「――で、結局おまえらって何なワケ?」
「アルベルトへの攻撃はどうやったワケだい?」
「やっぱり陸月さん、五月さんのこと知ってたんだ」
「もう一回勝負しろっ! 次は勝つっ!!」
「ストップストップッ!!」
押し寄るアレフ達に五月と陸月が後ろへ下がる。
「いっぺんに訊かれても答えられないってっ!」
「順番にきいてよ。まずはアレフから」
「んじゃ、おまえらって結局なんなワケ?」
「従兄弟同士だよ」
「神月流の兄弟弟子でもあったよねv」
言われてみればこの二人は何所となく似ていた。
性格こそ違えど風貌はよく似ている。
「じゃあ、さっきの攻撃はなんだったんだい?」
「ああ、それだったら実演するよ」
リサに五月が答えるとアルベルトの前に立ちはだかった。
「アル、槍振り下ろせよ」
「な、なんで俺が!」
「おまえしかいないだろ?」
「そうだよ。遠慮なくさっきと同じ力でいいから」
「ったく……」
陸月に言われてしまえばするしかない。
言われた通りアルベルトは先程と同じスピードで槍を振り下ろした。
「まず、槍を足で受け止めただろ?」
だが五月はいとも簡単に足で受け止めた。
「そんで槍を蹴り飛ばす!」
飛んだ槍が先程と同じ箇所に突き刺さる。
「最後、足を相手の首にかけてそのまま前に倒すっ!」
そして抵抗させる暇も与えず、アルベルトを先程と同じように倒れさせた。
「すご〜い」
「お〜お」
「……ねぇ、この技ってもしかして」
「さすがリサ、気付いたみたいだねv」
感心しているトリーシャとアレフをよそにリサが気付いた。
勿論、陸月はそれを知っていた。
「五月さんがかけた技は未完成版、完成版は首にかけた足にもっと力を入れて倒した時に相手の首の骨を折る殺人技なんだv」
「さっ、殺人技っ!?」
何気なく告げた陸月にアレフがびびった。
―――語尾にハートをつけて説明するなよ…
そう言ってやりたかったが陸月に意見する勇気などアレフにもなかった。
技をかけられたアルベルトが慌てて起き上がる。
「おい五月っ! 人にそんな危険な技、二度もかけやがってっ!!」
「だから未完成版だっていっただろ? 完成版をかけるわけないだろ」
「それに、アルベルトみたいにデカいと足を巻きつけるのがやっとで力が入らないから、どうしても完成版は無理なんだよねv」
二人はいけしゃあしゃあと言葉を投げた。
続いて陸月が五月に訊ねる。
「ところでさっちゃん、どうして2年前 僕を訪ねてエンフィールドに来たの?」
「え、あ〜、それは……」
五月がばつが悪そうにポリポリと頭を掻く。
けれど陸月は五月がエンフィールドに来た理由を察知していた。
「もしかして、家を継ぐのが嫌だったから?」
「う!」
五月の胸に陸月の言葉の刃が突き刺さる。
「僕が思うにさっちゃんは、師匠である父上に家を継ぐよういわれたけどそれが嫌で」
「う!」
「弟の如月くんにそれを無理矢理押し付けて」
「ぐ!」
「僕を頼ってエンフィールドに逃げてきたってところかな?」
全て図星だったらしく五月には無数の言葉の刃が突き刺さり、最後はぐうの音も出ていなかった。
「なんだ、逃げてきたわけか」
「情けないねぇ、ボウヤ」
「2年も前のことだろっ!そ れにもう決着つけてきたわいっ!!」
アルベルトとリサの言い様に五月が真っ赤になって怒っている。
弁解の意も込めて話した。
1年前、エンフィールドを出たのは家に帰っていたからだということ。
家を継ぐ意思はないと言い切ってやったこと。
「ちゃんと話しつけてきたぜ。これ以上家に縛られたくなかったし、エンフィールドのみんなとも別れたくなかったからさ」
「五月……」
きっと説得するのは難しかっただろう。
何せ全大陸に存在する流派の元締めの座を、世界最強を継がないと言い切ったから。
けど、いったいどう説得したのだろう。
「だから弟を1年かけて鍛えてやった」
―――ズルッ
陸月以外の全員がすべった。
―――弟でもいいのかよ……
全員が思っていた。
「あいつも才能はあるからさ、俺の愛のスパルタ修行で全ての技習得させてやったぜ。ま、俺にはまだ劣るけどな」
「ほんとさっちゃんらしいねv」
ガハハと笑う五月に陸月だけはいつもと変わらぬ笑みで対応していた。
「じゃあ、もう急にいなくなったりしないよね? 五月さんっ」
「ああ」
訊ねたトリーシャに五月は返事をしたその時、アルベルトが槍を構えた。
「じゃあ、五月っ! 俺との決着っ、つけさせてもらうっ!!」
「うおっ!?」
振り下ろされた槍を五月は寸前で避けた。
「ここはやっぱ…逃げるか」
“めんどくさい”と判断した五月が一番近い窓から外へ逃げていく。
「まちやがれ、五月っ!!」
「あ〜、ボクも行く〜っ!」
「ちょ、まちなってっ!」
アルベルトとトリーシャ、そしてリサも追いかけて外へ出て行った。
アレフも外へ出たが追いかけはせず、五月の背中を見ている。
いつもの日々がやっと戻って来た。
それを実感して大声で叫んだ。
「五月ーーっ! アリサさん特性の晩メシまでには戻ってこいよーーーっ!!」
その声に、五月は逃げながらも手をふってくれた。
帰るべき街。
それは必ずしも故郷というわけではない。
少なくともこのジョートショップの青年にとってはこのエンフィールドが帰るべき街なのだ。
END
亮祐:管理人です。最後の三行は一分で考えました。(爆)実は2002.2.25〜2003.12.9という約二年かかって書いたんです。
翔:かかりすぎだよ!!
亮祐:ではこの辺で!
BGM:『空も飛べるはず』/スピッツ