EMPTY A CONCEPTION

meeting  1

モドル | トジル | ススム

 クラウド医院にはジョートショップのメンバー全員とトリーシャが集結していた。

「これで事情を知るほとんどが集まったな」

 作った珈琲を皆に配りながらそう呟いたのはトーヤだ。
 今までの知り得た情報や謎を整理するため、亮本人を含め事情を知る者の殆どがここにいる。

「これでお父さんがいたら全員だったんだけど……」
「来てねぇものはしょうがないさ」

 沈むトリーシャをアレフが元気付けた。
 先日知ったばかりのリカルドは、今日ここには来てくれなかった。
 トリーシャが言うには、昨日このことを話すと朝にはもう出かけていなかったらしい。
 何か事情があるのだろうとは、思う。
 けれど、その事情が何なのか解らなかった。
 先に進むべくトーヤが言った。

「とにかく、始めようか」

 情報と謎を解明するためのミーティングを。

「まずは、アレフとアリサさん、それにテディが亮を見つけた時だな」

 それは3月のことだ。
 エンフィールドの外れで亮が倒れているのをこの二人と一匹が見つけた。

「そもそもアリサさんは何故、夜外に?」
「実は……」

 そこまで言ってアリサはアレフを見た。

「アレフクン、ごめんなさい。私、あなたに嘘をついていたわ」
「え?」
「あの時は夢だといってしまったけど、本当は夢じゃあなかったの。実際に見たのよ」

 そう。アリサは実際に見た。
 夢なんかではなく、それを。

「寝ようと思って寝室に行くと、何か気配を感じたの。目を凝らしてみると、人がいたのよ」

 暗い寝室にいる筈のない誰かがいた。
 驚いてアリサもテディも明かりをつけることも忘れてしまった。
 悲鳴をあげる事も出来なかった。

「ぼんやりとしか見えないし、その人の体も透けたから怖かったっス」
「その人は私に手を伸ばしていったの。多分右手。その手には血が滴っていたわ。」

 アリサの脳裏に、そのときの様子が浮かぶ。

『お願い……―――』

 懸命に、手を伸ばしている。
 血が滴る手を懸命に。

『助けて…………―――』

 くぐもった声だった。
 けれど、酷く切実な声だった。
 聞いているこちらまで泣きそうなほどに、心が締め付けられるような。

『助けて―――』

 頬に、涙が伝っていた。

「すぐにその人は消えてしまったの。明かりをつけて確認したけど、血も残っていなかった」
「でも、ただ事じゃあないと思ってボクたちはその人を探しに外へ繰り出したっス」

 そしてアレフと出会って亮を見つけた。

「今思えば、あれは本当に亮くんだったのかも。声がよく似ていたわ」

 不思議な話だ。
 まさか、と思うような話だが本当にそうかもしれない。
 そう思えるほど亮には不思議が多かった。

「覚えてないや……。本当はどうなんだろう……」

 切なげに笑いながら亮が言った。

「医院で話したのは千里だったな」

 医院で目覚め、話をしたのは亮ではなく、別人格の千里だった。
 目を覚ました彼はここがエンフィールドと知ると慌てて出ようとした。

「千里はなんで、急に出ようととしたんだろうな」
「亮さんが住んでた筈、なんだよね……?」

 アレフとトリーシャが考え込む。

「「や…」」
「やはり、過去に何かがあったと考えるのが妥当だろうな」

 先にトーヤが答えていた。
 悔しかったので次はアレフが話し出す。

「――で、亮本人が起きたのが、五日後の朝だったよな!」

『オレは、誰なの?』

 あの時は不安そうな瞳でこちらを見上げていた。

「あの後、唄で大騒ぎになって……」
「そういえば、あの唄って聞いたことのない歌だったけど、もしかしたら亮クンの過去に関係してるんじゃあないかしら?」
「え?」
「だって、あの唄はどう考えても皆が知ってるようじゃなかったし、あの時既に亮クンは記憶を失ってたんだから……」

 そうだ。あの唄は亮以外誰も知らない。
 聞いた事のない唄だった。

「じゃあ、あの唄は俺が記憶を失う前に聞いた歌……?」
「もしくは作った、ということも考えられるわ」
「なんだ! 過去の糸口見つかったじゃねーか!」
「でも、その唄から亮の過去を割り出すというのは難しいだろうね」
「あら、何もないよりはいいと思うわ」

 エルの言う事もそうだが、シーラの言う通り何もないよりはいい。
 それに、何がきっかけになるか解らないのだから。

「あの後、亮が手首を切ったんだよな。覚えてるか?」

 亮は無言で首を横に振った。
 守理は別人格の仕業だと言っていたが。

「誰が、やったんだろうな……」

 守理、千里、夢具は亮を守る側だからおそらく違うだろう。
 混乱していたアマデウスとそんな事をする理由がないリトルも除外していい。
 守理の言葉を信じるならあいつという人格もだ。
 トーヤが結論を出した。

「考えられるのは刹那かショウ、だな…」

 ショウとは今だ未接触だが、刹那は亮に対してあまり言い人格とは思えなかった。
 ただ

『誰にも、亮は救えない』

 あの時の顔が、声が、どうも気になるが。

「それから、オレの名前と住所がわかって、家に行ったんだっけ……」

 由羅の家よりも更に外れにあった屋敷。
 蔦や雑草があって、どう見ても長く開けていた。

「そーいや、あれから一度も行ってなかったよな。今度また行ってみような」
「うん」
「家といえば、あたしとドクターを襲ったのはいったい誰だったんだろうな?」

 部屋の中で見つけた日記を読もうとした途端、後ろのクローゼットから人が洗われ斬りつけて来た。
 その話に亮が驚く。

「そんなことがあったの!?」
「そんなことって、覚えてないのか?」
「全然知らなかった……」

 おそらく、危険と判断して別人格が出ていたのだろう。
 そう結論付いて次の話になった。





 


亮祐:管理人です。事件も後半年ほどとなったので情報整理と謎解明の会議話です。なんだか長くなりそう…。( ̄ω ̄)ウーン…
翔:書いてるおまえがそんなでどうする。
亮祐:お付き合いの程お願いします。では次に続きます。


BGM:命の儚さ/「煉獄庭園」

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