魁!!男塾

 面白い事の始まり

「おまえ、丸くなったな」

 急にそんな事を言い出した教官の言葉に赤石の目はテンになってしまった。

「・・・は?」
「いっとくが『体型』じゃねぇぞ。『性格』の方だ」

 赤石は保健室で教官と茶を飲んでいた。
 理由は赤石にも分からない。
 ただ何となく、というやつだ。

「前のおまえは話しにくかったが今となっちゃあ茶を飲みにくるほどだ。何かあったのか?」

 訊かれて、赤石は考えてみた。
 確かに、以前の自分だったらこんな所で茶を飲む気にもならなかっただろう。
 理由は分かっている。
 自分がこんな所へ来るようになったのも、こんな穏やかな気分になれるのも、あの男の影響だ。

「・・・馬鹿馬鹿しい」

 だが赤石はそう言って茶を一口、口に含む。
 その時、教官はふと気付いた。

「はは〜ん。さては桃と何かあったな?」
   ―――ブフッ!

 その一言で赤石は茶を吹き出してしまった。
 
「桃と戦ってから少しずつ変わり始めてたみてぇだが、ここ2・3日で急激に変わったな。ということはあの『殺シアム』とは別に桃と何かあったという事だ」

 赤石がむせてる中、教官は話を続ける。

「だが肝心の桃には特に変わった様子もねぇからな。つまりおまえが一方的に何かしたということになるな」

 赤石はやっと落ち着いたので平常心を取り戻そうと、今度は茶を一気に含んだ。

 だが

「単刀直入にきくが、おまえ桃のこと好きだろう?」
   ―――ブフーーーッ!

 その一言で再び茶を吐き出してしまった。
 しかも、今度は大量に。

「図星のようだな。・・・吐いてばかりだが大丈夫か?」
「てめえの、せいだろっ・・・」

 教官が見かねて背中を擦ってやるが、赤石は怒りで敬語で話すのを忘れてしまっている。

「いつから気付きやがった・・・?」
「男塾名物『僕針愚』のときからだな」

 そんな時からか・・・。

 確かに自分が初めて桃に会った時から抱いたこの気持ちに気付いたのはあの頃からだったが、まさかこの男に気付かれていたとは。

「心配すんじゃねぇぞ?誰にもいう気はねぇし、気付いてる奴も極少数だろうしな」
「極少数・・・?」
「ああ。俺が把握してる限りじゃあ、おまえに拳銃を向けた一号生の富樫くらいだな」
「あの野郎か・・・」

 富樫 源次。
 俺に斬られた事で勝負に、桃に火をつけた男。
 ・・・気に食わない。
 初めて桃を見たときからこの気持ちは抱いていたがそれに気付くまでそれ相応の日数がかかったというのに、先にあの一号生に気付かれるとは・・・。

「どうやら富樫も桃を好いてるみてぇだぜ?なんせこの前、眠ってる桃に接吻を・・・」
   ―――ガタンッ!

 赤石は急に立ち上がり、無言で廊下への扉を開ける。

   ―――ガラッ!
「わっ!赤石さんっ!?珍しいですね、保健室にいるなんて・・・」

 廊下には江戸川が居たが赤石は構わず歩き出す。

「あ、おい赤石っ!」

 教官の声にも止まる気配すらない。

 だが

「いくら相手が寝てたからって勝手な事すんのはもうやめとけよ?」
   ―――ゴンッ!

 その一言でこけてしまった。

 なんで、それを知ってやがる・・・。

「あ、赤石さん?」
「・・・・・・」

 だが、赤石は再び無言で歩き出した。
 教官にそれを追求するよりも先に今、自分はやらなければならない事があるのだ。
 そんな赤石の考えを知ってか知らずか、江戸川も後をついていく。

「いったか・・・」

 二人の後ろ姿を見詰めて呟いたのは勿論教官だ。
 あの日、教官はそれを見ていたのだ。
 この前の大木での桃の昼寝も、富樫のことも、そしてそれである赤石のことも・・・。

「こりゃあ、しばらくおもしろいことになりそうだ」

 “こんなにワクワクするのは何年ぶりだろう”と思いながら、教官はくっくっくと不敵な笑みを浮かべた。

 その後、一号生の富樫は何者かによって全治一ヶ月の大怪我を負わされるという事件があった。
 やり口からいって犯人はすぐ特定されたが、塾長と教官によって事件はもみ消された、らしい・・・。





END


亮祐:今回一番の被害者は富樫。ちなみに赤石先輩や教官がいってるそれというのは「気付いた想い -Ver:赤石-」参照 。
翔:いわんでも分かるような気がするけどな・・・。
亮祐:これから先、ここで書く赤石先輩は確実にからかわれて可哀相な人になること間違いないですな。

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