「……行ったか」
そう言ってエレンは蛇口を止めると湯船につかる。
この事は別に秘密にしていた訳でもないし、隠していたわけでもない。
ただ言わなかっただけ。
説明するのも面倒だったし、周りの皆がそう思っているならそれでもいいと思っていた。
けれど知られてしまった。
彼はいったいどのように思うのだろうか。
やはり隠し事をされたことに腹を立てるのだろうか。
それともショックを受けるだのだろうか。
これからお互いの関係が変わってしまうのだろうか。
「まあ、考えても仕方ないか」
そう結論を出すとエレンは勢いよく湯船から上がり、浴室から出ようと扉を開ける。
そこにはアリサとテディが心配そうな表情で立っていた。
「エレンクン、さっきアレフくんが……」
「ああ、実はさっき裸を見られちゃいまして……」
「やっぱりそうだったスか」
「それでどうするつもりなの?」
「どうするもこうするも…いうしかないですよ。まさか何もいわないワケにもいかないし」
―――それにさっき質問に答えるともいっちゃったし
タオルで体を拭きながらめんどくさそうにフンと鼻から息を出した。
そんなエレンをアリサは“エレンクンらしいわ”と微笑みながら服を渡す。
「それなら早くアレフクンのところへ行ってあげなさい。私が声をかけてもそのまま二階へ上がって行ってしまったから」
「なんならボクも一緒に行くっスよ?」
「お気遣いありがとうございます。けど大丈夫ですよ」
“ははは”と軽く笑いながら服を取るとエレンは二階の自室へ歩き出す。
テディは心配だと、アリサは大丈夫だろうと思いながらエレンの後姿を見守った。
アレフはエレンの自室にて床の上に座り込み、今までの状況を整理していた。
最初はジョートショップに泊めてもらうことになり、先に風呂に入らせてもらった後、エレンが風呂に入った。
タオルを忘れているのに気が付いて脱衣所まで持って行ってやり、それを伝えようと男同士の気軽さから扉を開けた。
そして見てしまった。
シャワーを浴びていたエレンの裸を。
エレンの胸に豊満な膨らみがあったのを。
そして下半身にはアレがなかった。
「よ、おまたせ」
そこへエレンが現れた。
グレーの髪はちゃんと拭いて来なかったらしく濡れていて、伝う水滴が肩に羽織っているタオルや首周りを濡らしている。
「いい加減髪くらいちゃんと拭けよ。風邪ひくぜ?」
「一応これでも拭いたんだけどなぁ…」
肩に羽織ってるタオルを手に取って髪が痛まぬよう丁重に拭いてやる。
いつも通りの風景。
いつも通りのエレン。
けれど、もういつもとは違う。
「――で、何から知りたい?」
「おまえ……女、なのか?」
「そうだけど?」
あっさりとエレンは答えた。
「じゃあ、今までは、その……どうしてたワケ?」
こういうのはなんだが、風呂で見たエレンの胸はかなりあった。
おそらくEはあった。
「ああ、さらしで押さえてたんだよ。邪魔だったからさ。」
そうか。さらしで押さえてしまえば服の上から見ただけではわからないだろう。
「重いし肩こるし。Eカップもあったもんだからさ〜」
「やっぱりEっ!?」
エレンの最後の一言に思わず反応した。
悲しき男の性だった。
「けど、なんで押さえつけてたワケ?」
いくら邪魔だからってそんな窮屈なことをする理由がアレフには解らなかった。
「だから邪魔だったから」
「ブラすればいいだろ」
「ブラ嫌いなんだよ。平らな方がいい。それに」
「男って思わせた方が、女の子をはべらせんのに都合がいいだろう?」
楽しそうに言い切った。
アレフはすっ転んで頭をぶつけた。
「まあ男も好きなんだけどさ。ほら、俺って気持ちよけりゃ何でもいいし」
身も蓋もない言い方に再度すっ転んだ。
「いや、だからって……」
「アレフ」
それは初めて聞く、エレンの真面目な声。
「これが、俺なんだよ」
真っ直ぐな瞳で自分を見つめて言い放った。
とても気高くて、美しいと思った。
元々顔は良いのだ。
黙っていればそこら辺の女など目でもない美形の持ち主。
それなのに今まで男だと思っていたのはこの不精者と思われる態度のデカさと口の悪さの所為だろう。
「さあてとっと」
次の瞬間には背伸びをしていつもの声のトーンに戻っていた。
「――で、どうする? 予定通り泊まっていく? それとも今日は帰る?」
質問の意味が解らなかった。
元々アレフはジョートショップへ何時ものように泊まりに来たというのに。
いつものように。
―――ああ、そういうことか……
帰れば一人の女性として、泊まっていけば今まで通り一人の友人として。
エレンはこの先、自分がどう見られるのか試しているのだ。
答えは決まっていた。
「バーカ、泊まるに決まってんだろ」
男であろうと女であろうとエレンはエレンだ。
それは永遠に変わらない。
笑顔で答えたアレフに、エレンも笑顔を返した。
「んじゃ、そろそろ寝ますか」
「ああ」
11時を告げる鳩時計の音を聞きながらエレンは自分のベッドに、アレフはあらかじめ床に敷いておいた布団へ横になった。
静寂の中、アレフは考えていた。
「アレフ」
「ん?」
今まで色んな事があったが今日以上に大きな出来事はなかっただろう。
「実はエレンっていうのは愛称で、本名はエレンシアっていうんだよ」
これも含めて。
END
亮祐:管理人の亮祐です。悠久女主持ちさんに5のお題の2であり二つ目に書いた「not reach a conception」はいかがだったでしょうか?設定変更しましたが傍若無人ぶりは相変わらずです。
翔:これでも賛否分かれるな。
亮祐:設定変更前では恋愛関係にするつもりはありませんと断言しましたが、解らなくなってしまいましたな( ̄∇ ̄;) ハッハッハッではこの辺で。
BGM:瞳を閉じて/「TAM Music Factory」