EMPTY A CONCEPTION

夢具

モドル | トジル | ススム

 ―――完全に、嫌われた。

 塞ぎこんでいたのはアレフだった。

「キャシー……」

 ―――立ち直る事なんて、出来ない。





「ほら、いい加減立直りなって」
「………………」

 リサに言われても塞ぎこんだままだ。
 無理もない。
 以前、滞在していたガイによって3日間の努力を無駄にされたキャシーを取り戻そうと賭博をしたのに、余計嫌われてしまったのだから。

「いい様だなぁ、アレフ」

 しかも通報で駆けつけたアルベルトまでいる。
 最悪だ。

「えっ!? 亮さん初めからイカサマテクニックを競う賭博だって分かってたのっ!?」

 少し離れた所からトリーシャの声が聞こえた。
 もちろん亮と、肩にいるテディも一緒だ。
 適当な男と向かい合って座り、金をかけないイカサマもない純粋なポーカーを楽しんでいる。

「盗賊ギルドの男が借金請求にきたときから何となくね。法で禁止されている賭博をこんな真っ昼間からするワケなんかないだろうし。だとすれば特に禁止されてない、知らないかぎり一般人も関わらない、盗賊に必要な手先を鍛えるためのイカサマテクニックを競う賭博じゃないかなーって」
「だったら最初からそういってくれればいいのに……」
「そうっスよ!」
「久しぶりにこういう所に来たから少し遊びたかったんだ。はい、レイズ」

 その途端、周りから感心とどよめきの声が上がった。
 亮が出した手はスペードのロイヤル=ストレート=フラッシュ。
 そう滅多に見られない、珍しいものだ。

「これで俺の勝ち。よかったね。純粋なお遊びで」

 亮がにこり、と極上の笑みを浮かべた。

「結構楽しかったよ。中じゃポーカーなんて出来ないから」

 目を、見開いた。

「トランプすらないし、話し相手も千里達しかいないからね」

 核心、した。

「ちょ、アレフっ!?」

 その言葉の意味に気付き、リサの呼びかけも気にせず亮の元へ走り出した。

「あんたとの純粋なポーカー、結構楽しかったよ」

 亮の右腕を掴み、こちらへ振り向かせた。

「おまえ、亮じゃないな?」
「? 何いってんだい、アレフ?」
「そうだ。この前のことといい……」

 リサとアルベルトには言っている意味が分からない。

「へぇ……」

 けれど、当の本人は妖しく笑っていた。
 手をやんわりと解かれる。

「やっと、気付いたんだ」

 椅子から立ち上がって、見上げてきた。

「僕が殴りつけた傷は癒えたか? アレフ」

 これで二度目となる、夢具だった。

「なんで、殴ったんだ?」

 あの時の怒りが、こみ上げて来た。

「俺を殴りつけた理由は何だ。どこに殴る必要があった!? なんで元気になるんだ!! 俺を殴ったことと何か関連があるのか!?  腕の傷は……!!」
「ストップ。そんな一気に聞かれても答えられない。1個ずつにしてよ」

 そうだ。落ち着け。
 相手の思うツボだ。

「……いつから、おまえだった?」
「朝起きた時からずっと、ね。全然気が付かなかった? 大したことないなぁ」

 呆れたように溜息を吐かれた。

「今まで何度も亮の代わりをしてたっていうのに、今まで一度たりとも気付きやしない。千里と守理もとんだ見込み違いだ」
「ちょっと! そこまでいう必要ないじゃないかっ!」

 堪らず近くのトリーシャが突っかかった。

「そんなこというなんて、亮さんとは大違いだよっ!!」
「当たり前じゃないか。僕は亮じゃないんだから」

 夢具はそっと、トリーシャの頬に触れた。

「可愛らしいお嬢さん。亮に恋焦がれているなら、あまり短気は起こさないことだね。亮は振り回されるのが苦手だから」
「!!!」

 かけられた言葉にトリーシャの顔が一気に紅潮した。

「違った? 今まで僕が見てきた限りでは、どう見ても亮に惚れているようだったけど」
「そうだったんスか!?」
「そ、そんなこと今関係ないよ!!」

 トリーシャの顔は今だ紅潮したままだった。

「一つ忠告しておいてあげるよ。亮に恋するのはやめた方がいい。というより、無駄だよ」

 夢具から、表情が消えた。

「どれだけ周りが恋焦がれても亮は受け入れない。どれだけ周りが愛を囁いても亮は答えない」



「今のように記憶を無くしたあの時さえそうだった。誰も愛さなかった。愛せなかった。亮が愛するのは、昔も今もあいつだけ」



「どれだけ亮に恋焦がれても、虚しい想いでしかない」



「亮と関わってそうなってしまった奴がもう何人もいる。だから、やめた方がいいよ。君も」



「あんたも」

 夢具の瞳が、アレフを捕らえていた。

「どういう、意味だ……?」

 意味が、解らなかった。

 ―――夢具は、何をいってるんだ…?

 トリーシャだけでなく、何故自分にまでそんな忠告をするのか。
 第一「今のように記憶を無くしたあの時」というのは何なのだ。

 夢具は目を見開いた。

「気付いて、なかったのか……?」

 続いて呆気にとられた。

「本当に、見込み違いだ。まさか」



「自分の気持ちにすら、気付いてないなんて」

 ―――その言葉の意味すら、俺には解らない。

「おいっ!」

 アルベルトの声でアレフは我に返る。

「いったい何なんだっ!? ワケが解らんっ!!」

 理解できない展開に混乱しているようだった。
 そうだ。今ここにいるのは自分達だけではない。
 アルベルトとリサ、それに盗賊ギルドの奴等もいる。
 全員が、こちらを凝視していた

「いったい何をいってるんだっ!!」
「いや、これは…」

 思わず夢具へ目をやる。
 夢具の目は、再び見開かれていた。

「アル、フォンス…?」

 その声は震えている。
 まるで、見えないものでも見てるかのように。

「おまえ、なんで」
「夢具さん?」

 トリーシャの声も、聞こえていない。

「なんで、生きて……」

 その顔から色が消えた。

「おまえは、死んで……。あいつに、ころ、され…」

 あいつが、殺した―――

「―――ッ!!!」

 夢具はその場に蹲ってしまった。
 わなわなと体が震えている。

「夢具さんっ!?」
「どうしたんスかっ!?」
「夢具っ!?」

 尋常でない様子にすぐ傍にいたトリーシャとテディはよろけた夢具の体を支える。
 アレフもすぐに駆け付け支えた。

「アルベルト! リサ! ドクター呼んできてくれっ!」
「解った!」
「おい! 何がどう……」

 言い終える前に、アルベルトはリサに引っ張られて行った。
 盗賊ギルドの面々も何事かと、駆け寄って来た。

「夢具! しっかりしろ!」
「亮じゃ、ない……!」

 うわ言のように夢具の口から声が漏れる。

「殺したのは亮じゃない……! 亮のせいでもない……! 亮じゃ、ない……!!」

 まるで呪文のように。
 まるで呪詛のように。

 その後、トーヤが駆けつけてくれたが、そのときにはもう亮に戻っていた。





END


亮祐:管理人です。読んで分かる通りアレフのキャラ別2も失敗。よく考えてみればアルはすぐ帰ってたからここにいる筈がないのですよ。帰らなかったと思ってください。夢具によってシリーズ名である「虚しい想い」という 言葉も出てきました。ここまでなら許容範囲ですよね?
翔:聞かれても困るよ!!
亮祐:修正によって友人の事も早く出てきました。友人の名前も変更しちゃいましたけども。次回はどうしようかなぁ。
翔:だから予定たてろって!!


BGM:命の儚さ/「煉獄庭園」

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