山から降りることになったが、亮達は一度フサの集落へ戻ることになった。
今、亮はフサの集落で長と話をしている。
「話はおまえ達に助けられた仲間に全て聞いた。いうなればそのトリーシャという娘も被害者だったんじゃのぉ。それにその娘はもう助けたのだからそのまま街へ戻ってもいい筈であったのに、またここへ戻ってくるとは……」
「だって、一度ここに戻れっていわれたから」
ここを離れる時、長に言われた。
投げられたような言葉でも約束は約束だ。
「それに、誤解を晴らしておかなきゃトリーシャも気になると思って」
「うむ。確かに全て我々の誤解であった。人間が全ておまえ達のようなら我々もどんなに気が楽か……」
「そうっスね……。結局フサの仲間を連れ去ったのも人間であるシャドウっスからね……」
「おいおい! ありゃ人間か? とてもそうは見えねーよ!」
アレフの言う通り神出鬼没な彼を人間と言い切るのは少々疑問がある。
そしてトリーシャも長に謝罪した。
湖畔で助けたフサの子が長の後ろから顔を出す。
「あの時はありがとう!ね、長さま。僕がいったとおりこの人たちは信用できる人たちだったでしょ?」
「ああ、そうじゃな」
「そ、そうかぁ?」
「なんか照れるっス!」
「おまえさんたちのような人間なら大歓迎じゃ。いつでもここを訪れてくれ」
「はいっ!」
トリーシャの元気な返事が森に響いた。
亮は屈んでフサの子に目線を合わせる。
「フサくん、あなたもありがとう」
「え?」
「だって、あなたが長に口添えしてくれたからトリーシャを助けられたんだもの。だから」
「ありがとう」
微笑を浮かべる。
美しい、花開くような微笑。
その美しさにフサの子が紅潮した。
周りにいた者も紅潮した。
アレフも紅潮していた。
その微笑に、あの人の面影が重なったから。
「…………あの……」
フサの子が紅潮したまま話し出す。
「助けられた時から思ってたんだけど、もしかして……」
「おねえさんはアマデウスなの?」
アマデウス。
先程、里矢も言っていた名。
でも、それ以上にこれを言っておきたかった。
「俺は、男、なんだけど……」
「エ」
フサの子の顔が固まった。
そしてフサ達全員から驚きの声が上がった。
長も含め全員から女と思われていたようだった。
フサ達が集落から去っていく亮達を見送っている。
完全に姿が見えなくなったところでフサの子は長老に話しかけた。
「あの人、お兄さんだったんだね」
「うむ……」
初め見た時、長もてっきり亮を女だと思っていた。
あの心優しさ、美しさ、そして花開くような微笑。
どこをどう見ても女としか思えなかった。
というよりあれで男だったら詐欺としか思えない。
「あの人が助けてくれた時、思ったんだ。アマデウスが僕を助けにきてくれたんだって」
「じゃが、仮にあの青年が女じゃったとしてもアマデウスではなかろう。アマデウスは」
「白銀色の髪をもつ女といわれておるからのぉ」
長の声が森の中に消えた。
亮祐:管理人です。トリーシャ救出後のフサの集落での情景です。フサからも女と思われたよ。
翔:どんだけ女顔なんだよ!!
亮祐:前回から出てきたアマデウスという言葉が今回フサからも出てきました。果たしてどんな意味を持つのか。ちなみに聖達はリカルド達自警団と山を降りてます。では続きます。
BGM:命の儚さ/「煉獄庭園」