EMPTY A CONCEPTION

鎮魂歌  1

Photo:voil モドル | トジル | ススム

 暖かい陽光が美しく狂い咲く桜を照らしていた。
 風に吹かれて花弁が散っていく。
 その中に二人の姿。

「約束よ、理奈ちゃん」

 少女が、笑う。
 その様はまるで桜の精のようで。

「必ず、ここへ戻ってきてね」

 少女は信じていた。
 また会えると。
 だからこそ少女は笑う。

「私、ずっと待ってるから」

 相手の少女も静かに笑む。
 これが今生の別れだと悟られぬように。

「この大きな桜の木の下で」

 桜が風に吹かれて散っていく。
 まるで人の生き様のように。
 少女の生き様のように。





「理奈」

 振り返った理奈は目の前の人物を見て少し驚いているようだった。
 闇のように黒い漆黒の髪と神秘的な色合いの紫電の瞳。
 名を呼んだのは彼女の兄である亮と里矢だった。

「亮……。里矢……」
「俺もいるぜ、理奈ちゃん」

 呆けている理奈にアレフがすかさず口を挟んだ。
 自分の存在にも気付いてもらいたかったのだが理奈の目にアレフの存在は眼中にないらしく、目も合わせようとせず亮と話す。

「どうしたの。休日はトーヤ=クラウドとかいう医者のカウンセリングじゃあないの」
「あ〜、実は……」

 亮はポリポリと頬を掻きながら話し始めた。
 ここしばらく、多数の人々が原因不明の貧血を訴え、とうとう休日にも患者が押しかけていた。
 自警団もただ事ではないと調査に踏み込んでいるものの患者にこれといった接点はなく、全く原因が判らない。
 これでは出来ないからとカウセリングは七月から夜間に変更していた。

「患者が多いなら仕方ないわね。でも、夜に歩き回るのは危険なんだから休みにしてもらえばよかったのに」

 少し機嫌を悪くしたようだがそんなに怒っていない理奈の様子に亮はほっと安堵の溜息を吐いた。

「――で、理奈ちゃんは?」
「答える筋合いなんてない。気安く呼ばないで」

 それだけいうとそっぽを向いてしまった。
 これしきの事で諦めるアレフではない。
 冷たい対応もこちらからしてみれば魅力の一つだった

「そんなこといわずにさぁ。でも……」
「"そんな意地悪な所も君の魅力の一つで可愛いよ”なんていうつもり? 悪いけど興味ないの。大っ嫌い。最悪。死んで」

 流石にこれには絶えられず石化し、チリとなって崩れ落ちた。
 容赦ない理奈に亮は苦笑いを浮かべていた。

「――で、理奈は何でここに?」
「……アタシは」



「約束を、果たしに―――」

 理奈はぽつりぽつりと話しを始めた。
 話しによると理奈にはエミーリエ・ベルガー、通称ミリィという一人の親友がいた。
 エンフィールドを発つ一年前に必ず約束の場所で再会しようと約束をしたのだ。
 約束の場所はローズレイクの木の下。
 けれど親友がいるかまでは解らなかった。

「いると思うぞ。少なくとも俺がその子の立場ならな」
「でも……」
「くよくよしてもしょうがないぞ。ほら」

 亮は理奈の手を取るって引き寄せるとそのまま走り出す。
 突然の行動に理奈も少々驚いた。

「!? ね……っ」
「ローズレイクへGO!」

 そしてそのままローズレイク方面へ走り出した。
 昨日、数年ぶりに家族と再会したためか、初めの頃と比べられないほど亮は明るくなり、よく笑ったりはしゃいだりする様になっていた。
 亮が明るくなることは嬉しいことだが、あれではますます自分より年上には思えない。
 見失うまいとアレフと里矢も二人の後を追いかけていった。










「ここよ」

 理奈が約束した場所はローズレイクの奥、アレフもあまり来たことがない所だった。
 言っていた通り木もちゃんと存在している。

 季節外れの、満開の桜が。

 この桜だけが何故いつまでも花を咲かせられるかは誰も知らない。
 エンフィールドの七不思議の一つだ。
 いつも通り桜は風に吹かれてさらさらと花弁を散らしている。
 亮はふと感じた疑問を理奈に聞くことにした。

「そいえば、何でここで会うことにしたんよ?」
「ミリィと出会ったのがここだったの。待ち合わせも遊ぶのもここだったから」
「他の所には行かなかったのか?」
「関係ない」

 理奈の態度は相変わらずだ。
 ショックを受けながらも回りを見回すが彼女らしき女性はおろか、人っ子一人もいない。
 元々、気味が悪いのでこの桜に近付く者は少なかった。

「誰もいねぇな……」
「じゃあ彼女の家に行こう。理奈、家わかるか? それと、大丈夫か……?」
「平気……」

『理奈ちゃん…―――』

 桜に背を向けていた理奈が急に後ろへ振り返った。

「理奈ちゃん?」
「―――何でも、ない……」

 理奈は桜を見つめていたがすぐに踵を返した。
 そして3人は彼女、ミリィの家に向かって歩き出した。





 


亮祐:管理人の亮祐です。普段誰に対してもドツンな彼女ですが、亮にだけは甘いのです。亮への溺愛ぶり発覚ですな。 ローズレイクの桜はオリジナルです。ちなみに他の連載4作のエンフィールにもローズレイクに桜が有ります。五月とエレンのほうじゃまだ語られてないけれども。理奈の親友を探すことになった四人。この先に待ち受けるものは。理奈は親友と再会できるのか。それは行き当たりばったりです。
翔:駄目だろ、そんなんじゃ。
亮祐:ではこの辺で!


BGM:春夢/「Close to Infinity」
    2声のインヴェンション第2番/作曲バッハ midiファイル作成「トオリヌケデキマス」

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