ローズレイクには一本だけ桜がある。
いかに季節が巡ろうと桜は何時も花を咲かせていた。
いつからあるかなんて誰も知らない。
けれど桜はいつも花を咲かしている。
月が青白い闇夜を作り出す。
ローズレイクの桜を葉月が見上げていた。
風に吹かれてさらさらと花弁を散らしている。
まだ肌寒い風が葉月の頬をひんやりと撫でた。
後ろから人の気配を感じる。
「こんな所で何してんだ?葉月」
後ろにいたのは親友のアレフだった。
花弁が散る中、こちらへ近付いてくる。
「夜桜を見ていたのよー。エンフィールドでいちばんきれいな夜桜を見たかったからー」
葉月は再び夜桜に目を向けた。
夜の桜は花びらがどことなく白く、幻想的な雰囲気を感じる。
ここ最近、葉月は夜になると決まって何処かへ行っていた。
気になったアレフが尾行すると、ここ、エンフィールドで唯一桜があるローズレイクに辿り着いた。
冷たい風が強く吹き抜けた。
「……もうそろそろ帰らねーか? 夜も遅いし、風邪引くぜ?」
「でもねー、私夜桜が好きだからもう少しだけみたいのよー」
「夜桜が、か?」
「そうよー」
それを聞いてアレフも葉月と共に夜桜を見上げた。
葉月が夜桜を好きだと言う気持ちがアレフには少し分からなかった。
確かに夜桜は綺麗で幻想的だがどことなく不気味だった。
桜の木の下には死体が埋まっているから綺麗な花を咲かせる。
恐い迷信から来る先入観からかアレフはどうしても夜桜は好きになれなかった。
それにこの桜は冬でも花を咲かせている。
迷信が真実だといっているかのように。
「夜桜はねー、私にとって大切な思い出深いものなのー。とてもとても大切な思い出なのー。だから逢いたくなったらここで待ってればきてくれるのよー」
「どういう意味だ?それ」
「それは秘密よー。とても大切な思い出だからー」
それきり葉月はこちらが何を言っても返してくれなくなった。
アレフは葉月を置いてというのにはちょっと癪があったが先に帰る事にした。
夜も遅いし、それに明日は別の女の子とのデートもあった。
「じゃ、俺は先に帰るけど葉月も早く帰れよ」
踵を返したその場を後にした。
アレフが街の方へ向かっていったのを確認すると葉月はそこに座り込んだ。
帰るつもりなどさらさら無かった。
ざあ、と風が桜を一層強く吹き抜ける。
『大丈夫だ……!』
葉月の脳裏に、昔の記憶が甦る。
彼に抱きかかえられ青白い闇夜を駆け抜けていく。
『俺がおまえを死なせはしない……!!』
息を切らす彼の声が耳に響く。
今にも泣き出してしまいそうな彼の声。
そう。あの時も桜が咲いていた。
闇夜を走る彼と私に桜が降り注いで。
「葉月」
風に散った花弁が現れた彼に降り注いだ。
「逢いたかったわ、シャドウー」
END
亮祐:管理人です。アレフ×葉月と見せかけてシャドウ×葉月。これが本命です。実はいちばん最初に書いた葉月の話だったんですが、後半殆ど修正しちゃってます。過去の情景を匂わせた方がいいと思いまして。ではこの辺で。
BGM:なし