EMPTY A CONCEPTION

memory

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 ―――せいちゃん

 話しかけるは幼い子供。
 幼い、黒い髪と紫電の瞳。

 ―――どうして、りょうはスカートばっかりなの?

 答えるは黄金の髪。
 白い白衣を、纏う。 

 ―――りょうだって、コウちゃんたちみたいにズボンがいい。
 ―――いいよ、リトル亮はスカートで。





「おはようございます」

 玄関のベル音と共に現れたのは女だった。
 侍女のような衣服に、無機質な表情。
 両手には大きなダンボール箱を抱えている。

「君は……」
「里矢」

 女の名を呼ぼうとアレフをよそに、亮がその名を呼んだ。

 里矢。
 一週間前、西の山で出会った亮の家族の一人。
 閉じ込められてた岩の檻を聖と共に破壊した女。

「亮クン、お知り合いの方?」
「あ、里矢は」
「亮さんの妹さんっス!」

 事情を知らないアリサにテディが説明を始めている。

「あともう一人妹さんがいるっスよ。そっちはすごく怖い人っス……」
「そう。はじめまして。私はアリサ・アスティアです」
「里矢です。亮さまがお世話になってます」

 そう言って、里矢はアリサにお辞儀した。

「里矢、今日はどうしたんよ?」
「これを」

 里矢は抱えていたダンボール箱を机に下ろす。
 ダンボールなので重さ自体は大した事なさそうだが、それでも抱えないと運べない程大きな物だったので運んでくるのは大変だっただろう。

「亮さまが昔着ていた衣服です。幼少の物と二年前までの物を。記憶を思い出す手助けになるかもしれないから持っていくよう、聖さまから言付かりました」
「聖が……」
「そうだったの。大変だったでしょう」
「そんなことはありません。亮さまの記憶が戻るのであれば」

 そうは言うものの、実際は大変だっただろう。
 亮の家までの道のりはかなりのものだった。
 健気だと思う。
 一方、亮は別のことを考えていた。
 初めて里矢とあった時から感じているもの。

「なあ、里矢」
「はい」
「その、この間から思ってたんだけど……」
「はい」
「聖から里矢は俺の妹って聞いたけど、双子なんか?」

 同じ顔に同じ瞳。
 まるで鏡のように。
 だからそう思った。

「いえ」

 だが返ってきた答えは否定だった。

「妹ではありません。血も繋がっていません」
「え?」

 聞いた全員が面食らった。
 だがこの間、ジョートショップで聖が確かに妹だと言っていたが―――。

「じゃ、じゃあもしかして両親は再婚で、片親の連れ子とか?」
「違います」
「養女なんスか?」
「違います」
「……実は母親?」
「違います」

 亮、テディ、アレフの推理全てが否定された。
 というか、一番最後は無謀すぎる。

「――ですが、亮さまはそのように思ってくれていたのかもしれません。だからこそ聖さまはそう申したのでしょう。妹というのもある意味では当たっていますから」

 それ以上、里矢は答えなかった。
 気にはなるが、答えてくれないのであればどうしようもない。

「あ――こ、これ、置いてくるから。そしたら一緒に出かけんか?」
「はい」
「アレフも一緒に行こう? な?」
「あ、ああ……」

 懸命な亮の迫力にアレフは途惑いながらも答えた。
 そして、亮は里矢が持ってきた箱を抱えて自室へと階段を駆け上がって行った。










 駆けて来た亮は自室に入るなり後ろ手で扉を閉めた。
 ふう、と溜息を吐く。

 ―――いうタイミングを失ったな
(完璧ということじゃないんだろうな)

 実は、亮は記憶を取り戻していた。
 今朝見た夢は自分の幼少の頃の記憶の追体験だった。
 まばらだったが、それでも家族と一緒だった頃の記憶は取り戻していると思っていた。
 里矢の、あの発言を聞くまでは。
 それならまだ言わなくてもいいだろう。
 せめて、家族との記憶を完全に思い出すまでは。

 ―――今朝見た夢も、途中で終わったしな
(あの後、聖はなんていったんよ?)

 夢で追体験したのだから、最後まで思い出せる筈だ。

(最後に見たのは……)



 ―――どうして、りょうはスカートばっかりなの?

―――あれ?



 ―――そういえば

「……」

 ―――どうして スカートなんか



 ―――いいよ。リトル亮はスカートで

 ―――はい

 ―――だって、リトル亮は

 ―――て



 ―――女に、分化するんだから。



「あれ?」

 ドサッと、抱えていたダンボールが落ちた。

 散乱した箱の中身は、夢の中で着ていたエプロンドレスと



 今着ている服と同サイズの、ドレスと、女物の下着。



(今、とんでもないことを思い出したんじゃ……!?)

 思い出せた記憶と箱の中身にただ呆然と立ち尽くしていた。





END


亮祐:管理人です。亮、女の子疑惑。
翔:マジで性別誤認……?
亮祐:「family」の後書きでいってた「ある人物の重要なネタバレ」というのはこのこと 。里矢が「長女は成人をむかえるとアマデウスを継ぎます」と言っていましたが、男であるはずの亮なら長女ではなく長男となっていなければ辻褄があわないのです。解った人、ありがとう。次回は「エンフィールド」 の続きかトーヤ視点のものかになる予定ですが、もしかしたら先へ進むかもしれません。では。この辺で。


BGM
アンナ・マグダレーア・バッハの音楽帳 メヌエット ト短調/作曲バッハ midiファイル作成「トオリヌケデキマス」
日光浴/「TAM Music Factory」
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