温かい陽光がローズレイクの湖に反射し、きらきらと輝いている。
その脇の陸地には二人の男女が座っている。
女は青い髪、いかにもおっとりしていそうな顔の教会の孤児院の保母。
男は真っ白な髪と金の瞳を持つ自警団第三部隊隊長だ。
「いいお天気ですね」
「ああ」
第三部隊を立て直してから休日はこうやって二人で穏やかな時間をゆっくりと過ごすのが習慣になっていた。
こうしていると思い出されるのは幼少時代の事ばかりだ。
あの頃が一番楽しかった。
父と母の三人で暇さえあれば家の近くの湖までピクニックに出かけていた。
一方セリーヌも景色を見ていたがふと神無の首にかかっているロケットに目を止めた。
始めて会った時から首に有るそれはよほど大事な物らしく、出会ってから数年の年月が経過していても清潔に保たれており、少しの汚れもない。
「あの〜神無さん。それ、いつも身につけてますけど大事なモノなんですかー?」
「ああ、コレか」
手に取ると鎖がチャリと音を立てた。
大事な物かと聞かれれば大事な物だ。
このロケットは彼女がいた事を示す唯一の証だから。
「これには姉と撮った写真が入ってる。といっても血の繋がりはないけどな」
「まぁ、お姉さんですが。神無さんのお姉さんならきっと素晴らしい人ですね」
「生きていればそうなっただろうな」
「え?」
「俺がまだチビの時に魔物に攫われたからな。十中八九死んでる」
例え生きていたとしてもそれは姉でなくなっているだろう。
姉の姿をした汚らわしい魔物に。
「生きていれば24になってる」
今でも憶えている。
あの光景は一生忘れない。
血を流す姉を抱えたあの男の姿。
闇の中でも見える冷たい白銀の髪と、鮮血のような紅の瞳。
夜風に靡く吸い込まれそうな闇色のマント。
そして人在らざる美しい容姿と口から覗く鋭い牙が男の正体を物語っていた。
「すみません。辛い事を思い出させてしまって……」
「いや、辛くない。気にしなくていい……」
そう。辛くはない。
あれからもう12年も経ってそんな気持ちは風化してしまった。
あるのはただ無性の寂しさと後悔の念だけ。
「そろそろ帰ろう。チビどもが五月蝿い」
「そうですね」
セリーヌの微笑み。
姉と同じ微笑み。
それだけではない。
おっとりとした口調も性格も、姉を彷彿とさせる。
だからこそ、思う。
もしあの時、自分が助けに入っていたら、姉は今でも自分の隣りにいただろうか。
セリーヌとも気が合う良い友人になって。
いや、それどころか自分の存在はあの男の手によって消されていただろう。
神無は12年間ずっとそんな自問自答を繰り返していた。
END
亮祐:管理人です。2nd主人公神無の初お目見え小説いかがでしたでしょうか。CPなのか微妙な小説になってしまった感で申し訳ありません。神無の過去や血の繋がっていない姉の事は後々複線になる予定です。もしかしたらとんでもない展開になるかもよ?題は“12年間の自問自答”という意味でつけたのですが確実に間違ってます。
翔:ちゃんと調べろって。
亮祐:ではこの辺で失礼を。
BGM:『明日』/平原綾香