EMPTY A CONCEPTION

千里  2

モドル | トジル | ススム

「おまえが千里か……」
「ええ」

 トーヤの言葉に千里は笑顔で返事をする。
 クラウド医院にアレフ、エル、シーラ、テディ、トーヤ、そして千里が集結した。
 これで全ての人格のこと、そして亮自身のことが解る。

「ではさっそく訊くが、亮の中には何人いるんだ?」
「亮や僕を入れて8人ですね。男性6人、女性2人です」
「て、ことは交代人格は8人か……」

 正直、多いと思った。
 本当にこれだけの人格を統合できるのか。
 けれど、悩んでる場合ではない。
 やるしかない。

「まず千里、おまえのことについてきかせてもらおう。性別は男で間違いないな?」
「ええ」
「年は?」
「21です」
「いつ、何がきっかけで生まれたんだ?」
「亮が14のときです。理由は……罪悪感、といったところでしょうか……」
「罪悪感?」
「なんでちゃんといわねーんだよ?」
「全てを明かすワケにはいきませんから」
「つまりそれは俺たちを信用していないということか?」

 千里の返答に聞き返したのはトーヤだ。
 せっかく全てが分かると思ったのだが。

「いえ、信用はしてますよ? ただ信頼はしていない。信用は信じよういること、信頼は信じ頼ることですからね」
「口は達者というワケか……」

 “しょうがない”といった感じでトーヤは呟いた。
 正直、こう言われてしまえば返す言葉がない。

「ですが答えられることには何でも答えますよ。他には何か?」

 そう言って千里は笑みを浮かべる。
 どうやら千里はよく笑みを浮かべる人格らしい。

「そうだな……確認しておきたいんだが、フォスターさんに牢であったことを話したのはおまえか?」

 そうだ。あの時、牢で何があったのか。
 まだ亮に訊いていなかった。

「いえ。あれは……すみません。答えられません」
「何故だ?」
「それを話せば、牢で何があったかも話さなければなりませんから。だから答えられません」
「そうか……」

 トーヤはその事についてはそれ以上問いただそうとしなかった。
 代わりに中での自画像を描いてもらった。
 亮と同じ黒髪。
 だが、その長さはアレフと同じくらいで、瞳の色も紺だった。

「僕のことはこれくらいにして、リトルについて話しましょうか」

 リトル。
 最初、ローズレイクでトリーシャと話をした人格だ。

「年齢は8歳。外見は幼い頃の亮にそっくりですね。僕と同じ時に創られた子です。同じ罪悪感から創られた。というより、中のみんなはほとんど亮の罪悪感から創り出されたといった方が正しいでしょうね」
「そうか」
「そうだ。シーラさん」

 思い出したように千里がシーラに声をかけた。

「この間は夢具がご迷惑かけてしまって」
「え……?」
「ほら、あなたの手の甲にキスを贈った……」
「あ……!」

 そう言われて、アレフも分かった。
 シーラの手の甲にキスをしたのは夢具という人格だったようだ。

「夢具って、リトルがいってたあの?」
「ええ。アルベルトさんには申し訳ないことをしてしまいました」

 あのアルベルトの脛を蹴った夢具。
 あいつがそうだったのだ。

「ついでにいうと、あの日朝から出ていたのは夢具でしてね。夢具は主に亮の代わりをしてくれるんです」
「じゃあ、ご主人様を口説けっていったのも、その夢具さんなんスね」

 そんなことを言う奴に亮の代わりは勤まるのだろうか疑問であるが…。

「――で、その夢具はどういった人格なんだ?」
「夢具は19の男です。創られたのは19の時。外見は黒い髪 。瞳は赤紫。それと彼はプライドが高く、人の好き嫌いが激しいんで気をつけた方がいいですよ。一度機嫌を損ねると手が付けられませんから」
「そうか」
「なあ」

 話している二人に声をかけたのはエルだ。

「あたしはあの場にいなかったが、そいつはあのアルベルトを悶絶させたんだろう? そんなに強いのか?」
「まあ、僕らの中では高い戦闘能力を誇りますね。でも、あの状態からの蹴りで良かったですよ。まともに戦ってたら彼の骨は粉砕していたでしょうから」
「ま、マジかよ……」

 そんな恐ろしい事を言っても微笑みを絶やさない千里にアレフは上手く言葉に出来なかった。

「では陽のあたる丘公園でアレフと話したのは誰だ?」
「彼女はアマデウスです」
「アマデウス?」

 “変わった名前だ”とアレフはおもった。
 よく考えてみればアマデウスだけではない。
 守理も千里もリトルも夢具も刹那も、どれも不思議な名前だ。

「アマデウスは15歳の少女で外見は亮と同じですね。創られたのは亮が15のとき。清楚な子ですよ」
「そうか……」
「それで、実は……」

 それだけ言うと千里は口を閉ざし、何かを考え込んでしまった。
 “その先を言うか考えているのだろうか?”と思っていると、千里はその先を話し始めた。

「アマデウスは今混乱しているんです」
「「「「「混乱?」」」」」

 意外な言葉に思わずアレフ達の声が揃った。

「自分を亮本人だと思い込んでしまってるんですよ。 自分がアマデウスだってことは自覚してるんですけどね。少し前までアマデウスだけでなく、僕を含む皆もそう思っていて……」
「はあっ!? ちょ、ちょっと、まてっ! それってっ……」
「主人格亮の記憶喪失が他の人格にも影響したということか?」
「そうです」

 千里の言う通りならあの時話した人格は自分を亮だと思い込んだ別人格のアマデウスということになる。

「なぜそんなことになったんだ?」
「主人格の亮が記憶喪失になったことで別人格である僕らにも多少影響がきたんだと思います。あ、でも今混乱しているのはアマデウスだけですよ? ですからアマデウスも次期に自我を取り戻すと思います。 アマデウスの話しはそれくらいですね」
「では、カウンセリングの時に出てきたあの人格は?」
「彼は刹那ですよ」

 刹那。
 これもリトルが教えてくれた名だ。
 アレフとよく似た、髪の色をもつ人格らしい。

「彼については、よくわかりません。リトルが見かけたことがあるくらいです」
「では刹那が忠告したわワケは?」
「……それもわかりません。彼とはあまり接触しないものですから」

 何か、違和感があった。
 けれど、それが何なのか解らなかった。

「ただこれだけはいえます。彼は僕らの中で一番力がある。亮が記憶を取り戻には障害となる人です。…ショウと同じくらいに」
「ショウ?」
「牢の人格ですよ」

 あの人格。

「あの子は亮が15のときに創り出した14歳の、男の子の人格です」
「ショウはいったい何なんだ?何故、あんな事を?」
「……今はまだいえません。ただ、過去に深く関係しています」

 あれが。
 目をえぐろうとしたことあれが、過去に関係すること。
 亮の過去に一体何があったのだろう。

「では守理は?」
「守理ですか?……僕にもよく分かりません」
「「「「わからない?」」」」

 千里の言葉に、全員声を揃えていた。

「外見は腰までの黒い髪、紅の瞳。背丈からいって10歳くらいなんですが、どうも子どもには思えないんですよ。あの態度、あの落ち着きよう、なんだか僕よりもはるかに年上のような気がして。それに彼女も歳をきいてもはぐらかしてしまいますから……」
「確かに……」

 トーヤ同様、アレフ達もそう思っていた。
 あの喋り方や声のトーンはどう考えても子どもとは思えない。
 これで7人。
 残りは一人だ。
 けれど、トーヤは別の質問をする。

「千里、最後の人格の説明をきく前にきいておきたい。亮はなぜ多重人格になった? 亮の過去に何があったんだ?  亮の家族は今ドコにいる? いったい……亮は何者なんだ?」

 質問の意図が自分達には分からなかった。
 いったいトーヤは亮の何を聞きたいのだろうか。
 トーヤの質問に千里は軽く溜息を吐く。

「それは、まだ答えられません。いったでしょう?“信頼はしていない”と。ですがこれだけはいっておきます。クラウド先生、あなた亮が運ばれたときに血液検査してましたよね?」
「ああ」
「でしたら、それが亮なんですよ」

 ニッコリと微笑む千里にトーヤは複雑そうな表情を浮かべていた。
 アレフ達には質問の意味も、千里の言葉の意味も全く分からなかった。

「話しをきくからに人格が創られた順番は千里とリトル、ショウ、アマデウス、夢具。守理と刹那が不明か…。残りの人格は?」
「それは……―――っ!」

 千里は突然頭を押さえ、項垂れてしまった。

「千里っ?」
「おいっ、どうしたんだっ!?」
「千里くんっ!?」
「アイツが、怒ってるんです…」
「アイツって、まさか前に守理がいってた人格のことかい?」
「ええ……」

 おそらく、最後に残っていた人格だ。
 千里が中へ戻されようとしているのだ。
 アイツと呼ばれる人格に。

「千里っ! そのアイツってのはどんな奴なんだっ!?」
「すみません、アレフ、さん……。これ、以上、は……」
「千里っ!?」
「………………」
「亮っ!」

 そのまま、亮は目を覚まさなかった。
 外に出る人格が居なかったのだろう。

「アレフ、いくらか情報は引き出せたんだ。今はそれだけで良しとするしかない」

 トーヤの言葉にアレフは頷くしかなかった。

 





END


亮祐:管理人です。修正しても長くなってしまった…。
翔:たまには短くまとめられねぇのか?
亮祐:修正して別人格が減って、新しい子が入りましたな。ちょっと一つ、多重人格者が実際記憶喪失になってもこういう事は起こらないと思います。 次回は新しい子、アマデウスがご登場です。


BGM:命の儚さ/「煉獄庭園」

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