アレフとアルベルトが走っていると開き放たれた扉が見えた。
瞬時にここだと判断した二人が中に入った。
「「エルッ! 何があ……」」
二人と一匹の目に信じられないものが写った。
うずくまっているトーヤが頭から血を流している。
その前でエルが振り下ろされた木刀を防いでいた。
木刀の先にはローブを着た誰かが掴まれたそれを必死で振り下ろそうとしている。
「エルッ! ドクターッ!!」
「大丈夫っスかっ!?」
「貴様っ! 何者だっ!!」
気付いたそいつは木刀を捨てると二人を突き飛ばして部屋から出て行った。
「待てっ!!」
アルベルトがそいつを追いかけて出て行く。
アレフが二人の下に駆け寄った
「大丈夫かっ!?」
「あたしは大丈夫だがドクターが…」
頭部だからという理由もあってトーヤの出血はかなり酷い。
血は顔を伝い、床に垂れている。
「大丈夫かよっ!? ドクターっ!」
「すごい血っスよ!」
「なんとかな…。それより、日記が盗まれた…」
「日記?」
「この部屋で見つけたんだ。何かの手がかりになると思ってね。でも読もうとした途端、クローゼットからさっきの奴が…」
扉近くにあるクローゼットの扉が開いていた。
奴は自分達よりも先にここへ来ていたということだ。
「うわああぁぁぁッ!!」
先程いた部屋の方から悲鳴が聞こえた。
続いてガラスが割れた音がした。
「今のは……」
「亮さんの声っス!」
「亮っ!」
「アレフッ!」
走り出したアレフの耳に自分を呼ぶエルの声など聞こえなかった。
「うわっ!?」
「ブッ!!」
扉から出て曲がろうとしたが何かに躓いて転んだ。
抱えられていたテディが下敷きになった。
「酷いっス……」
「しょうがねぇだろ……――って、アルベルトッ!?」
アルベルトが倒れていた。
慌てて胸倉を掴み揺さぶる。
「なんだよ、テメーっ! さっき奴を追っかけてったんじゃなかったのかっ!?」
「部屋から出た途端、腹を殴られて……」
「あんたまでどうしたんだ、アルベルト!」
「エル! 二人頼む!」
とにかくアレフは大急ぎで先程の部屋に駆け込んだ。
「亮っ!!」
アレフの眼に、割れた窓ガラスと風に靡くカーテンが写った。
そしてその下にそれを見て座り込む亮がいた。
「亮さんっ!!」
「亮! 何があっ……」
「アレフッ!」
亮が声をかけたアレフの胸の中へと抱きついた。
「急に変な奴が入ってきて、それで、それで……!」
よほど恐ろしかったのか亮の体も声も震えている。
「突き飛ばされて、窓ガラスを割って飛び降りて……!」
「わかった! わかったから……!!」
「もう大丈夫っス! だから落ち着くっスよ」
「僕、恐くて恐くて……!!」
錯乱している亮をアレフは必死で落ち着かせようと抱きしめてやった。
そこへエル達が入ってきた。
「アレフッ! 無事かいっ!?」
「俺はいいけど、亮が……」
まだ恐いらしく、亮はアレフを放そうとしない。
胸に顔を埋めているので顔は見えないがきっと青くなっているだろう。
「アレフ、奴は?」
「奴ならあの窓を割って逃げたらしいぜ」
訊いたトーヤが窓に近付き、下を見下ろした。
下の地面には大量のガラスの破片。
ガラスの破片の下に先程の誰かが纏っていたローブがあった。
「亮、その男の姿を見たか?」
「え? ううん……」
「そうか……」
「いったい、なんだったんだろうな。奴は……」
「わからん。だが少なくともかなりの実力者だな……」
アルベルトが自分の手を見て握り締めた。
奴は戦闘の類を専門とする自警団第一部隊のアルベルトを倒したのだ。
実力ある者と思って間違いない。
「とにかく、エンフィールドへ戻ろうじゃないか」
「ドクターの手当ても必要っス」
「ああ。ドクター」
「……わかった」
少し間を置いた返事をしてトーヤは四人と一匹の元へ戻った。
「帰ろうぜ。探索ならまた今度でもできる。な?」
「うん」
亮の返事を聞いて皆は洋館を後にし、エンフィールドへ戻っていった。
一体、家の者は何所に行ったのか。
亮の家族はどんな人物なのか。
そして、あの侵入者は誰だったのか。
物語はまだ始まったばかりだった。
END
亮祐:管理人です。修正前はテディの存在をすっかり忘れていました。
翔:コラ。
亮祐:とにかく皆さんエンフィールドへ戻っていくことになったんですが、誰も訊きませんでしたね〜。「ただいま」の意味も、写真のことも。
翔:おまえ忘れてたのか?
亮祐:違うよ! ワケぐらいあるよ! ほら、一気にいろんなことが起こったから。何者かに襲われたり、トーヤが負傷したり、亮のショックが大きかったり。訊く事を忘れてたんだよ。
翔:やっぱり忘れてたんじゃねぇか。
亮祐:うぶぶっ。
BGM:命の儚さ/「煉獄庭園」