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  願いを叶える店 vol,3  

「この子の名前はモコナ=モドキ。モコナがあなた達を異世界へ連れて行くわ」
 まんじゅうみたいな生き物は魔女さんだけでなく四月一日君も抱えていて、黒まんじゅうみたいなそっちはしゅたっと手を上げてきた。それに私が小さく手を振り返すと、白くて細いのもへにゃへにゃ笑いながら一緒になって振り返した。
 うわ何やってんだろ私ら(←ほんとにな)
「おい、もう一匹いるじゃねぇか。そっち寄こせよ、俺ぁそっちで行く」
「そっちは通信専用。出来ることはこっちのモコナと通信出来るだけ」
おお、黒いのはいきなり別行動宣言かましたよ。協調性ねぇなぁおい(←お前が言うな)
でも黒まんじゅうは白まんじゅうと通信することしか出来ないらしい。意外だ。こんなちっこいまんじゅうみたいな生き物の一匹で、五人も異世界に運ぶことが出来るなんて。
いやそもそも、白まんじゅう一匹でどうやって異世界に行くんだろう?
私が不思議そうに白まんじゅうを見つめている間に、魔女さんの話は進む。
「モコナはあなた達を異世界に連れて行くけれど、そこがどんな世界なのかまではコントロール出来ないわ。だから、いつあなた達の願いが叶うのかは運次第」
……ずいぶんと勝率の低いギャンブルに挑まされているような気がしてきた。まあ、ストラップと刀とイレズミ程度じゃそんなもんかな? もっといいものを支払えば、もっといい対偶にしてくれるのかなぁ?
「けれど、世の中に偶然はない。あるのは必然だけ。
 あなた達が出会ったのも、また必然」
本当に? 確かにこの魔女さんの元に、しかも同時期に異世界に行きたい人間が四人も集まるなんて偶然とは思えないけど、必然と言えるほどの運命性も私には感じない。
それに、もしこれが必然だと言うのなら、もう少しメンバー構成に気を使って欲しかった…。男三人に女二人ってどーよ?
「小狼、あなたの対価は……関係性」
魔女さんが少年に向き合う。そういえば、まだ少年だけ対価を支払ってなかった。
「あなたにとって一番大切なものは、その子との関係。だからそれをもらうわ」
「それってどういう…?」
少年の質問に、魔女さんは淡々と告げた。
「もしその子の記憶がすべて戻っても、あなたとその子はもう同じ関係に戻れない」
……え?
 魔女さんの言ってる意味が何となく理解出来てしまった私は、少年が支払う対価がそうでないことを思わず祈っていた。
「その子はあなたにとって、何?」
「幼なじみで……今いる国のお姫様で……おれの……」
 少年はすごく痛そうな顔をしながら魔女の質問に答えた。
「おれの大切な人です」
 まるで、一つずつ言葉を口にする度に自分の身が切り刻まれてるような顔。
 そんなに痛いなら、言わなくていいのにと私は言ってあげたくなった。
「……そう」
 対して、魔女さんの言葉は簡潔だ。
「けれど、モコナを受け取るならその関係はなくなるわ。その子の記憶をすべて取り戻せたとしても、その子の中にあなたに関する過去の記憶だけは決して戻らない」
 寸分違わず、私の想像はぴったりと当てはまっていた。大切な人の中から自分の記憶だけ抜け落ちるなんて、それって、ひどいとか、重いとかいうレベルじゃないんじゃない…?
「ダメだよ」
反射的に踏み出そうとしていた私の足を、白くて細いのが肩をつかむことで止めた。ムッと睨むと、白いのはへにゃりとした笑みを浮かべている。そのツラ、いい加減殴りたくなってきたんだけど?(←いや、殴らないけどさ)
「これはあの子が支払うべき対価だから、オレ達が口出し出来る問題じゃないよ」
 白いのの言い分は理に適ってるし、私だってそれくらい判ってる。でもね、私の感情は納得出来ないのよ!!
「だからって、あの子だけバカみたいに対価が重すぎない? 私なんてたかがストラップなのに…」
「たかが、じゃないよ」
 白いのは、突然真剣な目をして私を見た。え? 何なにナニ? 私なんか変なこと言った?
 視線を逸らしたいのに、私は金縛りにあったみたいに白いのの青い目を見たまま固まってしまった。なんか空気が冷たい。もしかして、私また怒られてる? いやーん。
「君が差し出した対価はとても強い“守”だよ。あらゆる災厄や悪しきモノから持ち主を守る力がある。あの魔女さんだって、あれだけの“守”を作るなんて出来ない。オレだって、あんな“守”が存在するなんて信じられないくらいだよ」
「……そうなんだー…」
白いのが真剣なのは判ったけど、私にはそう言うことしか出来なかった。だって、ただのストラップだと思ってたんだから。
 姉貴が店でテキトーに買ってきた石っころをテキトーにつなげたものに、そんな効果があるなんて判るわけないじゃん。
だけど、思い当たることが一つだけある。
 親友ひまわりに関する黒い噂。私は質の悪い嘘だとしか思ってなかったけど、もし、もしもストラップのおかげで私が守られていたとしたら…? ストラップがあったから私が無事だったとしたら…?
だとしても、今すぐは確かめようがない。私はこれから異世界に行くんだから。
「………」
ああ嫌だ。そのことに安堵してる自分がいる。情けない。親友だとか言っておきながら、なんて体たらく…。
四月一日君を見ると、四月一日君は少年を見ていた。私はその横顔に、ひまわりのことよろしくとお願いした。何となくだけど、四月一日君にならひまわりを託せるような気がしたのだ。
「でも、決心は揺るがない……のね」
あ、しまった。私が考えごとをしている間に、魔女さんの話はだいぶ進んでしまったらしい。色々聞き逃したみたいだけど、まあいいか。ようは気を付けろってことでしょ?(←要約しすぎだ)
「……はい」
「覚悟と誠意。何かをやり遂げるために必要なものが、あなたにはちゃんと備わっているようね」
少年の返事に魔女さんは満足げに微笑んだ。
すると魔女さんの周りに風が生まれ、魔女さんの手のひらから白まんじゅうが浮き上がり、その白まんじゅうの背中から翼が、足下には魔法陣? が出現した。
「わー、すごーい」
「気の抜けるようなことすんな!!」
思わずパチパチパチと拍手した私に、黒くてでかいのが何か言ってきたけど、無視よ無視。だってゲームやアニメでしか見られない光景が目の前にあるんだもん。感動は素直に口にしないとね。
でも、本当にすごいのはこれからだった。
白まんじゅうの口がガバアッと開いたかと思うと、すさまじい力で私は白まんじゅうの口に向かって引っ張られたのだ!!
 私だけじゃない。黒いのも白いのも少年も女の子も皆引っ張られてる!!
ええ!? まさかこの白まんじゅうの口が異世界への入口なの!? そりゃどこぞの新米へなちょこ魔王みたいに、公衆便所でスタツアさせられるよりかは全然マシだけどさぁ!!(←色々パニクッてます)
悲鳴を上げる余裕なんてなかった。そんなことしたら確実に舌を噛む!! というぐらい強い力で引っ張られていたのだ。
 ああ、お願いだからそうならそうと一言言って欲しかったよ!! でないと心の準備が!!
 やっぱり魔女さんは魔女なのねー!!

―――どうか、彼らの旅路に幸多からんことを。

 心の中で悪態をつきまくっていた私の耳に、不意に、魔女さんがそんな言葉を送ってくれたような気がした。



こうして私の旅は始まった。
同行者は見知らぬ他人。
先は長く、果ては見えず、きっと苦難に満ち溢れるであろう旅路。
それでも私は歩くでしょう。
最後の一息が漏れるまで、最後の一滴が涸れるまで、諦めることなく歩くでしょう。
それは私の、“私”に対しての誓い。
一度は潰えた夢を叶えるために、私は全力を尽くしましょう。
そう、それこそが私の生まれてきた意味なのだから。





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