リボーン

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  放課後の誘い  

「なあなあなあマグロー。お前今日の放課後ヒマー?」
君……俺の名前は綱吉です…。せめてツナと呼んで下さい…」
「んー、まあツナもマグロも似たようなもんじゃん? そんで放課後ヒマかヒマー?」
「……………」
もはや日常の挨拶と化しつつある会話に、綱吉はため息を吐いた。ため息を吐く度に幸せが逃げて行くならば、自分の幸せとやらはとっくに底をついているだろうと思う。
 何しろ恐怖の家庭教師が来たその日から、綱吉がため息を吐いていない日などないのだから。
 だが、ため息の加速度を上げているのは確実に、中学生にあるまじき無邪気さで騒ぐだ。
 あの雲雀恭弥に匹敵するほどの戦闘能力を備えているために生徒会長などやっているだが、その正体は超一流の殺し屋である。本人の言によると「並盛にいる間は姉やんのサポートが仕事だから、今ンとこ本業は休業中」らしいのだが。
 なんにしろ、平々凡々を絵に描いたような綱吉にとって物騒極まりない人種に変わりはない。だからこそ、退屈をこの世でもっとも嫌うに目をつけられたとも言える。
 綱吉の前の席に陣取り、はニヤリと笑った。
「どーせヒマだろ? だったら俺に付き合えよ。旨いもん奢ってやるからさ」
「旨いもん?」
「そ。この前オープンしたばっかりのカフェ。ケーキがめちゃくちゃ旨いんだぜ? なんでも店長はパティシエとして本場で修行してきたって話で―――」
だらだらと蘊蓄だかトリビアだかを語り出すから、綱吉は視線をあからさまに逸らした。
 その辺の芸能人よりよっぽどかっこいい顔に似合わずは大食らいで、趣味は甘味処のはしごなのだ。そのくせまったく太らないのだから、女の子のハルには密かに目の敵にされていたりする。
ついでに言うと、その性格から獄寺にも敵視されてはいるのだが、彼の場合は五歳のランボが相手でも同じような態度なので、綱吉は色々と諦めているのが現状だ。
「おーいマグロ、聞いてるかー?」
「ん? 全然聞いてない」
「うわぁ、俺にここまで語らせといてムカつくー。もういい、マグロなんか知るかー」
騒ぐだけ騒いで、はくるりと背中を向けた。そのまますたすたと歩くと、黒川と談笑していた京子の前でぴたりと止まった。
「なあなあなあ、笹川ー。今日のほ…」
「ちょっと待てぇぇぇっ!!」
綱吉は絶叫した。絶叫した勢いで席を立ち、の肩を掴んで廊下までぐいぐいぐいぐい引っ張った。
声を掛けられて「なあに?」と顔を上げた京子だが、の「ごめーん、なーんでーもなーい」という言葉にあっさりと頷いた。実に素直な娘である。
 教室を出て廊下を通り、綱吉は人気のない階段踊り場に来てようやく立ち止まった。
「何だよもー。びっくりするだろー?」
 ぷーっと頬を膨らませるに、綱吉は「あのなぁっ!!」と怒鳴る。
「びっくりしたのはこっちだよ!! なに京子ちゃんにナチュラルに話しかけてるわけ!?」
「声かけにナチュラルも何もないだろー? どうやったら不自然に出来るってんだ?」
「そういうことを言いたいんじゃないよ!! 俺が言いたいのは!!」
「なんで笹川を誘おうとしたのかって訊きたいんだろ? そんなの、俺の誘いをマグロが断るからに決まってるだろー?」
「決まってないよ!! 第一、何もわざわざ京子ちゃんじゃなくてもいいじゃないか!!」
「そんなの俺の勝手だろー?」
やれやれと肩を竦めたはこれみよがしにため息を吐き、綱吉の鼻に人差し指をむにっと突き付ける。
「俺、笹川のコト嫌いじゃねーもん。もし笹川が俺のコト好きだって言ってくれたら、付き合ってもいいっていうくらいには」
「そんな…」
「まあ、その可能性は低いけどなー。なんせ面と向かって告白されてんのに、冗談って思われてるヤツとかいるもんなー」
「う"…っ」
 痛いところを突かれ、綱吉は呻く。の言う通り、綱吉と京子の関係は単なる友人でしかない。
「で? どーする? 今日の放課後ヒマか?」
「うぅ…っ」
最初の話に戻り、綱吉はさらに呻いた。何が悲しくて男二人でケーキを食べなければいけないのか…。
膝を抱えて嘆く綱吉に、は「二人じゃないぞー」と訂正する。
「昨日偶然柿ピーとケンケンに会ってさ、せっかくだから誘ったんだー」
「なんでだよ!?」
 言質をしっかり取られた後に明かされた真実に、綱吉は目を見開いた。だがはあっけらかんとしている。
「だって今日行くカフェ、黒曜中の近くにあるんだもん。あの二人と一緒だったら、その辺の不良に絡まれないだろー? ヒバリンには絡まれるかもしれないけどなー」
あっはっはっはっはっと笑いながら去って行く確信犯にして愉快犯に、綱吉がぶつけられる文句なんて存在しなかった。





END.


甘味大好物の殺し屋・(十五歳)
快楽主義者でトラブルメイカーで退屈を最も嫌う傍迷惑な少年ですが、腕っぷしは無駄に強い。
人を変なあだ名で呼ぶのは趣味であり、挑発です。思いっ切り喧嘩売ってます。
「喧嘩と抗争は並盛の華だしねー」
綱吉「ンなわけないだろ!?」
なんてね(笑)
ちなみに、なんだかんだ言いつつ、ケーキは四人で食べました。

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