『未来で、逢いましょう』
うっとり見つめる俺に彼女が言う。
耳に澄み渡る声。
うっとりするような花の香り。
瞳に写るその姿。
この世の者とは思えぬその美貌。
『ここではなく、あなたがいるべき世界で』
俺は彼女に
誰をも恍惚と魅了せしめるこの人に
『あなたが生きるべき世界で』
恋をした―――。
祈りと灯火の門付近には春らしく暖かい風が吹いている。
夜空には、白銀色の美しい月が先程まで浮かんでいたが、今は雲に隠れて見えなくなっていた。
けれどそんなことは今のアレフにとってどうでも良いことだった。
「ごめんなさいね、アレフクン。こんな時間に……」
「何いってるんですか。アリサさんの為なら”例え火の中、水の中”ですよ」
アレフは今、ジョートショップの女主人アリサ・アスティアと深夜のデートをしていた。
「そーいうセリフは他の女の人にだけいえばいいっス」
「へ−へー」
アリサの亡き主人が拾った魔法生物のテディを腕に抱えて。
いつものように女の子とのデートを終え家路を歩いていたアレフは偶然アリサと出会い「頼みたいコトがあるからついてきて欲しい」と頼まれた。
時間が時間だったがジョートショップの未亡人に頼まれては断れないと現在に至っている。
今まで何の疑いも持たず着いて来たが頼みたいことというのは何なんだろう。
「あ、いたッスっ! いたッスよ、ご主人っ!」
尋ねようとしたアレフの腕の中でテディが向こうを指差す。
「テディッ! 急に声を出すなっ!! 大体いたってこんな時間、こんな場所に何がっ…」
指先を見たアレフの顔が固まった。
テディが指差した所に本当に誰かがいたから。
草むらの中で一人横たわっている。
アリサはやっぱりと呟いてここに来た経緯を話した。
「実はね、さっき夢を見たのよ。誰かが私に助けを求める夢を……」
夢で見た姿は霞んでいて声も小さかった。
それでも確かに聞き取ったのだ。
頬を涙で濡らしながら、懸命に伝えて来たその言葉を。
『お願い……―――』
『助けて…………―――』
『助けて―――』
こちらへ懸命に伸ばす腕を手に取って目が覚めた。
その足でここへやって来た。
「気になって、探してみることにしたの。でも…」
「本当にいたら、ボクとご主人様だけじゃ運べないッス。男手が欲しいと思ってたところにアレフさんと出会ったっというワケッス」
アレフが横たわるそれに近付いて、顔を覗き込む。
暗闇でその顔は解らなかったが意識がないことだけは解った。
あと解るのは華奢だという事くらいか。
とにかくエンフィールドへ運ぶためテディをアリサに渡し、女の体を起こした。
雲間から丁度現れた白銀色の月が、周りを、その姿を照らし出す。
絹糸のように細く長い漆黒の髪。
雪のように白い肌。
両耳の、アメジストのピアスが神秘的に魅せる。
まるで、月が相手のために光を照らしてくれたようで―――
それを見たアレフの顔が固まった。
抱き上げた相手の、その美貌。
その美しさ。
同時に、その顔に恋した女の面影が重なったから。
「アレフクンどうしたの? 重いのかしら?」
「あ、いえっ! 軽すぎるくらいですっ!!」
アリサの声に我に帰ったアレフは慌てて女をエンフィールドへ運んだ。
高鳴る胸の鼓動を必死に抑えながら。
この時はまだ、これが運命を大きく変える次章だとは思いもせずに。
亮祐:管理人です。小説内での月は白銀なのに背景が黄金なのは見逃してください(笑)冒頭のはアレフの一人称です。このときアレフはこの1stと
冒頭に出てきた女を重ねて見てしまった訳ですな。 修正するにあたって副題も変えました。meet or meet a
againは和訳すると“出会い、あるいは再会”。この意味は先頭の女同様後に明かしていきます。ではこの辺で。
BGM:命の儚さ/「煉獄庭園」