Out of reach a conception

ライラ  4

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 自警団内の通路に二人分の足音が響く。
 ライラはリカルドから話を聞きながら第三部隊の部屋へ向かっていた。

「サポート、ですか?」
「ああ。流石に君独りだけで第三部隊を立て直すのは大変だからね」

 隊長のカール・ノイマンが他界して以来、隊員は次々と他の部隊へ移動してしまい、現在第三部隊はライラ独りだけとなっていた。
 ライラは移動せず第三部隊を立て直す道を選んだが10代の、それも少女がそれを実行するのはあまりにも無謀と判断したリカルドはサポートを付けることにした。

「魔術師組合から一年という期限付きで使い魔を借りることにしたんだよ。本当は今日君が帰る前に会わせるつもりだったが、少し目を離した隙に逃げられてしまってね」

 つい先ほど捕まえてライラを呼び、今に至るという訳だ。
 リカルドがそこまで考えていてくれた事にライラは感謝し切れなかった。
 やがて二人は第三部隊の部屋前へ到着した。

「戻ったぞ、ヘキサ」

 リカルドが扉を開けると中には椅子に座った小さな少年がこちらを見ていた。
 ライラは少年に見覚えがあった。
 勿論、少年の方もライラを覚えていた。

「ああーーっ! おまえはーーっ!!」
「君はさっきの……」

 少年がライラを指差す。
 ライラも目を見開いた。

「知っているのかね?」
「はい。医院へ向かう途中にあったんです。僕が迷子だと勘違いしてしまって……」

 まさかこんな形で再会するとはい思ってもいなかった。
 リカルドとライラはヘキサの下まで移動した。

「とにかく紹介しよう。彼はヘキサ。第三部隊のサポートの為に召喚した使い魔だ」
「さっきはごめんね。君みたいな子に会うのは初めてだったから気付かなかったんだ」
「けっ、今更謝られたっておせーよ」

 よほど気を悪くしたのかヘキサの機嫌は直らない。

「だいたい、おまえ女だろ。本気で第三部隊ってのを立て直せると思ってんのかよ」

 ライラは少々面食らった表情を浮かべている。
 リカルドはしまったと後悔した。
 第三部隊のことは話したがライラの事情まで説明していなかった。

「ヘキサ、かの……」
「フォスター隊長」

 ライラはリカルドを制止すると背を屈め、ヘキサと目線を合わせた。
 ヘキサはライラの憂いを帯びた笑みにドキドキしていた。
 初めこそ気に入らなかったもののこうして見ると可愛いではないか。

「改めて初めまして、ヘキサ。僕の名前はライル・ハインリッヒ・コルネットっていうんだ」
「ライル・ハインリッヒ……? おまえ男かっ!?」
「そう」

 ショックでガラガラと音を立てて崩れていく。
 一瞬とはいえ男にドキドキしてしまうなんてこれでは変態ではないか。
 そもそも男のくせになんでこんな女顔なんだ。

 そんなヘキサの心情を知らないライラはリカルドに話し掛けた。

「それではヘキサを連れて失礼します」
「いいのかい? ライルくん、ヘキサには本当のことを……」
「いいんです。ヘキサのことありがとうございました。ヘキサ、行こう」

 一礼すると傷心するヘキサを連れて部屋から去って行った。
 リカルドはライラが出て行った扉をしばらく見つめていた。










 外へ出てみると茜色の夕日が空を赤く染めていた。
 災害対策センター前を歩いているとヘキサが一つの疑問に気付いた。

「なぁ、自警団寮へ行くんだろ? 方向が違うんじゃねぇの?」

 自警団寮は街をどちらから攻められても護れるよう事務所が入口である南側、北側と西側は演習場、そして残った東側にある。
 それなのに二人は北の方向へ歩いていた。

「ああ、行ってなかったね。僕は毎週週末はローザさんと家で過ごしてるんだ」
「ローザ? 誰だそれ」
「ローザさんは僕の従姉で、恋人なんだ」
「恋人っ!? 彼女かっ!? 華奢で女顔のくせにやるじゃねぇか!!」

 ばしばしと背を叩かれてもライルは嫌な顔せずあの笑みを浮かべる。
 思わずヘキサは手を止めた。
 こんな笑い方をするのに男だなんて。
 ヘキサは未だに半信半疑だった。
 そんな事を知らないライラは話を続けた。

「ローザさんも普段は家にいなくてね。だから前日の夜に帰って掃除する必要があるんだ。ヘキサも手伝ってね」
「お、おう」
「さぁ、着いたよ」

 目の前には白を基調とした大きな家があった。
 屋敷とまではいかないが、それでも充分高級そうな家だ。

「これがおまえん家か? 高そうだなー」
「高かったけど、僕らの両親の保険金で購入したんだ」
「保険金って……」
「五年前に死んじゃってね。その時この家を購入したんだよ」
「わりぃ……」
「いいんだ。さ、どうぞ」

 扉を開けると中はやはり広かった。
 部屋に続く扉が幾つもあり、清潔感もある。
 ヘキサはその中の一つに手をかけた。

「あっ、そこはダメ……っ」

 ライルの声も聞かず開けた部屋は寝室だった。
 ベッドと机とタンスと棚。
 家同様全体的に白で統一されている。
 ベッドの上はふかふかで、ぽんぽんとはねてハシャぐ。
 ライラはヘキサを見ながら溜息を吐いた。

 ―――いうだけムダだったな……

 こうして見るとそこら辺にいる子供と何ら変わりはない。
 それなのに自分よりも長く生きている使い魔だなんて誰が想像できるだろう。

「ここっておまえの部屋か?」
「ううん、そうじゃないよ。ここは……五年前に事故死しちゃった妹の部屋。もし今も生きてたらって仮定して……ローザさんが色々と買いそろえていく部屋、なんだ」

 死んだライラを想っての部屋。
 ライラは生きているというのに。
 だから本当はローザの幻想を守る為の部屋だ。

「僕の部屋はあっちだよ」

 ライラは自分の部屋を指差し、そこへ向かおうとした。
 ヘキサは机の上に置いてあった写真立てを見ていた。
 写っている人物を目にした途端、眉間に皺を寄せる。

「なぁ、ライル」
「何?」

 ライラが振り向くとヘキサは手にした写真に写っている人物を指差した。
 写真は寮に置いてある集合写真と同じ物で、指差していたのはライラ本人だった。
 何も知らないヘキサに自分だとは言えなかった。

「うん、そう。それが亡くなった妹……」
「おまえだろ?」

 ヘキサの声が妙に浸透して聞こえた。

「どう見たっておまえじゃねぇか」

 真っ直ぐな瞳で見つめてくる。
 ライラにはもうこれ以上嘘は吐けなかった。

 一方ヘキサの方は瞳こそ真っ直ぐ見つめていたが心中は緊張していた。
 まだ出会って一時間ぐらいしか経っていない相手に本当の事を話してくれるだろうか。
 次の瞬間、その心配は吹き飛んだ。
 ライルがあの笑みを浮かべていたから。

「よく解ったね、ヘキサ。双子だから今まで誰にも気付かれなかったのに」
「ま、まぁな」

 鼓動が急激に早くなる。
 ただ笑みを見ただけだというのに。
 体温も上昇していた。

「ローザさんはね、心にカバーをかけちゃったんだ。本当は……そう、本当は死んだのは兄のライルの方なんだけど、何度いっても僕がライラだって認めてくれそうにないんだよ」

 いくら言っても解ってくれなくて、悲しかった。
 酷いと思った。

「けど僕は、ローザさんが大好きだから」

 ローザさんに笑っていてほしいから

「このままライルでいようって決めたんだ」

 その為なら嘘を付くことも否めない。

 ヘキサは俯き口を噛み締めていた。
 なんて悲しいのだろう。
 なんて切ないのだろう。
 たった15歳の少女が従姉であり、兄の恋人の為に兄として生きるなんて。

「じゃあ掃除始めようか」
「あ、ああ」

 潤んだ瞳を擦ってライラの後を付いて行く。
 その背中を見つめながら思う。
 一体ライラはこの15年をどのように生きてきたのだろう。

「なぁ、掃除が終ったら…おまえのこと話してくれよ」

 聞きたかった。
 ライルのこと。
 ローザのこと。
 両親のこと。
 目の前の少女を知りたかった。

「うん、いいよ」

 ライラはあの帯びた笑みを浮かべた。
 つられてヘキサも笑った。

 これが後の第三部隊隊長とその相棒の付き合いの始まりだった。





END


亮祐:管理人の亮祐です。 今回でライラとヘキサの出会いが実現しましたが同時に恋に芽生えてしまいました(笑)ヘキサは使い魔だけあって長く生きてるんじゃないかと思ってますんで当サイトではこの設定でいきます。ライラは今回で終了です。次回からはしばらくの間エレン中心になる予定です。書きたいのは色々あるんですよ。悠久時のピートの獣人化に奮闘する話やエンフィールドに来た話とか。あとシャドウとの関係。ここのシャドウも 「unforgivable a conception」同様他人設定なので。ではこの辺で失礼を。

BGM:『乾いたKiss』/Mr.CHILDREN

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