頂上に到着した。
気持ちの良い風が吹いている。
「や〜っと着いたぜーーっ」
アレフはドカッとその場に座り込んだ。
何せここへ来るまで木を乗り越えたり、ガケをよじ登ったり、命綱はあったがぼろぼろの橋を渡ったりと体力精神力共にかなり消費し、へとへとなのだ。
まあ、そのおかげでアルベルトより早く来ることが出来た。
「どうやらここで行き止まりみたいっすよ。ここがドラゴンの住か処っスかね?」
亮の腕の中でテディが周りを詳しく見渡した。
「誰だあ? そこにいるのは」
「うわっ!?」
気配を感じさせずに現れた一匹のドラゴン。
座り込んでいたアレフも慌てて立ち上がった。
「ひゃぁ〜っ! 出たっスーーッ! おっかないっスーーーッ!!」
「あなたがこの山のドラゴン? ここに人間の女の子がいるハズなんだけど……」
「ん〜? 何のことだぁ? 俺にはさーっぱり分かんねぇぞ?」
「亮さ〜ん、アレフさ〜んっ!!エル〜っ!!」
声がした方向を見てみると牢に入れられたトリーシャが手を振って助けを求めていた。
よく見てみるとそこにいるのはトリーシャだけではなかった。
「おーい助けてくれーっ!!」
「あら? フサもいるわ。それに……」
「おおっ! きれいなお姉さっ……」
「こんなときでもそれしかいえないのかっ!」
エルの鉄拳がアレフの脳天に直撃した。
それにしても牢にいる彼女たちは実に上玉だった。
そんなアレフに呆れながらも亮はドラゴンと話を続ける。
「あの、そこにいる人たちを返してもらえませんか?」
「それはできんなぁ。近頃じゃあ、いまいましい自警団のおかげでめっきり口にできなかった人間だしなぁ。なんならおまえたちも食ってやろうか? ヒャッヒャッヒャッ!」
「ボクなんか食べてもおいしくないっスぅ〜」
「見りゃ分かる」
そんなこんなでジョートショップの面々は対ドラゴンの戦闘へ突入した。
一方、トリーシャは格子の外にいる皆を観戦しながら溜息を吐いていた。
元はと言えば自分がエンフィールドの外へ出さえしなければこんなことにはならなかった筈だ。
何かをしたかった。
皆の為になることを。
「そうだっ! ボクの魔法でこの檻を壊せば……」
「悪いけど、それは無駄。この牢全体に魔法封じの結界張られてる。トリーシャちゃんの魔力じゃこれを破るのは無理」
「じゃあ、どうすれば……」
「―――簡単」
トリーシャを横切って理奈が前に出てきた。
「魔法が駄目なら、力技で壊せばいいだけだもの」
そのまま右手の甲に口付ける。
それが何の意味を持つかトリーシャには解らない。
けれど、その様が酷く美しく優雅に見えた。
まるで親愛なる女王に戦の勝利を約束する騎士のように。
そして何か言おうと口を開けるが、その肩に聖の手が置かれた。
「理奈がやるまでもないよ。大人しくしてなさい」
飄々とした聖の態度に、憎々しそうに睨みつける。
けれど聖は気にしていないのか、視線をジョートショップメンバーにやった。
「ま、俺にかかりゃ当然だな」
「やったっスかっ!?」
倒れこんだドラゴンを見てアレフや、亮の背中にへばりついていたテディは勝利を収めたかのように見えた。
「ヒャッヒャッヒャッ! なかなかやるねぇーっ!」
だがドラゴンは何事もなかったように起き上がってきた。
「アレフッ! ちゃんと手ごたえはあったんだろうねっ!?」
「あったってっ!!」
間違いない。
先程の一撃には確かに手ごたえがあった。
アレフ達が困惑しているのをよそにドラゴンの姿はみるみる人の姿へと変わっていく。
「ヒャーッハッハッハッ! 驚いたかい? 驚いただろぉ?」
拘束衣のような服に両目を覆う眼帯。
ドラゴンの正体はシャドウだった。
シャドウ。
前回の目薬茸騒ぎでは洞窟の番人と偽り、今回はエンフィールドから飛び出したトリーシャを街の外へ出した張本人。
「ここにいたドラゴンはあんまり弱っちいんでな。俺が倒しちまったよっ! ヒャハハハハッ! そこにいるフサもフサたちを逆上させるために俺がさらった奴だっ!」
「じゃあ、フサの長がいってた拘束衣のような服の男も?」
「ただ殺すだけじゃあおもしろくねぇからこんなシチュエーションにしてみたんだぜっ! 楽しんでいただけたかな?」
「どうして、こんなマネを……?」
「どうして? ヒャッヒャッヒャッ!俺はただもっとおまえに憎んでもらいたいだけさっ!」
「憎んでって……オレは貴方を憎む理由なんてないし、憎まれるようなことをした覚えだって……!」
「クックックッ、別におまえを恨んじゃいねーよ」
「じゃあ、どうして……」
「ヒャッヒャッヒャッ!悩め悩めっ!そしてもっと俺を憎んでくれっ!!」
この男、本当に訳がわからない。
いったい何者なのか。何が目的でこんなことをするのか。
少なくとも、理由もなくただ亮に憎まれたいが為にこんなことをする人間がいるとは到底思えない。
そもそも本当に人間なのか。
「そんなことより第2ラウンドといこうかぁっ!?」
そしてシャドウのこの言葉により再び戦闘体制をとった。
一方トリーシャ達もドラゴンが自分達を攫った男へと変化したことに驚いていた。
「な、なんでドラゴンがあの人に!?」
「彼がドラゴンの正体だから。本物のここのドラゴンは彼の手によってとっくに始末されてるってことかな?」
聖が解説する。
と言うことは彼の魔力はかなりのものだ。
勝ち目がないかもしれない。
「そろそろ潮時か……」
聖が面倒臭そうに呟いた。
「しょうがない。みんな、ちょっと奥へ。里矢はこっちへ」
言われた通り全員奥の方へ、里矢も聖の元へ移動した。
「術で牢を攻撃するから里矢は追撃を。それで完全に破壊できる」
「解りました」
「それなら、アタシでもできる」
「理奈はトリーシャちゃんとそこにいなさい。里矢の方が都合がいいし、確実」
発言が気に入らなかったのか、理奈が苛つきながら聖を睨みつける。
聖はその様子に困ったように笑うが、それだけで檻に目を向けた。
そしてゆっくりと右手を前に突き出し、魔法詠唱のための精神集中が始まる。
だが聖は先程、ここには魔法封じの結界が張られているといったはずだ。
結界を解く魔法しても、結界はそれを張った術者本人か術者以上の魔力を持った者でなければ効かない筈。
聖の魔力はトリーシャよりは大きそうだがこの結果を破れる程とは思えなかった。
「……切り裂け」
たった一言だけ。
それだけの言葉で右腕のブレスレットが光りを放ったかと思うと、何もなかった空中から無数の刃が現れた。
風の鎌。
風属性の魔法だ。
「エアスラスト」
呪文の言葉が響いたと同時にそれが放たれ、檻に激突した。
「へえ……」
「まあ……」
「あれは、魔法か……?」
「お〜おっ!」
突然の出来事にアレフ達も感心していているようだ。
というより、あんなものがあるならもっと早くしてほしかった。
けれど、残念ながら破壊には至ってはいない。
あともう一撃で確実に破壊できる。
皆がそれを悟った瞬間、待機していた里矢が右手の甲を唇が触れそうな程近付け、何かを呟いた。
その瞬間、彼女の周辺を、無数の紫の薔薇の花弁が舞い、服がするりと変わった。
それは、黒い喪服のドレス。
哀悼のための衣服。
里矢はすぐに胸元へ手を伸ばす。
懐から何かを取り出した。
それを確認する前に檻へ鋭い一線が放たれる。
おそらくショートソードのような短剣か何かだったのだろう。
その証拠にその一線により檻は吹き飛んだ。
「眼帯野郎……っ!!」
「!?」
その刹那、牢から理奈が突風のように自分達の間に入り込んでいだ。
シャドウはとっさの事に動転してしまい、大きな隙を見せる。
その隙をついて腹に鉄拳を打ち込んだ。
「ぐっ……!!」
ニブい音が響いた。
たまらずシャドウはその場に膝をつく。
アレフ達もその早業に思わず呆けている。
理奈はシャドウを見下ろしていた。
「!?」
だが目の前で膝を付いていた筈のシャドウの姿が消えてた。
その途端、背後からシャドウの黒い姿が見えた。
「里奈さんっ!」
「危ねぇっ!」
トリーシャとアレフが言い終わる前に理奈は両腕をクロスして背後に現れたシャドウの拳を防いでいた。
シャドウは口元を吊り上げ余裕の笑みを浮かべている。
それが癪に障ったのか理奈はシャドウを突き飛ばし、体制を整え再び攻撃を仕掛けようとした。
けれどそれは唐突に終わりを告げる。
「そこまでだっ!!」
二人を制すようにリカルドの声が響いた。
自警団のメンバーが集結していた。
亮祐:管理人です。修正してみても戦闘シーンは難しい。
翔:文章力のなさがよく解るよ。
亮祐:聖の魔法に着いてはまた後々です。では続きます。
BGM:フランス組曲第1番 ニ短調 1.アルマンド/作曲バッハ midiファイル作成「トオリヌケデキマス」