リボーン

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  昼休みの攻防  

本来ならばまったりのんびり過ごすべき昼休みに「、三分以内に応接室」と、いろいろなものをすっ飛ばした呼び出しをかけられたは、その二分四十八秒後に応接室のソファにゼーハーゼーハーと肩で息をしながら倒れこんでいた。
部屋の主であり呼び出しの張本人でもある雲雀恭弥は、そんなに一瞥を投げかけただけで黙々とデスクに積まれた書類に目を通している。
「ところで、お疲れ様の一言もなしー?」
「授業中はいつも寝てるんだから、体力なんてありあまってるでしょ?」
どうにか息を整えた自分の言い分をどこ吹く風とばかりにさらりと受けることなく流した雲雀に、はただただジト目を向け続けた。
「お前なぁ、俺が呼び出しくらった時何処にいたか知ってるかー?」
「僕がそんなこと知るわけないじゃない」
 だから呼び出したんじゃないか、と宣う風紀委員長。
 うわぁこいつマジでムカつくー、と笑顔に青筋を浮かべる生徒会長。
「職員室だよ職員室ー」
「また何か壊したの?」
「してねーよ。進路調査出してないのクラスで俺だけだから、ちょっと担任と話しただけー」
「ふぅん。でも職員室にいたのなら、もう少し早く到着してもいいんじゃない? 次からは二分にしようか」
「だから全力疾走前提の時間制限つけんなー!! ってゆーかこの大量の書類ナチュラルにスルー!?」
しわが寄るのも気にせず、がバンバン手のひらを打ちつける先はデスク上に置かれた書類の山。高さにして二十センチに達する四つの山を運んで来たのは、他の誰でもなく雲雀の呼び出しを受けたである。
一生徒にも関わらず、学校を仕切っている雲雀には教師といえど頭が上がらず、接触を極力避けている節がある。そのため、雲雀に提出すべき書類がちまちまと教師達の手元にたまっていくことが珍しくない。
それが積もり積もって八十センチ。ここまでくると「なんでもっと早く持って来なかったの?」と風紀委員長閣下のトンファーが撃ちこまれてもおかしくなく、誰がその生贄となるか教師達は密かに戦々恐々の日々を送っていた。
が、たまたま偶然そこに当の雲雀の呼び出しを受けたが通りかかったため、これ幸いとに書類を届けさせる役目を押し付けたのだ。
災難なのはである。
 何しろ紙は木で出来ている。故に重い。
そんな荷物を持って職員室から応接室まで全力疾走することを余儀なくされたのだ。これで報酬はないのだから、お飾りの生徒会長だろうが休業中の殺し屋だろうがやってられない。
「そう、大変だったね、ご苦労様」
「うわぁい、こいつすっげぇ上からモノ言ってやがるー☆」
何処までも居丈高な雲雀に、はにこにこ笑いながら二つ目の青筋を浮かべた。それにため息を吐く雲雀。
「それじゃあ訊くけど、君は僕にどうして欲しいの?」
「んー? べっつにさー、ぶっちゃけるとさー、感謝の言葉なんかいらないわけー。むしろ現物支給カモン?」
「単純だね」
「シンプル・イズ・ベストだろー? つーわけで、あそこにある段ボールあさります」
「ああ、あれ? でもあれは生徒から没収した校則違反の物品が入ってるんだけど」
「知ってるー。でも取り返しに来るヤツなんているのかー?」
「いないね」
「じゃあ、遠慮なくいただきます」
パカリとふたを開けたかと思うとバサリと段ボールを逆さまにし、「いるものー、いらないものー」とは好き勝手に、元を正せば他人の持ち物をポイポイと仕分け始めた。その姿はおもちゃとたわむれる子供のように無邪気である。
「お前さぁ、チョコレート系のお菓子まで入れんなよー。溶けてひっついて食えなくなるじゃんかー。あ、今週のジャンプ発見、後で読もっと。おお、ゲーム山盛りじゃん。中古ショップに売ったれ売ったれー。しっかし化粧品の類いが意外と多いのなー。こんなド派手な色の口紅、どこの中学生が使うんだよー? ……………ぬおっ!?」
「なに?」
それまで歓声を発しながら楽しげに騒いでいたが突然静かになったことに、雲雀は内心訝しがりつつ落としていた視線を上げた。
「何故こんな所に山本のバットが!?」
 雲雀が目にしたのは、バットを手に仁王立ちするだった。わざわざポーズを決める意味が判らない。
「ああ、それ? 本当は落とし物なんだけど、校則違反には違いないから一緒にしてるんだよ」
「バットのどこが校則違反なんだよー。部活の備品かもしれないだろー?」
「へえ、じゃあ何のために振ったら日本刀に変形するバットを、うちは備品に取り入れてるのかな?」
「乱闘用とか?」
「楽しそうだね」
 笑顔で答えるに、雲雀もまた笑顔で応えた。肉食獣じみた笑顔で。
「すいません、冗談です。でも山本のバットの正体を知ってるってことは、お前振ったのかー?」
 山本のバットはヘッドスピードが時速三百キロに達しないと変形しないとリボーンから聞いたのだが、雲雀のキャラクターからして、たかが素振りにそんな力を入れるとはとても思えない。果たして、の想像は当たった。
「バットを拾った後、たまたま煙草を吸ってる生徒を見かけてね。ちょっと粛正したんだよ」
「よく死人が出なかったなー…」
 雲雀に日本刀なんて、神になりたい男に死神のノートよりも危険すぎる。
 なかば本気で危惧するに対し、当の雲雀は飄々としていた。
「大丈夫、峰打ちだから」
「時代劇でよく『安心せい、峰打ちじゃ』なんてセリフ聞くけど、刀って言わば鉄の棒なんだから、それで思いっ切りぶっ叩かれたら骨なんて簡単に折れるんだぜー?」
「そうなの?」
「そうそう」
「別にいいじゃない、校則を破る方が悪いんだから」
 だからって暴力はダメだろー、とは思ったが、いろいろ面倒になってきたので口にはしなかった。
 その代わり「ところで…」と自分を(特に意味もなく時間制限をつけて)呼び出した理由を雲雀に尋ねた。
「ああ、教師がまた書類をためこんでたから、いい加減提出してもらおうとしただけ。言い付ける前に持って来てくれるなんて、結構やるね」
「パシったこと褒められても嬉しくねー!! ってゆーか、そんなん風紀の誰かにやらせろよ!!」
「風紀委員は皆忙しいんだよ」
「さいですかー。あ、昼休みそろそろ終わるじゃん。次体育だし俺もう行くなー、じゃあなー☆」
「あ、ちょっと待ちなよ」
山本のバットを肩に担いだは颯爽と窓から応接室を出て行った。確かに窓から退室する方がグラウンドに短時間で到着するのだが、体操服はどうするつもりなのだろうか?
それよりも、生徒からの没収品をちらかすだけちらかして片付ける素振りすら見せず、制止の声すら無視して帰るなんて実にいい度胸である。
「仕返しのつもりなのかな? まあいいや、次に入って来た誰かに片付けさせよう」
そう言って再度デスクの書類を処理し始める、どこまでも唯我独尊な風紀委員長閣下であった。





END.



仲が良くも悪くもない風紀委員長と生徒会長の一風景。
ビジネスライクな関係を書きたかったけど、中学生はこの辺が限度かな?
並中の間取りが知りたい今日この頃。
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