EMPTY A CONCEPTION

-美術館盗難事件  2

モドル | トジル | ススム

 そこは、惨劇だった。

「これは……」

 鼻にツンとくる程の、鉄の匂い。
 牢は壁も床も、飛び散った大量の血で真っ赤に染まっていた。
 血の出所は、中で倒れている三人の自警団員。
 見張りを任せていた団員だった。
 まだ、息があるかもしれないと僅かな望みにアルベルトが駆け寄った。

「おい、しっかりしろっ!」

 倒れているうちの一人を抱き起こす。
 けれど、それは無駄だった。
 抱き起こした団員の首が千切れて床に転がった。
 首は骨を越え首元まで抉られていたらしく、抱き起こした途端 頭の重みに耐え切れず落ちた。
 落ちた首はこちらを見ていた。
 濁った半開きの目がこちらを睨んでいるようにも見える。

「う、ぐッ……!!」

 あまりの惨さに牢の中に入れなかったアレフは吐き気をもようした。
 周りから漂う血の匂いに頭痛が起こり、より一層吐き気を駆り立てていく。
 隣にいるエルも必死で吐き気を抑えている。

「これは酷いな……。他の二人も同様だよ」
「死因は見るまでもなく、頚動脈からの大量出血によるショック死ですね」

 リカルドとトーヤの言葉でアレフは一つの事に気付く。

「亮っ……。亮、ドコだっ!」

 意を決してアレフも牢の中へ入る。
 見てみると、亮は奥で座り込むように気を失っていた。
 体中に血がついている。

「大丈夫かっ!?」
「……ん」

 亮の瞼が震え、ゆっくりと目が開いた。

「アレフ……」
「無事だな? よかった……」
「何が……? ヒ!?」

 周りを見渡した亮の体がビクッ、と震えた。
 青褪めた顔でアレフにしがみ付く。
 トーヤが乗り出してきた。

「亮、ここで何があったんだ? いったい誰が……」
「今きくなよっ! んなもん後でっ……」
「う……」
「亮?」
「頭、が……」

 様子がおかしくなったかと思うと、黙り込んでしまった。

「亮……?」

 そのまま、亮は遺体の一つに近付いた。
 両目が開かれたままの遺体に。

「………………ごめんね」

 亮から、声が漏れた。
 子供のような声が。

「けど、これしか思いつかなかったんだ」

 傍の遺体の、目がある箇所に触れて。

「僕も、すぐに、抉る、から」

 グチャ、と音がした。
 傍の遺体から、両目が抉られていた。
 抉られた目が、亮の手の中にあった。

 誰も、動けなかった。
 その異常な光景に。

「抉る、から」
「―――っ!!」

 亮が、自分の目に触れた。
 今度はその行動の意味を読みとれた。

 亮が力を込める寸前のところでリカルドが腕を掴み、アルベルトが当身をくらわせた。
 そのまま、亮は気を失った。
 思わずアレフも腰が抜けた。

「何だったんだよ、いったい……」
「今のは、亮ではなかったんだ……」
「ドクター?」

 ―――ドクターは、何を知ってるんだ?

 とにかく今は亮の方が先だと考え、皆でクラウド医院へ運ぶことにした。





 


亮祐:管理人です。事件が始まってとうとう殺人が起きてしまいました。もっとムゴったらしく表現したかったのに、管理人の文章力ではこれが精一杯です。申し訳ない…。次ではトーヤ先生が今までにあった亮くんの不可解な言動の謎を答えてくれます。 では続きます。


BGM:紅い空気/「sentive」

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