アレフ達は事情を知ったアルベルトと葉月の姿を発見した直後、草むらに隠れていた。
草の影から見つからぬよう葉月を覗き見している。
葉月に元気がない理由を探る為もあったが、他に別の理由があった。
「はい、キレイでしょー?」
葉月が口元以外全身にローブを纏った怪しい奴と親しげに話していたから。
そいつは葉月が差し出したクローバーの冠を無言で受けとった。
口元には笑みが浮かんでいる。
マリアとリサがそいつに注目した。
「あれ、誰かな?」
「まさか、買い物はアイツとデートするための嘘だったんじゃあ……」
「「なにーーーっ!?」」
アレフとアルベルトは思わず大声を上げて立ち上がった。
聞こえて来た大声に二人がこちらを見る。
「あー、アレフとアルベルトだわー」
「―――っ!?」
そいつは一目散に逃げていく。
けれどアレフとアルベルトがやすやす見逃す筈がない。
「「あっ! まちやがれっ!!」」
アルベルトとアレフがそいつ目掛けて駆け出していく。
こういう時となると見事に一致する二人のコンビネーションによりそいつを捕まえた。
――が
―――どっぼーんっっ!!
勢いで三人もろとも湖の中へ落ちた。
「すっご〜い☆」
「あ〜あ、三人もろとも水浸しか……」
「大丈夫かしらー?」
三人が沈み、ぷくぷくと水泡が上がる水面を女性人陣が見詰める。
やがて水面からその姿を現した。
「テメ、ドコのどいつだっ! 人の女横取りするようなマネしやがってっ!!」
少なくとも葉月はおまえのモノではないぞ、アレフ。
「貴様、淫行罪でしょっぴくぞっ!!」
あれぐらいで淫行罪にはなりません。
何をいわれようが、襟首を掴み上げられようがそいつは何もしないし、何も言わない。
責める二人を止めるように葉月が声をかけた。
「それくらいで勘弁してあげたらー? 二人ともー。それに早く上がらないと三人とも風邪ひいちゃうわよー?」
最もな意見だ。
いくら春が来て暖かくなったからといっても水温はまだ低い。
アレフとアルベルトが湖から上がる。
けれど次の瞬間、全員に戦慄が走った。
「大丈夫だったー? シャドウ」
葉月が同じく湖から上がった彼に対して、その名を呼んだから。
シャドウ。
約二年前、葉月を陥れようとした男。
そのためにこのエンフィールドを壊滅させようとした。
驚いたのはアレフ達だけではない。
そいつもまた、名を呼ばれたことに驚いていた。
「葉月、おまえ…!」
「いいじゃない、別にー」
「どういうことだよ、葉月っ!」
「シャドウって、あの眼帯ヤローかっ!?」
「アンタ何しに戻ってきたんだいっ!?」
「もしかしてまた葉月をっ!?そんなのマリアが許さないんだからっ!」
皆が武器を取り出し、一斉に戦闘体制へと入る。
シャドウも、全身に羽織っていたローブを脱ぎ捨てた。
その姿にアレフ達は息を呑んだ。
陽光の下に現れたのは拘束衣のような服。
雪のように白い肌。
神秘的な白銀の髪と瞳。
今まで数回対峙した中で彼の両の瞳を見るのはこれが初めてだ。
黒い拘束衣のような服が彼の白さを一層際立てていて。
二年前のシャドウは褐色の肌だったことも忘れ、アレフとアルベルトの男性陣も同性だというのに思わず見惚れてしまうその美しさに言葉を失い、その場に立ちつくした。
傍にいた葉月がシャドウに話し掛ける。
「まってー。ダメよーシャドウ。そんなことしたって何の意味もないじゃなーい」
「じゃあ、どうしろっていう……!!」
シャドウの言葉は続かなかった。
唇に、触れるだけの、軽い感触。
シャドウが葉月にキスされた。
「「「「………………………」」」」
今見たものに戦闘態勢万全となっていた四人も放心状態になっている。
「やめてくれるー?」
「…わかった………」///
シャドウは体から湯気が出そうなほど真っ赤になっていた。
「みんなもやめてくれるー?ワケならちゃんと話すわー」
「「「「わ、わかった・・・」」」」
他の四人も戦闘態勢を崩した。
というより、さっきので既に崩れていた。
四人は思った。
―――今の見たものが幻であってほしい……
本当に、心の奥底から。
亮祐:管理人です。シャドウの登場によりシリアスへ転向するかと思いきやいっきにギャグに。やっぱりこういうドタバタギャグ書いてる時が一番楽しいかも。次で終わります。
ではこの次で。
BGM:『スカーレット』/スピッツ