなの当たり前じゃん。シャドウは五月兄が小っさかった時にタナトスの書から生まれて以来の付き合いだし」
「はあっ!? タナトスのって、これがあっ!?」
「落ち着けい、五月。儂が最初から話そう」
如月から理由を聞いても未だ混乱している五月に長月が詳しく説明した。
「いかにも、それは偉大な魔術師タナトスが世界各地に残されたタナトス本人の魔力が込められとるタナトスの書じゃ」
「何だってんなもんがこんな倉ン中に?」
「元は先々代の神月流当主がタナトスと知り合いでな。そういった経緯で譲り受けたのはいいが使う者が全くおらんかった。まあ元は武術の家系じゃからのう。そういう訳で盗まれんよう大切に倉の中へ保管しておったが15年前、おまえがいたずらでその書に触れてのう……」
「――で、俺が生まれたってワケ☆ お分かり?」
「何でそんなことでこいつが生まれんだよっ!?」
「おまえの魔力と書の魔力が共鳴したからであろう。元々、おまえの魔力は武術家系の者にしては高かったからのう。まあ、魔力の殆どがおまえの負の感情であるシャドウ形成の為に使われとるから今のおまえの魔力は人並み
程度でしかないが」
「はぁ〜……」
最後まで説明を聞いた五月はへなへなとその場に座り込んでしまった。
「大丈夫かぁ? 五月」
「大丈夫ですむなら騎士団なんかいらねぇよ……」
訊ねるシャドウに力なく五月が返答した。
まさか自分とシャドウがそんな昔から付き合いがあったなんて。
驚かない方がどうかしている。
「じゃあ、おまえが再び出てきたのも俺がそれに触ったからか……」
「まあ、そうだな」
シャドウが返事をしながら先程五月が放り投げた書を拾い上げた。
タナトスの書。
それがシャドウが産まれてきた根元だった。
「ついでにいうと、俺がおまえに憎まれようとしたのもこれがおまえの手元から離れてたからさ。これがおまえの手元にないと、俺はおまえに憎まれねぇ限り存在できないんでね」
シャドウが持っていたタナトスの書を五月に差し出す。
「今度はちゃんと肌身離さず持ってろよ? でねぇと俺はまたおまえに憎まれねぇとなんねぇからな」
「あ、ああ……」
戸惑いながらも五月は愉快そうな笑みを浮かべているシャドウからタナトスの書を受け取った。
―――あ……
すると脳裏に昔の記憶が甦った。
シャドウと初めて出会った時のこと。
陸月同様、兄弟のように育ったこと。
そして家を出る前、自分はこの倉に寄って普段から肌身離さず持っていたタナトスの書を置いて行った時のこと。
「シャドウ」
「あ?」
「その、悪ィ……。今思い出したよ、昔のこと。本当に俺のせいだったんだな……。だから……ごめん……」
あの時、自分が何故タナトスの書を置いていくことにしたのかはまだ思い出せない。
けれどそれによってシャドウは五月に憎まれ自分を維持する為にあんなことをしでかした。
いくら自分を維持するためとはいえ辛かったことだろう。
そう思うと胸が酷く痛んで仕方なかった。
「構わねぇよ。思い出してくれたならそれで帳消しだ」
シャドウは子をあやすように五月の背をぽんぽん、と叩く。
その顔にはあの笑みではなく、優しい笑みがあった。
亮祐:管理人です。これで五月とシャドウの関係が判明しました。
あくまでもゲームのままでいきたかったのであまりオリジナル要素を出さないようにしました。違うとこといったらタナトスぐらいかな? この話のオチが別館にありますが見なくてもいいオチです。ではこの辺で。
BGM:『夢じゃない』/スピッツ