Unforgivable a conception

old acquaintance

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「俺はいつかこの街を出る。そして今度こそあいつをこの手で見つけ出し、滅してみせる……!!」

 期待してますよ。

「そうですか……。まあ、頑張って下さい。成功することを祈ってますよ」

 私を楽しませてくれることを。










 春の陽光がエンフィールドを照らしている。
 そんな中、工事現場にて埴輪のような白い仮面を被った男がスーツ姿で働いていた。

 ハメット・ヴァロリー。
 人工生命体製造工場のためジョートショップの土地を手に入れようとして葉月を陥れようとした男だ。
 もう少しで手に入るというところで自警団のリカルド・フォスターに全てを露見させられてしまい、自警団に捕まってしまった。
 住民の意見によってエンフィールド追放になるところだったが、アリサと葉月の「根は悪い人じゃないんだから」という口添えのおかげでお咎めなしとなった。
 ちなみに住民の中には「八つ裂きにして市中引き回しの刑じゃーっ!」と叫ぶ者までいたそうだ。
 それほどまでに住民の葉月への想いは強かったという事だろう。
 そして現在は罪滅ぼしの為ボランティア事業に励んでいる。

 ―――この私が、土木作業など……

 だが正直、ハメットはこんな事など嫌だった。
 今までショート財閥の有能な秘書として働いていた自分がこんなくだらない作業など。
 情けなくて溜息を吐いた。

 ふと、後ろから人の気配を感じた。

「さぼってんじゃねぇよ」

 同時に後ろから蹴りを入れられた。
 急な自体にハメットの体は前のめりに倒れた。

「しっかりやれよ。見かけに反して体力あんだから」

 若い青年の声。
 現場の人間ではないようだ。

 ―――こ、この私に蹴りを入れるとは……

 今でこそ秘書という仕事をしているが、ここに来るまではその世界では有名だった。
 おそらく自分の右に出るものはいなかっただろう。
 いるとすれば、まだ若かったがかなりの腕だったあの長い白髪の青年だけだ。
 だが今はそんな事などどうでもいい。
 重要なのは、そんな自分が不意打ちだったとはいえ蹴りを入れられてしまったという事だ。
 平和なこのエンフィールドで長く暮らしていたので勘が鈍ったのかもしれない。
 ぶっ殺すと決めて、ハメットは顔を上げた。

「けど、まさかまともにあたるとはな。あんたなら避けると思ってた」

 相手の顔を見たハメットの顔が固まった。
 目の前の青年が、自警団員の格好をしていたから。

「よう、ハメット」

 それと同時に、その自警団員があの長い白髪の青年だったから。










「まさか、あんたがハメットだったとはな」

 ローズレイク湖畔を前に神無が言った。
 あの後、神無が現場監督に許可を取って無理矢理ここに連れて来られていた。
 神無はハメットが起こした事件のことは知っていたが、自分が知るハメットだとは思っていなかった。
 自分が知る限りでは、このハメットという男はあの世界から足を洗う事はないと思っていた。
 いつも死が纏わりつく危険な世界だったが、その分大金が入る。
 おそらく、死ぬまであの世界にいるだろう。
 そう思っていた。

「同姓同名の別人だと思ってた」
「それはこちらのセリフですよ」

 それはハメットも同じだった。

「まさかあなたが、このエンフィールドの自警団第三部隊の隊長とは」
「隊長じゃねぇよ。隊員が俺しかいねぇだけだ」

 現在第三部隊は先月の隊長他界、依頼の有料化、そして公安設立といった事情で神無以外の隊員達は仕事への意欲を失い、一人また一人と他の部隊に移籍してしまった。
 現在、第三部隊の隊員は神無一人のみ。
 一応ヘキサという第一部隊隊長リカルド・フォスターがサポートとして召喚してくれた使い魔がいるが、彼は全く当てにならなかった。

 ―――第三部隊隊長は、あの方だけだ……

 自警団第三部隊隊長カール・ノイマン。
 彼が死んだ今でも神無はそう思っている。

「第一、なんであんたがここにいるんだ?」
「私の先祖は元々騎士でしてね。ショート家に仕えていたのですよ」
「あんたの先祖が騎士、ね…。その先祖が昔のあんたを知ったらどう思うだろうな」
「さあ? 人々を守るという意味では騎士もあの世界も同じですからね。もっとも、私はお金のためにやってましたが」
「だろうな」
「ですが、あなたはそうではなかったでしょう?」

 ひくりと僅かに神無が反応した。

「人々を守るためでも、金のためでもない。あなたには別の目的があった。そうでしょう?」

 神無は目を細めたまま何も答えない。

「家族を殺されましたか? 住んでいた街を壊滅させられた? それとも、大事な人を奪われましたか?、、、、、、、、、、、、、

 瞬間、ハメットの首筋には神無の剣が突きつけられていた。
 つ、と剣に指を這わす。
 手袋越しでも、濡れていることがはっきりと解る。
 首にはロケットとは別に、服で隠すようにかけられているそれ。
 そして憎しみに彩られた瞳。

「……清められてますね。やはりまだ、失われていないということですか」

 ハメットは満足そうに仮面の下でにやりと笑った。
 この男にはまだ、憎しみがある。
 彼等への憎しみが
 消えることのない憎悪が。

「あたりまえだ。この憎しみが、消えるわけがない。あいつを滅するまでは」

 氷のように冷たい声で、神無は剣を鞘に収めた。
 そう、消える事はない。
 あれから数年の月日が流れたが、この憎しみだけは消える事はがなかった。
 あいつを見つけ出すまで。
 そして、あいつを滅するまで。

「俺はいつかこの街を出る。そして今度こそあいつをこの手で見つけ出し、滅してみせる……!!」

 今はまだ、このエンフィールドを去る事は出来ない。
 自分はまだ、ノイマン隊長への恩を返していないのだから。
 せめて、第三部隊を建て直すまでは。

「そうですか……。まあ、頑張って下さい。成功することを祈ってますよ」
「あんた初めから知ってただろ。俺があの世界にいた理由を」
「私でなくとも、あなたの出身を聞いていれば自ずと解ると思いますよ」
「本当に嫌な野郎だな、あんたは。あんたともあろう人がヘマしてボランティア事業だなんて信じられねぇよ」
「まあ、私も人間ですから」

 それが一番信じられねぇよ、と言って神無は踵を返して歩き出した。
 その後姿を見ながらハメットは考えていた。
 もし、その仇がつい最近までこのエンフィールドにいたと知ったらどうなるのだろう。
 ハメットは知っていた。
 神無の仇の事を。
 何故ならハメットは、つい最近まで彼と共犯だったから、、、、、、、、、、、、、、、

「まあ、教える義理などありませんが」

 今教えてしまっては面白くない。
 それに、あの男ももうこのエンフィールドを去ってしまった。
 愛しい少女と共に―――

 ハメットもローズレイクから踵を返して歩き出した。
 次なる劇に備える為に。










 その日の夜、ハメットはジョートショップに手紙を残してエンフィールドから姿を消した。
 次にエンフィールドへ戻るのは約一年後、葉月達と同時期となる。





END


亮祐:管理人です。前々から書きたい書きたいと思ってた秘書様がやっと書けたーーーーっ!!!ワーイ♪ゝ(▽゚*ゝ)(ノ*゚▽)ノワーイ♪
翔:さっきまでの気分が台無しだよっ!!
亮祐:今回はansenbleサイドストーリーでの出来事です。元々、二人に昔の話をさせてこの二人は昔何やってたんだろうなーって、思わせるくらいのつもりでしたが、秘書さまの怪しさ大爆発ですね。神無と昔からの知り合いといい、冒頭や最後といい。秘書さまは一体何をたくらんでいることやら。さて、次回は再び葉月とシャドウの話を書きたいと思います。もしくはマリアと葉月の話。どちらになるかは管理人の気分次第……。
翔:同時進行で執筆が遅くなりそうな発言だな。
亮祐:ではこの辺で!


BGM:ブランコに揺れて/奥田美和子

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