EMPTY A CONCEPTION

刹那

モドル | トジル | ススム

 自分を見つめるのは、亮を助けようとする者たち。

「亮を、救えるワケねぇんだ……」

 ―――救えなかった。

「誰にも、亮は救えない」

 ―――オレでも、救えなかった。





 仕事が終っても、なかなか帰ろうとはしなかった。

「ほら、早く帰らないと」
「だいたい、仕事を利用しようとしたおまえが悪い」
「そうっスよ」
「アレフくん……」

 というより、落ち込んでいた。
 亮と、エルと、テディと、シーラが塞ぎこんだアレフを覗き込んでいる。

 今日の仕事は「病院の留守番」。
 トーヤがいないのをいいことに患者の女の子を口説くつもりだった。
 だが全て亮達に阻止された挙句、殆どの患者さんがお年寄りだっだ。

「アレフ、何を企んでいたか知らんが、世の中そんなに甘くないぞ」
「うるせー……」

 渋っていたアレフがやっと立ち上がり、とぼとぼと歩いてドアノブに手をかけた。
 つもり、だった。

「―――っ!?」

 後ろから誰かに掴まれた。
 次の瞬間にはそのまま持ち上げられ、かつかれるような体制になっていた。
 そして、喉元にはキラリと光るメスがある。

「動くと首が落ちるぜ? アレフ?」

 長い前髪でその顔はよく分からなかったが、口元がにやり、と笑った。

「てめえとはこれで二度目だな、ドクター」
「別人格か……!」
「………!!」
「ええっ!?」
「アレフくん……!」

 その会話に、ギクリと体を振るわせる。
 両脇に居るエルとテディとシーラも体を振るわせた。

「……おまえの名は?」
「俺は忠告したハズだぜ。“亮の過去にかかわるな”と」
「刹那、か……」

 刹那。
 聞いた話では“これ以上、亮の過去に関わるな”とトーヤに忠告した人格。
 だとすればこれは結構やばい状況だ。
 は刹那に担がれ、喉元にメスを突きつけられている。
 人質、というやつだ。

「千里がいっていた。おまえは“亮が記憶を取り戻には障害となる”と」
「千里か……。余計なことベラベラしゃべりやがって」
「おまえは亮に記憶を取り戻してもらいたくないようだが、それは何故だ?」
「ケッ、さあな。そんなことより、今の状況がちゃんと分かってんのか?」
「――っ!」

 喉元のメスを少しだけ動かされた。
 痛みと共に一筋の紅い血が伝う。
 同時に冷や汗も伝った。

「やめてっ!!」
「チッ……!」
「何が望みだ?」
「決まってんだろ? これ以上亮の過去に関わるな。亮をこの街から追い出せ。でねぇと……!」

 メスを握る拳に力が込められたのが振動で感じられる。

「ま、まてよっ! 俺抜きで話を進めるなっ!!」
「ああ?」

 普段の亮からは想像もつかないドスのきいた声。
 その顔は前髪でいい具合に隠れているものの恐怖で背筋がぞくぞくする。
 だが、このまま大人しくしている訳にもいかない。

「いっとくがなぁっ、俺は人質にされようがこのまま殺されようがやめる気はねぇよっ! 亮の多重人格や記憶喪失も治すし、無実だって証明してみせるッ!!  邪魔されたからって諦めてたまるかっ!!!」
「ああ、そうだ。あたしも、人に指図されるのは嫌いでね」
「そうよっ! 早くアレフくんを解放してっ!!」
「テメェら……」
「みんなのいう通りだ」

 苛立ってきたらしい刹那にトーヤも声をかける。

「そいつを人質に取られたからって俺も医師としてカウンセリングをやめるつもりはない。煮るなり焼くなり好きにしろ」
「怪我しても、治療すれば大丈夫っス!」
「お〜い……」

 “そこまでいうか……?”と言わんばかりに情けない声を出すアレフだった。

「“あきらめてたまるか”、か……」
「……?」

 ほんの一瞬だが、悲しそうな表情になったような気がした。
 前髪で顔がよく見えなかったので断言は出来なかったが。

「―――っ!?」

 次の瞬間投げ出された。
 急な事に受身を取る暇もなく壁に激突した。

「つ〜ッ……」
「アレフくんっ」
「大丈夫っスか!?」
「アレフッ」
「怪我はないな?」
「勘違いすんな?」

 痛みで座り込んでいるアレフと心配してるシーラ達に向けて刹那が話し出す。

「今回は見逃してやる。けどな、亮の記憶を取り戻すのを、指くわえてみるわけにはいかねぇ」

 協力する意思はない。
 刹那ははっきり言った。

「亮を、救えるワケねぇんだ……」

 顔が、歪む。

「誰にも、亮は救えない」

 悲しむように、歪む。

「まして、人間、なんか、に……」
「? どーいう…」
「…………」

 言葉が途切れ途切れになっていたかと思うと、何も言わなくなった。

「どうしたの? そんなトコに座り込んで…」

 亮に、戻っていた。

「実は……」
「何でもない、気にするな」

 刹那のことを話そうとしたアレフをトーヤが遮る。

(今はまだ話す時期じゃない。余計な不安は与えない方がいい)

 どうして”と訊く前にそう耳打ちされた。
 その方が“亮の為になるなら”と皆は思ったが、どこか釈然としない気持ちが残っていた。





END


亮祐:管理人です。今思えば180センチ以上もあるアレフを軽々と持ち上げたってことは刹那はかなりの力持ちってことなんですよねー。今まで修正版の冒頭は視点者のものでしたが、今回はじめて視点者以外の方にしてみました。ちょっと新鮮な感じです。おかげでちょっとネタがバレそうですが。
翔:馬鹿なことを……。
亮祐:さて、次回は夢具がご登場です。ではこの辺で。


BGM:命の儚さ/「煉獄庭園」

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