「おまえ今日はどうしたんだよ?」
「亮くん、どうして歌わなかったの?」
「喉でも痛めてたのか?」
「どうしてなんスか?」
仕事の帰り道、陽のあたる丘公園に寄ったアレフ達は亮に訊いていた。
本日5月22日、ラ・ルナで受けた仕事は『バンド演奏』だった。
てっきりボーカルは歌が上手い亮がやると思っていた。
けれど、亮はアレフを指名してきた。
一緒に歌うという提案もあったが 亮はあくまでもアレフ一人で歌わせたのだ。
何だか、歌う事を嫌がってるようにも見えた。
「どうしてって……僕は亮じゃありませんから」
「ああ、なるほどー。――って、へ?」
アレフを含む3人と一匹が一斉に固まった。
―――亮、じゃない?
「「「「ああっ!?」」」」
「やっと気付いたようですね」
アレフ達に向かって目の前の亮がにっこりと笑み顔を浮かべた。
けれど、それは本物の亮ではない。
「ぜんッぜん気付かなかった……」
「私も……」
「僕もっス……」
「いつから亮じゃなくなってたんだい?」
「朝からですよ。しゃべり方も亮をマネてましたから」
全く気付けない訳だ。
たとえ声のトーンが違っていても同じ体を所有している訳だから、声を合わせて喋り方を真似てしまえば別人格とは誰も気付けない。
「なんで亮の代わりを?」
「普段、亮の代わりは夢具がすることが多いんですが、彼は出たくないといいまして。それで僕が」
「じゃあ、歌わなかったのは……」
「実は僕、俗にいう音痴というやつでして……」
エルの言葉に亮でない亮は申し訳なさそうに頬を掻いた。
続いてアレフが訊く。
「――で、おまえは誰なんだ?」
「解りませんか?」
彼が、微笑を浮かべる。
「貴方とは一度話をしてますよ」
この敬語の主は
「ドクタークラウドと、アリサさんと。そしてテディくんと」
医院で、話した
「わかってくれたようですね」
そう言って彼は再びニコリと笑みを向ける。
「その節は本当にすいませんでした。ベッドにぶつけた傷は痕とかになっていませんか?」
『朝っぱらからなに迫ってんですかーーーーーーーっ!!!』
間違いない。
彼が……
「千里?」
「ええ」
千里。
医院で初めて話しをした人格。
「傷跡とか本当に残ってませんか? 顔面直撃はまぬがれましたが1ミリでも残ってたら大変ですから」
「いや、平気…」
前髪を撫で上げ、額を見る亮はとても大人っぽい。
自分より背が10センチ以上も違うのに年上に見えてならなかった。
「千里くん、さっそくで悪いんだけど話しを聞かせてもらえるかしら?」
「僕はかまいませんが、クラウド先生がいた方がいいと思うんで医院でお話ししますよ」
「じゃあアリサさんに……」
「大丈夫ですよ、エルさん。アリサさんはもう知ってますから」
「どういうことっスか?」
「彼女には仕事へ行く前に「遅くなる」と言付けておきましたよ。どのみち今日はそのつもりで外に出たんですから」
千里の素早い行動に感心した。
「では、行きましょうか。クラウド医院へ」
千里はさっそうと歩き出し、アレフ達も歩き出す。
これで、亮の中の全ての人格達の事、そして亮自身のことが分かると思った。
だが、それは甘い考えだった。
亮祐:管理人です。流れ的には殆ど変わらなかったよ。
翔:つーか、変わってないやつばっかじゃねぇか。
亮祐:えー、この話しはアレフの仕事「イベントエキサイト・ステージ」後が舞台です。
こうしてみると、アレフイベントばっかりですね。アレフたちの前に現れた千里の人格。いったいこの千里はアレフ達に亮の全てを話してくれるのか?これが問題ですね。
次回はもちろんクラウド医院が舞台です。
BGM:命の儚さ/「煉獄庭園」