目を開けた。
ゆっくりと体を起こす。
ただ体を起こす、それだけの行為に5秒以上かかってしまったんじゃないだろうか。
そのくらい、ゆっくりと。
どうやら眠っていたらしい。
酷く頭が痛い。
「……え?」
頭を押さえようとした手がべっとりと濡れていた。
―――どうして…?
「どうして、真っ暗……」
見回しても何もない。
あるのは暗い闇だけ。
自分が覚えている直前の記憶は昼だ。
確か、弟から全てを、ことの全てを、真実を聞き出していた。
考えていると目が慣れてきたのが少しずつ辺りの景色が見えてきた。
同時に充満する甘い匂い。
「―――!?」
弟が足元に倒れている。
床一面を真っ赤に染めて。
―――どうして弟が倒れているの?
―――どうして床が真っ赤になっているの?
「 !!」
その名を呼んで弟の元へ座り込むと同時に、手から金属音を立てて何かが落ちた。
真っ赤に濡れたナイフ。
それは、誕生日に聖から貰った―――。
「なん、で……―――」
―――ネェ、 ガ、シンダヨ
両手から、真っ赤な滴がたれている。
―――ボ ク ガ コ ロ シ タ ン ダ
逃げ出したい衝動に駆られながらも、その場に踏みとどまった。
―――ワルイノハ ダヨ。
震えながら、何かに促されるように、そっと指をくわえてみる。
――― ガ、ボクカラ ヲトッタンダモノ
口内に、甘い血の味が広がった。
―――リ ョ ウ 、 ア イ シ テ ル
絶叫がその場に轟いた。
BGM:フランス組曲第1番 ニ短調 3.サラバンド/作曲バッハ midiファイル作成「トオリヌケデキマス」