魁!!男塾

気付いた想い −Ver:赤石−

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 そこへ来たのは偶然だった。
 本当に偶然だったのだ。
 授業に出るのも面倒だったのでなんとなく中庭を歩いていた。
 
 そしたら見つけたのだ。
 
 大木に寄りかかり、まるで一枚の絵のように周りの風景に溶け込んで眠っている『剣 桃太郎』の姿を。
 
「なんで、こんな所で眠ってやがる・・・」
 
 あまりの展開に赤石は思わず声に出していた。
 こんな所でこんな時間に彼と会うことになるとは思いもしなかったのだ。
 
(仮にも、一号生筆頭だろうが)
 
 声にだして言ってやりたかったが自分もサボっている身なのでやめておいた。
 
「・・・――ったく、無防備な顔で眠りやがって・・・」
 
 半ば呆れながら赤石は桃の顔を覗き込んだ。
 まるで幼い子供のようだ。こうして見るとあの時の『殺シアム』や『撲針愚』で見せたクールな面影は何処にもない。
 一体この男の何処にあの強さがあるというのだろう。
 
(そうか・・・)
 
 赤石はふと実感した。
 
(年下なんだよな、コイツは・・・)
 
 いつもあの余裕がある不適な笑みを浮かべるものだから赤石はすっかり忘れていたのだ。
 桃がまだ一号生にしか過ぎないこと。
 そして自分の後輩であることを。
 
「だいたい態度がでかすぎるんだ、テメーは」
 
 聞こえる筈なんかないのに赤石は声に出していた。
 こんなに近くで声を出しても桃は目を覚ます気配すらない。
 
(なんだ・・・?)
 
 ふと、赤石は気付いたのだ。
 
(妙に、イライラしやがる・・・?)
 
 いや、苛立ちというものでもなかった。
 この心中にあるのは・・・もやもや?
 
「くそっ・・・」
 
 自分でもこの意味がわからず、赤石はイラついてしまった。
 いっそのこと桃を起こしてしまおうかとも思って膝をついたがそれも何故か出来なかった。
 
(俺は・・・)
 
 すぐ目の前にある、桃の無邪気に安心しきった寝顔。
 
(俺は、桃をどうしたいんだ・・・?)
 
 桃に何かしたいことだけはわかっていた。
 だがその先の何をしたいのかがわからなかった。
 
「くそっ・・・」
 
 舌打ちをしたその時。
 
「ん・・・」
 
 桃の唇から微かに声がもれたのだ。
 一瞬、赤石はドキッとして冷や汗を垂らしてしまったが、どうやら起きた訳ではないらしい。
 少しして再び規則正しい寝息が聞こえて来た。
 
「お、驚かせやがって・・・」
 
 赤石は安堵の溜息を吐いた。
 本当に分からない。
 どうして自分がこんなことで冷や汗をかいたり、驚いたりしなければならないのか。
 一体自分は何をしたいのか。
 
(いや、違う。本当は・・・)
 
 本当は、わかっていた。
 
 大木の下で桃を見つけた時から分かっていた。
 ただ認めたくなくて分からないフリをしていただけ
 
 赤石が桃にしたかったことは―――・・・。
 
「桃・・・」
 
 桃の顎を軽く掴んで上へ向かせる。
 
 そして、ゆっくりと・・・口付けた・・・。
 
 本当は大木で桃を見かけた時からそう思っていた。
 いや、もしかしたら初めて出逢った時からそう思っていたのかも知れない。
 とにかく大木の下で桃を見つけたときはチャンスだと思った。
 心中にあった『もやもや』は桃が可愛くて、愛しくて、早く口付けたくて溜まらなかったから。
 桃が目覚めそうになった時に冷や汗をかいたのはせっかくのチャンスを失ってしまうと思ったから。
 
(なんで、こんな青二才なんかに・・・)
 
 自分でも、桃を好きになった理由は分からない。
 恋は盲目というのがわからないでいたが今となってはわかる気がする。
 まさに、今の自分がそれなのだから・・・。
 
 できることなら、このまま奪ってしまいたい。
 だが
 
(今は、そのときじゃねぇ・・・)
 
 赤石は心の中で呟きながら桃の唇を解放した。
 このまま眠っている桃を奪ってしまうのはたやすいが、これ以上のことは自分のプライド、というより良心が許さなかった。
 それに自分は桃の躰だけを欲してるのではない。
 
 心も欲しい。
 そのまなざしも、自分だけのものにしたい。
 そのためにも今は先輩、後輩の仲でいたい。
 だからこそ今はまだその時ではないのだ。
 
(だが、いつか・・・)
 
 いつかは、その日が来る。
 桃がどう思っているかは知らないが、少なくとも自分はその何かを感じていたのだ。
 出会ったときから、ずっと・・・。
 
(桃・・・)
 
 赤石は立ち上がり、決して振り返らぬようその場から去っていく。
 心の中に桃に対する秘めた思いを抱いて、今日も過ごすのだ。
 
 
 
 
 
END
亮:赤石Ver、書けた〜☆
翔:富樫Verより長いな・・・。
亮:本命なんで。今回は赤石→桃だったけどいつかは赤石×桃書く!
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