Out of reach a conception

恐怖、美貌、虜

モドル | トジル | ススム

 春とはいえまだまだ肌寒い夜の空気が肌を撫でる。
 テディはエレンに呼び出され、ジョートショップの屋根の上にいた。
 エレンの隣に腰を下ろし、彼女を見上げている。

「え?」
「だから、出てくから。エンフィールド」

 その一声にテディは絶句した。

「な、なん、で」
「実は何もいわずにここへ来たもんだからさ。そろそろ生きてるって報告がてら帰っておかないと」

 ―――帰るって
 ―――帰るって

「それなら手紙とかでもいいじゃないっスか……!!」

 ―――エレンさんがジョートショップからいなくなることが どういうことかわかって……

 エレンが来るまではアリサとテディだけで経営をしていたが、そこじは目の不自由な未亡人と小さな魔法生物。
 経営状態は火の車だった。
 そこにエレンが来て、そしてピート、パティ、メロディといった仲間が手伝ってくれて。
 やっと経営が安定してきたのだ。
 だというのに、今要であるエレンがいなくなればどうなるか。

「それでもいいんだけどさ―――」



「アリサさんの目に効く薬探そうと思って」
「ご主人様の?」
「そ」

 返事をするとエレンは立ち上がり、向こうの景色hと視線を移す。

「俺の保護者がかなりの博学でさ、もしかしたら先天性の視覚障害にも効く薬の在り処とか、作り方とか知ってるかも知れないと思って。いい機会だから一度帰ろうかなーと」
「そうっスか……」

 理由にテディはほっと安堵の息を吐いた。

「いつ帰るんスか?」
「これから」
「えええっ!?!?!?」

 その返答に深夜という事も忘れて驚いた。

「いくらなんでも早すぎるっスよっ!」
「時間的にこれから帰らないと間に合わないんだわ」

 エレンはあははとあっけらかんに笑う。

「じゃあ、もうみんなには話してあるんスね?」
いんや。おまえに話してのがはじめて
「えええっ!?!?」

 その返答に再び驚いた。
 エレンがこういう性格だとテディは解ってはいるが、どうにも慣れなかった。

「なん」

 ―――それは

「で――」

 ―――はじめて出逢った時に感じた 彼女の

 エレンから発せられる異様なほどの鬼気が、周囲の空気を揺れ動いているように感じさせる。
 今や爛々と、鮮やかな紅い血の色をした目がテディを見下ろして―――。

「おまえは、あたしを止めるなんて馬鹿なマネはしないだろう?」

 そう言って、エレンは笑む。
 誰をも戦慄させる壮絶な笑み。
 あの時と同じ。
 それは、闇を生きる彼女にもっとも相応しく―――。

 だから慣れないのだ。
 エレンのこの一面も知っているから。
 普段の底抜けに明るいエレンも、目の前のエレンも同じエレンだ。
 けれど、あまりにかけ離れた雰囲気をしているものだから。

 テディはエレンの足元に頭を垂れた。
 躊躇いもなく、自然に。
 その様にエレンは満足そうに笑う。

「だいたい一年くらいで帰ってこれると思うから、あたしの行き先を誰にもいうんじゃないぞ?」

 そんなの言われるまでもなかった。

「―――誰かにいうつもりなんてないっスよ」

 そう。誰にも言ったりしない。
 彼女の行き先も、正体も。
 普段のエレンからは全く感じられないだろうが、この女の本性は誰よりも残忍で冷酷だ。
 少しでも余計なことを漏らせば、この身は一瞬でこの世から消え去るだろう。

「良い子だ、テディ」

 エレンの声に背筋がぞくぞくする。
 誰にも言わない理由は恐怖だけではないのだろう。
 テディもまた、この女の恐怖と美貌の虜となっているのだから。





END


亮祐:管理人です。エレンがエンフィールドを出る前の話を書いてみました。
翔:テディがとんでもないことになってる!!
亮祐:純粋にテディが好きな方、ごめんなさいm(_ _)m 「not reach a conception」のテディはエレンの美貌と恐怖の虜になってます。だからこんな感じなのです。普段のエレンとは普通に接してますが、女王様モードになるとこんなことに。
翔:女王様!?
亮祐:エレンのイメージは実は女王様なのです。口の悪い女王様。被害者は他にも多数。ちなみにテディがこうなった理由はエレンがエンフィールドに来たときの話で明らかになる予定です。次はそれか、もしくはパティが主役の再審議投票前夜の出来事になる予定です。ではこの辺で。


BGM:跪いて足をお嘗め/ALI PROJECT

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