保健室の薬にはご用心

                                                                               1話 『風女薬』

 

男塾の保健医は、その膨大な知識によって様々な薬を製薬した。

これはその出来事を記録したもの・・・

最初の事件は、桃が熱を出して倒れた時に起こった・・・

 

ドタドタドタッ ガラッ!

「澪教官!大変じゃあって・・・なんで居らんのじゃ?」

富樫は澪と魁都が保健室に居ない事に気付きそう呟いた。

「こんな大事な時に・・・ここに風邪薬はあるんじゃろうか・・・」

富樫はそう言って薬品棚を見回した。

結構な種類と数が置いてあるが、肝心の風邪薬が見当たらない・・・

「どこじゃ・・・どこにあるんじゃ・・・ん?」

富樫はある薬瓶を見つけた。

その薬瓶には『風 薬』と書いてあった・・・だが、風と薬の間が剥げていて読めなかったが、富樫は風邪薬だと思い、それを持って教室に向かった。

 

「松尾!桃は大丈夫か?!」

富樫は松尾にそう問い掛けた。

「今のところ落ちついとる。で、風邪薬はあったんか?」

「ほれ」

富樫は松尾に薬瓶を手渡した。

「よかった。これを桃に飲ませれば・・・」

松尾はそう言って桃の口にカプセルを一錠入れ、水を注いだ。

ゴクンッ 桃はそのカプセルを飲み込んだ。

それから数分と経たずに、桃の呼吸は安定した。

「これでひとまず安心じゃな」

富樫は桃の呼吸が落ち着いた事に気付き、安堵のため息を付きながらそう言った。

 

「・・・あ、あれ?なんでないんだ?」

保健室に戻った澪は薬品棚にあるはずの物が無い事に気が付いた。

「・・・・・・・ああ?!まさか!!」

澪はある仮定に辿り着き、一号生の教室に向かった。

 

ガラッ 一号生の教室の扉が勢いよく開いた。

「おい!!誰か保健室から薬瓶を一つ持っていかなかったか?!」

澪はすごい形相でそう怒鳴った。

「お、押忍。自分が持ち出しました」

富樫は澪の様子を見て圧倒されながらそう言った。

「持っていった薬瓶を貸せ!!」

澪は富樫にそう言った。

富樫は澪の言葉に従って自分が持ち出した薬瓶を澪に渡した。

「・・・・・・・?!やっぱり。富樫!この薬誰に飲ませた?!」

澪は薬瓶のラベルを見ながらそう問い掛けた。

「え?も、桃にですけど・・・あいつ、いきなり倒れて・・・触ったらすごく熱くて・・・か、風邪だと思いやして・・でも保健室には誰も居なくて・・・それを飲ませたんです」

富樫は珍しく敬語のまま澪にそう言った。

「これは風邪薬じゃないんだ!」

「「「「な、なにぃ―――――――?!」」」」

澪の言葉を聞いた一号生達は声を揃えてそう叫んだ。

「け、けど桃の熱は下がりやしたっすよ?」

松尾は澪にそう言った。

「・・・当たり前だ。これの原料は漢方や薬草、ハーブなんかだからな。風邪が治るのも当たり前の事なんだよ」

澪は幾分か落ち着きを取り戻しながらそう言った。

「じゃあなんの薬なんじゃ?」

虎丸は澪の言葉を聞いてそう問い掛けた。

「・・・『風女薬』・・・男を女にする薬だ」

澪はため息を付きながらそう言った。

「「「「なにぃ―――――――――――――――――――っ?!」」」」

皆は澪の答えを聞いて思いっきり叫んだ。

「・・・後数秒で女体化する」

澪はさらにそう告げた。

それから間もなくして、桃の体に変化が起きた。

「う、うそだろ?」

虎丸は徐々に女に変化していく桃を見てそう呟いた。

それからさらに数十秒後、桃は完全な女になってしまった。

「う・・・ん・・・あれ?俺・・・どうしてこんな所で寝てたんだ?」

桃はようやく目を覚ました。

声もいつもより数オクターブ高い・・・

目も大きく丸い、女性特有の目をしていた。

あまりの変わり様にみなは赤面を通り越して顔面蒼白になっていた。

「・・・あれ?なんか声が変だな」

桃は自分の声が変な事に気付きそう呟いた。

「?なんでみんな固まってるんだ?」

桃は身動きすらしない同胞にそう問い掛けた。

「ほれ、自分の顔を見てみな」

澪はそう言って桃に手鏡を渡した。

「?押忍・・・・・・・・・・・・?!な、なんなんだこれぇ?!」

桃は澪に言われた通り鏡で自分の姿を見ると、そこには自分の顔ではなく他人でしかも女の顔が写った為、最初は無言だったが、それが自分だと気付きそう叫んだ。

「な、なんで俺・・・ああ?!体まで女になってる?!」

桃は制服が大きすぎる事に気付き、自分の体を見てそう叫んだ。

「れ、澪教官・・・あの薬の効果っていつぐらいに切れるんじゃ?」

富樫は澪にそう問い掛けた。

澪は片手で額を押さえながらもう片方の手で『2』と出した。

「な、なんじゃ2日か。それならいいわ」

富樫はそれを見てアンドのため息を付きながらそう言った。

「違う!!2ヶ月だ2ヶ月!!あの薬は2ヶ月間体の中に残るんだ!!」

澪は富樫の言葉を聞いてそう怒鳴った。

「「「「に、2ヶ月ぅ――――――――?!」」」」

澪の言葉を聞いて皆はそう叫んだ。

「も、桃は2ヶ月も女のままなのか?」

「そうだよ。解毒剤なんて作ってないから時間が経つまで戻らない」

澪は伊達の問い掛けにそう答えた。

「とりあえず桃、塾長室に行くぞ」

澪はそう言って桃を連れて塾長室に向かった。

「わしが男塾塾長・江田島 平八である!!」

「・・・親父、俺にまで言ってどうすんのさ。まぁいいや、親父。ちょっと災難にあった奴がいるんだ」

「ほう、一体誰じゃ?」

「桃だよ。俺の創った女体化の薬を風邪薬と間違えて飲まされたんだ」

「がははは!お前の薬は強烈だからな」

「一応その報告なんだ。おい桃、入って来い」

澪はそう言って桃に入るように言った。

そして桃は塾長室に足を踏み入れた。

「ほぉ、これはまた見事に女になってしまっとるな」

塾長は桃の姿を見てそう言った。

桃は長くなった髪を澪によってポニーテールにされていた。

「で、その効果が切れるのが2ヵ月後なんだよ」

「ほう。それはまた長いな」

「俺の創った中ではまだ短い方なんだけどな」

澪は塾長の言葉を聞いてそう言った。

「まぁなんにせよ許可しよう。元は列記とした男じゃからな」

「ありがと親父」

澪はそう言って桃と一緒に塾長室を後にした。

 

「筋力もほとんど落ちているがそれなりに残ってるから大丈夫だろう」

澪は桃の体を診察しながらそう言った。

「しかし、なんでそんな薬がここにあるんですか?」

「ああ、俺が暇つぶしで創ったヤツなんだ。あと数種類あるけどな・・・」

澪は桃の問い掛けにそう答えた。

「そ、そうなんですか」

桃は澪の答えを聞いてそう言った。

「ま、2ヶ月の間がんばれ・・・いろんな意味でな」

澪はそう言って苦笑いを浮かべた。

そうして桃の苦悩の2ヶ月が始まった・・・

 

                                                                                                        END