―――長い間、一人にされた。
呆れた顔で彼を見下ろすエレンの姿。
「やり方が陰湿なんだよ、おまえは。本当にシャドウだな」
―――怒りたかった。
抱きしめてくれた彼女の、久しぶりの体温に包まれて。
「悪かったよ」
―――寂しかった。
そして部屋に二人の姿。
エレンは鋭い眼差しを持って床に膝をつくシャドウを見下ろしている。
シャドウもまたエレンを見つめていた。
今や爛々と紅く輝く瞳を。
エレンが発する異様なほどの鬼気に、背筋に汗が伝っていた。
「クッ……。お、俺が貴様なんぞに負けちまうとはな……」
「安心しろ。俺にはもうこれ以上おまえを攻撃する気は毛頭ない。勝負はついたのだから」
「ケッ…ヘドが出るぜ。俺に情けをかけるってのか?」
「ああ。おまえだって半分は人間だ。それより、一刻も早くエンフィールドから立ち去ることだ」
エレンの紅い瞳が元の白銀色に戻っていく。
もうすっかり元のエレンに戻った。
―――本気で逃がすつもりか……
シャドウが不機嫌そうに舌打ちした。
「おまえらしくもない。どういうつもりだ? エレンシア」
「……俺の名を知ってるといい、以前から俺を知ってる台詞だな。いったいおまえは誰だい?」
「まだ、わかんねぇのかよ……」
立てた膝に顔を伏せた。
今の顔を、悲愴に歪められたこんな顔を見られたくなかった。
エレンは何も気付かない。
事件を起こしたのも。
教会で預言者として陥れたのも。
全てエレンに原因があるというのに。
何故気付いてくれない。
何故解らない。
胸が張り裂けそうだ。
「おまえこそ、まだ気付かないのかい?」
頭上からエレンの声が降り注ぐ。
「この俺がおまえに気付かないとでも?」
すぐ顔を上げた。
エレンが煌びやかに微笑んでいる。
「この俺が、いや、あたしがこの目をさらけ出した見も知らず相手を逃がすとでも?」
顎に手を添えられた。
そうだ。
本気を出したエレンが情けをかけるはずがない。
いかなる時でも相手を殺してきた。
それに
『ああ、おまえだって半分は人間だ
エレンは半分人間だと断言していた。
人間かさえ解らないのに、半分人間だと。
導かれた答えは一つだった。
「いつから、気付いて……?」
「釈放されたすぐ後に美術館に行ってね。おまえ気ィ残しすぎ。どう考えたって俺がやりましたって主張してるようにしか思えないっての。ま、普通の人間じゃあ解らないけど」
エレンが呆れたように溜息を吐いた。
「おまえのことだから、音沙汰ないあたしに腹立てたんだろう?」
顎に添えられていたエレンの手が頬に触れた。
「事件を起こして、あたしがこの街から追い出せられたら帰ってくるって考えたんだろう?」
―――ああ、そうだ。
―――すぐ帰るといっておまえは行った。
―――なのに、半年経っても何の連絡もしやしない。
―――心配にもなるじゃないか。
―――なのにどうだ。
―――探して様子を見れば、街の連中と楽しそうにしやがって。
―――怒りたくもなるじゃないか。
「やり方が陰湿なんだよ、おまえは。本当にシャドウだな」
「――そっちが、いい出したくせに……」
―――俺をシャドウといい出したのは。
『あんたって、ほんと臆病ね』
脳裏に、少女の呆れた声が甦る。
『今日からあんたはシャドウよ』
白銀色の髪、同じ色の瞳が向けられている。
楽しそうな笑み。
―――臆病だった子供の俺は何も言い返せなかった。
エレンはフウ、と溜息を吐いた。
そして屈み、シャドウの眼帯を外す。
露わとなった、黒い両の眼がエレンを見つめている。
そして、そっと彼に腕を回した。
シャドウは思わず目を見開いた。
「悪かったよ」
シャドウの耳元で、エレンの声が聞こえる。
「今回はあたしにも非がある。長い間、おまえを一人にした」
―――そうだ。俺は一人だった。
―――こんな長い時間、おまえが居ないなんて事、一度もなかった。
―――俺は、寂しかった。
「悪かった」
「エトヴァルト」
本当の名を呼ばれると同時に、頬が一筋の水に濡れた。
「ところで、その髪どうした? おまえ長い黒髪だったじゃん」
「切って染めたんだよ、変装で……」
「どうでもいいけどさあ、次変装する時は眼帯はやめろよ。趣味悪いから」
「―――またいなくなる気か、テメエ……」
END
亮祐:管理人です。エレンのシャドウもやっと初お目見えですワーイ♪ゝ(▽゚*ゝ)(ノ*゚▽)ノワーイ♪ エレンのシャドウは同一人物ではなく別人設定です。しかも本当は長い黒髪で本名はエトヴァルト。
翔:シャドウじゃなくなってるじゃねぇか!!
亮祐:事件を起こした理由も、長い間一人にされて寂しかったから。そんな理由でエンフィールド壊滅させられようとは住人いい迷惑ですな( ̄∇ ̄;)
ハッハッハッ
翔:書いてるのお前だよ!!
亮祐:ちなみに彼はよく回想で出てくる彼ではありませんのであしからず。次は何を書こうか。ではこの辺で。
BGM:瞳を閉じて/「TAM Music Factory」