月明かりが人里離れた森の中をやんわりと照らす。
広場に少女の姿があった。
いつもは二つに結んでいる髪をおろして目を瞑り、月明かりに身を任している。
「葉月」
名を呼ばれ振り返ると、目の前に青年がいた。
白銀色の髪が月明かりを浴びて綺麗に煌いている。
二年前着けていた眼帯も外し、髪と同じ色の瞳を晒していた。
呼びかけたというのにシャドウは何も言わず、只じっと葉月を見つめていた。
「ずっと考えてた」
ひくり、と微かに葉月の肩が動いた。
「本当はあの街にいたかったんだろう?」
シャドウの声が酷く浸透した。
けれど葉月はいつもの笑顔で言う。
「そんなことないわー。私はシャドウさえいれば」
「初めの内はそうだった。けど、あの街の住民は温かかった。記憶を無くして名前以外何も解らないおまえに優しく親身になってくれる程。違うか?」
今度こそ葉月は何も言えなくなった。
クラウド医院で目を覚ました時、名前以外全ての記憶を失っており不安で溜まらなかった。
出身地も、歳も、自分が何者なのかも分からない。
そんな自分を居候させてくれたのはアリサさんだった。
そんな自分に優しくしてくれたのはマリアやリサ、トーヤ等エンフィールドの住民だった。
そんな自分に愛していると言ってくれたのはアレフだった。
自分が昔いた所でも皆よくしてくれたが、それはあくまでも上辺だけだった。
本当に暖かかったのはエンフィールドの皆だけだった。
けれど記憶を思い出してすぐ逃げるようにエンフィールドを去ってしまった。
できることならもっといたかった。
できることなら今すぐにでも戻りたかった。
けれど
「だとしたらどうだっていうのー? 戻れっていうつもりー? そんなことできるワケないじゃなーい。だって、私は 」
普通の人間じゃないから―――
自分達の刻と皆の刻は違う。
違う刻を生きているからもう何年も前から二人で転々として来た。
人が自分とは異なる者に対してどのような態度をとるかなどよく解っている。
慣れている。
けれどあの街の人間にはそんな目で見られたくなかった。
だからエンフィールドを出た。
これ以上辛くなる前に。
「だからこのまま……」
「後悔するぞ」
不覚にもその言葉にビクッと反応してしまった。
「このままだと後悔する。それでもいいのか?」
解っている。
「普通の人間の命は短ェ。会える時に会っておかなかったら会えなくなる。永遠に」
こんなの逃避しているだけ。
再び訪れる別れを味わいたくないだけ。
「葉月、もう一度聞く」
それでも
「本当はあの街にいたかったんだろう?」
私は―――
ある晴れた日。
エンフィールドの祈りと灯火の門から1qほど離れた街道にシャドウと葉月がいる。
「あとは、行けるな?」
「もちろんよー。じゃあ……」
「行ってきます」
葉月は一人エンフィールドへ向かって歩き出した。
エンフィールドの皆に会うために。
後悔しないために。
END
亮祐:管理人です。
本当はタイトルを“後悔しない為に”と修正したかったのですが英語が解らずこうなりました。
翔:おまえほんと英語駄目だな。
亮祐:ではこの辺で!
BGM:なし