Unforgivable a conception

君が好き

モドル | トジル | ススム

 明るい陽光が今日もエンフィールドを絶え間なく降り注ぐ。
 もうすぐ夕刻だがまだ外は明るい。
 人の多い市場に少女が売り物である野菜を物色していた。

「んー、にんじんとー、しゃがいもとー、玉ねぎとー」

 口から出てくる野菜の名から推測するに、今日の晩御飯はカレーらしい。

 少女の名は葉月。
 アリサ・アスティアが経営する何でもやジョートショップの店員兼居候。
 そして本人は全く知らないがこのエンフィールドのアイドル的存在だ。(もちろんファンクラブ有)
 その証拠に市場の人間全員が葉月を見ている。
 懸命に野菜を選んでいる葉月を微笑ましく見ていた。

 けれど今回は少々違った。
 市場の人間が見ているのは葉月だけではない。
 同時に葉月のすぐ傍にいる男も見ていた。
 葉月に対する視線とは全く逆の、悪意に満ちた視線で。
 男はちゃんとその視線に気付いていた。
 そして自分にそんな視線が向けられる理由もちゃんと判っていた。

「……葉月」
「なにー?」

 呼ばれたので葉月は男の顔を見上げた。
 男は両目を隠すような眼帯に黒い拘束衣のような服と闇色のマントいった格好をしており、どう考えても常人からしてみれば普通とは思えない。

 男の名はシャドウ。
 以前このエンフィールドを壊滅させようとした人物。
 もちろん指名手配だってされていた。
 だが信じられないことにその指名手配もつい先日解かれたばかりだった。

「買い物はこれで全部だろ。とっとと帰るぞ」
「えー、別にいいじゃなーい。アリサさんだって“帰り二人でデートしてきていい”っていってくれたのよー?」

 葉月の言葉にシャドウは溜息を吐いた。

 実はこの二人、見かけからいって信じられないことにれっきとした恋人同士である。(この事を知っているのは本の一握りの者だけなのであまり知られていない)
 だからシャドウとしても葉月と二人きりでいられるのは嬉しいが、自分がそう易々と外に出られる身分ではないことはちゃんと判っていた。
 いくら指名手配が解かれたといってもこのエンフィールドを壊滅させようとしたことは事実。
 エンフィールドの住民からしてみれば自分が住んでいるこのエンフィールドを壊滅させようとした悪人以外の何者でもない。
 だが、だからといってシャドウはそのことで住民に起こったり弁解する気は毛頭ない。
 住民に自分のことをどう思われようが別に気にしていないし、興味もなかった。

 だが流石にこの視線は浴びていていいものとは到底思えない。
 何より自分が葉月の傍にいることによって葉月まで良く思われなくなるんじゃないかと心配だ。
 だから早くこの場を離れようとしているというのに葉月はシャドウに向けられている悪意に満ちた視線に全く気付いていなかった。

「いいか?葉月。例え指名手配が解かれてもここの奴らにとって俺は犯罪者だ。極悪人でしかない。そんな俺が外で堂々とおまえの傍にいたら……」
「私も悪く思われるって事ー? そんなことないわー。それにシャドウ誤解してるー」

 誤解?
 一体何を根拠に誤解だと言えるのか。
 こんなにも悪意に満ちた視線が向けられているというのに。

「ここの人たちはそんな人じゃないわー。みんな良い人よー。ほらー」

 そう言って葉月は周りを見回していく。
 途端に優しい顔になっていく住民達。
 だが葉月の視線がこちらに戻るとまた悪意に満ちた視線を自分に向けた。

「ねー?」
「……………」

 シャドウはもう何も言えなかった。
 葉月の極度の鈍感に。
 そして住民の反応に。
 まるでド○フの「志村っ!後ろ後ろっ!!」だ。

「と、とにかく帰るぞ。おまえがまだ帰りたくないなら俺だけでも……」
「シャドウー」

 悲しそうに歪んだ表情で見上げてくる葉月。
 思わずちくりと胸が痛み、自分が悪いような気さえしてしまう。

「私といるのは嫌ー?」
「な…!? そんなワケないっ!!」

 そんなことある訳がない。

「そんなこと思うワケがないっ! 嫌ならおまえの傍にいねぇし、消えたおまえをわざわざ探したりなんかしないっ!  俺が、おまえの存在にどれだけ救われたか…」

 今でも思う。
 もし、あの時葉月に助けられていなかったら?
 もし、あの時葉月に手を伸ばしていなかったら?
 もし、あの時葉月に出会っていなかったら?
 今でも一人で世を彷徨っていたのだろうか。
 ぬくもりを渇望しながら。

 いや、あのままでは―――。

「俺が生きる上でおまえ以外の奴らは意味なんかねぇんだっ! 俺はっ…」

 そこでシャドウは今の状況を思い出した。
 自分が思い切り大声だったことに。
 今は昔のように二人きりではないということに。

 ここは街中の、それも市場だけあって大勢の人がいるということに。

 案の定、周りにいる住民は無言で点になっている。

「〜〜〜〜〜ッ」
「どうしたのー? シャドウー?」

 葉月は頭を傾げた。
 シャドウがしゃがみ込み、耳まで真っ赤になっていたから。

 それからしばらくの間、一つの噂がエンフィールドを騒がせた。

 エンフィールドを滅ぼそうとした極悪人はロリコンだ

 そんな内容の。





END


亮祐:管理人です。元々シャドウに君が好きだみたいなことを言わせるほのぼののつもりで副題をこれにしてCD聞きながら書いたのに何故かこんなことになってしまいました。
翔:計画性がないからじゃないか?
亮祐:軌道修正をしなければなりませんな。このままだと「Everlasting a Conception」のシャドウと被ってしまう。ではこの辺で。


BGM:『君が好き』/Mr.CHILDREN

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