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● 白と黒と灰色 --- 第三回 ●

「え?」

 

 

「だから、明日から仕事でしばらく帰れないから」

 

 

「いつものお届けだよね? 泊まり込みってことがあるの?」
「まあね」

 

 

「そっか……」(よりかかる)
「何? 淋しい?」(肩に手をやる)
「だって、ボクが知ってる限りじゃそんなことなかったから」

 

 

「でも、仕事だもんね。がんばってね」

 

 

「―――」

 

 

「うん」

   ―――ぽん(亜唯の肩に手を置く)

 

 

   † † †

 

 

『出来るだけ早く帰ってくるからね』
「(とはいってたけど……)」

 

 

「(絶対仕事じゃないよね。やっぱり)」

   ―――うんうん

 

「(咲ちゃん、詳しい事いわなかった)」
 仕事だったら、どこで何して、いつ帰ってくるかちゃんと説明する。

 

 

 でもいわなかった。
「(いえなかったからだ)」

 

 

 危ないから、危険だから。

 

 

 心配させないように、巻き込まないように。

 

 

 殺さないように。

 

 

「亜唯っ!!」

   ―――はっ

 

 

   ―――目の前が昇り階段でした。

「ごめん」(汗)
「いい。次から気をつけて」(汗)
うん

 

 

「心臓が止まるかと思ったわ」
「………」
美麗は知ってるのかな?
何があったのかとか。

 

 

大丈夫なのか、とか。
「美麗」

 

 

「咲ちゃんは、大丈夫なの?」

 

 

「亜唯……」

 

 

「咲は……」

 

 

「あ」
「?」

 

 

「職員室に黒い人がいる。3人も
「あ、ああ、そうね」

 

 

(何処かで見たような…)
「遅刻カード遅刻カード」

 

 

「失礼しまーす。通りまーす」
「ほんのちょっとでいいのよ」

 

 

「話が終わったらすぐ帰るわ。いいでしょ?
「しかし」
「何やとっ!」

 

 

「出せいうとんじゃっ! さっさと出さんと――」

 

 

   ―――ゴッ!!

 

 

「うおう」
「―――」

   ―――ガタガタンッ!

 

 

 

「あ、―――ガ……」
「やめなさい。品のない」

 

 

「次命令無しに動いたら、消えてもらうわよ」
「……!」

 

 

「それにこういう時は」

 

 

「生徒に、聞かないと」

 

 

「貴方達ここの生徒なんでしょ?」
「(紅…)」

 

 

「あたしある人に会いに来たんだけど、ここでこの先生に引き止められちゃって。今日来てるかだけ教えてくれないかしら?」
「(美麗と同じ喋り方)」

 

 

「その子の名前は―――」
 でも、この人

 

 

「緋代咲夜っていうんだけど」

 

 

「―――!」

 

 

「知ってる?(恐がらせちゃったかしら)」

 

 

「―――てる」
「?」

 

 

「お兄さん、榊さんに似てる」

 

 

「榊さんも傍にも黒い人がいるし。周りの空気っていうのかな? それも似てるし」

 

 

「それから……」

   ―――そ(肩に手を置かれる)

 

 

「じゃあ」

 

 

「あいつのこと知ってるって事は、緋代咲夜のことも知ってるってことよね?」

 

 

「目の」

 

 

「あったかくて冷たいとこは榊さんにも咲ちゃんにも似てるね」

 

 

   ―――ぐいっ!!(おもいきり引っ張られる)

 

 

「!」

 

 

「み……」

 

 

   ―――ばたばたばた……(走り去る)

「まち……!」
「いいわ。追わなくて」
「? いいんすか?」
「いいの」

 

 

「調べれば、すぐに解る事よ」

 

 

   † † †

 

 

「つ」

 

 

「疲れた……」

   ―――全速力で走りきりました。

 

 

「美麗、今の人って……」
「……ッ」

 

「このバカッ!」

   ―――ビクッ

 

 

「なんで思ったことをそう簡単に口にするのっ!」
「ご、ごめん」(汗汗汗)

 

 

「―――で、今の人ってなんだったの? あと今怒られた理由もわかんないんだけど……
「……わかった。歩きながら説明するから」

 

 

「いい? 咲夜が榊さんの隠し子っていうのはもう解ってるわね?」
「うん」

 

 

「―――で、その咲夜の存在がトップシークレットだって事も解ってる?」
「うん。けどそれがどうし……」
「実は」

 

 

「その咲夜の存在が、バレたのよ」
「!」

 

 

「バレたって誰に……」
「その前に、教室に着いたわ」

   ―――ガラ

 

 

「遅れてすみませーん」
「遅いぞー、残念ながら欠課だな。10分経過だ
「(残念……)」

 

 

「先生、小声でするんで話していいですか?どうせ欠課なんだし
「構わんが、周りに迷惑かけるなよ」

 

 

「―――で、続きなんだけど」(着席)
「うん」(着席)

 

 

「咲夜の存在がバレたのはついこの間、掴んだのは晦組よ」
「ツゴモリグミ?」

 

 

「雛城の裏社会の組織に月読会っていうのがあって、月読会に属する二次団体がいくつかあるの。その中に榊さんが仕切ってる直系朔組と  真寿江が仕切ってる直系大晦日組っていうのがあるんだけど……」

 

 

「この二つってあまり仲が良くないのよねぇ……」
「同じ組織にいるのに?」

 

 

「まあ、元々仲は良くなかったんだけど、一番の理由は月読会の跡目争いの所為ね。現在月読会の会長に後継ぎがいないもんだから。そう言う場合は会の中から誰か、まあ大概二次団体の組長が襲名するんだけど」
「―――で、それと晦組っていうのと咲ちゃんがバレたっていうのは?」

 

 

「さっき会長には後継ぎがいないっていったけど、それは表向き。正確には継げる男子がいないって意味なの。会長にはね、娘がいたのよ」

 

 

「彼女の名前は蕾」

 

 

「咲の母親よ」
「!」

 

 

「咲ちゃんのお母さんって……」
「咲を産んだ後、すぐ他界したわ。産後の肥立ちが悪かったそうよ」

 

 

「―――で、その後咲は安全のため父親である榊さんの組と縁がある一般家庭の緋代家に引き取らせて今に至るってワケね」
「そっか……」

 

「あれ? ――っていうことは咲ちゃんって……」
「そう」

 

 

「咲は、月読会会長の実の孫。組織を継げる男子よ」

 

 

「咲を緋代家に引き取らせたのは跡目争いの渦中に巻き込ませずに会のトップにやる為よ。中にはトップになるのは自分だなんて野望持ってる奴がいるもんだから」
「確か、さっきいってた大晦日組の組長がその野望を持ってるだっけ?」
「そう。大晦日組は会の中でも有数の武道派組織で、咲の事を掴んだのは大晦日組に属する下部組織で超武道派集団っていわれてる晦組」

 

 

「じゃあ、その直系大晦日組は……」
「…………」

 

 

「大晦日組は―――」

 

 

「咲を消すつもりよ」

 

 

「でも咲ちゃんは組とか興味ないって……」
「咲がそうでも、会がそれを認める訳ないわ。だって咲は唯一正統に会を継げる男子なんだから」

 

 

「じゃあ咲ちゃんがしばらく帰れないのは逃げてるから?」
「正確には榊さんが匿ってくれてるからね」

 

 

「最初、咲の奴も“別にいいです”なんて断ってたけど、昨日やっと承諾したってワケ。どこに匿われてるかは知らないけど、榊さんが匿ってくれてるなら大丈夫でしょ」

 

 

「―――で、今あたし達が会ったのが晦組組長の北条亨。直系大晦日組の若頭」
「え? あの人が?」

 

 

「ヤクザにもオカマさんがいるの? 美麗と同じ喋り方だった
「そこに疑問を持つか……。いっとくけど、あたしオカマじゃあないから

 

 

「亜唯っ!」

   ―――ガララッ

 

 

「郁保」
「さっき咲夜ンこときかれたんだけど…!」
「その様子だと会ったみたいね」
「ああ」

 

「オカマヤクザンことだろ? オレ始めて見た!」
「ボクも。ヤクザにもオカマさんているんだねー」
「どんな感じだった?」
「私が見た限りではおそらく…」
「おまえら〜」

 

 

「せめて小声で話してくれ……。頼むから……」(泣)
(汗)

 

 

「とにかく座ろうか。立ちっ放しだと邪魔になるからな
「そうね…」(赤面)
御衣(着席)

 

 

「―――で、話はどこまで進んだ?」
「月読会のことと咲の生まれ、今会ったのが直系大晦日組の若頭で下部組織晦組組長の北条亨だってところまで」
「え!? あのオカマヤクザけっこう偉い奴だったのかっ!?」
「そうみたい」

 

 

「亜唯、郁保、単刀直入にいうが―――」

 

 

「しばらく私達から離れろ」

 

 

「なんで……」
「おまえが咲夜と一番繋がっているからだ」

 

 

「今日はなんとか切り抜けたみたいだが、おまえが咲夜とつながりが一番強いと知れたらどうなると思う? 私なら間違いなく咲夜の居場所を知ってると踏んで近付くな」
「つまり、あんた達までヤバいことになるってワケ」

 

 

「だからあんた達を守るためにも、2人を普通の一般人と思わせる必要があるのよ。そのためにも組と多少なりとも関わりのあるあたし達と一時的に離れないと」

 

 

「そういうワケだから、しばらくの間家に帰りなさいよ」
「OK」

 

 

「亜唯も家に……」
「ダメ」

 

 

「帰れない」

 

 

………………

 

 

「じゃあ、亜唯も郁保の家に行きなさい」
「ええっ!?」

 

 

「ちょちょちょちょちょ、ちょっと待てよっ!!」
「何? なんか不都合でもあるの?」
「別にないだろう? 家には母親と妹達、離婚した父親が週末帰って来るそうだが事情を捏ち上げればいい」
「そそそ、そーだけど! もしなんか間違いとかしでかしちゃったら……!!」

 

 

おまえみたいなヘタレに限ってあるワケがない

   ―――キッパリ

 

 

(ちょっとくらいは危惧してくれても…)
「(落ち込んでる。なんでだろう?)」
「いい? 具体的にどうなるかっていうと」

 

 

「亜唯はクラブ「half&half」には一度も来た事もない一般人で、あたしと圭とはただのクラスメイト。もちろん夜の顔も知らない」
「ん」

 

 

「郁保は昼間の喫茶「half&half」のウェイターはしてるけどクラブ「half&half」には勤めてない一般人で、あたしと恵とはただのクラスメイト。夜の顔も知らない」
「う、うん……」

 

 

「あたしと恵も2人とはただのクラスメイト」
「ああ」

 

 

「じゃあ、なんとかこれで乗り切るわよ」

 

 

   † † †

 

 

「友達なのにこれから他人なんて、なんだか変な感じ。」
「少しの間だけよ」

 

 

「さーて、ママにも話とかないとね」
「オレもしばらく喫茶の方しかシフト入れないっていわねーと。―――って、あっ!!」

 

 

「今気付いたけどしばらく別行動ならどうやって帰りゃいいんだよっ!?今日恵のバイクじゃんっ!」
「亜唯の自転車に二人乗りだな」

 

 

「ま、しばらくの間の辛抱だ」
「じゃ、お店行く前に、あたし達はこのこと先生に話しときますか」
「なんで?」

 

 

「あいつらがまたここへ来た時に、あたし達の仲を話されたら意味ないでしょ。口裏合わせしとかないと
「あ、そっか」

 

 

まあ、先生は生徒を守るのが仕事だから、外部の人間に話したりはしないでしょうけど
「二人は先に帰っていろ」
「へーい」
「はーい、じゃあねー」

 

 

   † † †

 

 

「けど、マジ大変なことになったよな」
「うん」

 

 

「ヤクザの抗争、か。俺も咲夜達と付き合う以上、それなりの覚悟はしてたつもりだけど、さ」

 

 

「郁保」
「ん?」
「ボクね」

 

 

「今度咲ちゃんと会えたら殴ろうと思うんだ」
「はあっ!?」

 

 

「何いってんだよっ!?」
「だってそんな目に合ってるのに何もいわないで隠れちゃうんだもん。水臭い水臭い

 

 

「そーだけど、そりゃ亜唯を……!」
「わかってる」

 

 

「わかってるよ」
紅い血。
紅い、目。

 

 

「でも、こんなの咲ちゃんじゃあないの」
ボクが知ってる咲ちゃんは飄々としてて、お料理が上手で、マイペースなとこもあって。
ボクを一人にできない人だ。
何があっても、殺されそうになっても。

 

 

だから―――
「咲ちゃんらしくないって、怒っておかないと」

 

 

「亜唯……」

 

 

「おまえのそーいうとこが好きだー」

   ―――ぎゅうううう(抱きしめ)

「イタイ痛い」

 

 

「イタイよ、郁保」
(少しはなれたところから)「ふ〜ん」

 

 

「あの少年が緋代咲夜の、ねぇ……」
「詳しい情報はまだ入ってないけど、間違いないと思う」
「でしょうね。咲夜くんだけでなく、榊のことまで知ってるんだもの」

 

 

「さっき見た時から思ってたけど、カワイイ子じゃない。腰も細いし声も高いし。咲夜くんもいいけどあの子もいいわ〜」
「それで、緋代咲夜のことだけど」

 

 

「榊宗一郎が何処かに匿っているみたいだね。全然居場所が掴めない」
「大丈夫よ」

 

 

「こうはいったものの、この作戦失敗かもねー」
「? 何故だ?」
「実は―――」

 

 

「解らなければ聞けばいいのよ」

 

 

「亜唯ったら、榊さんの名前出しちゃってんのよね」

 

 

「彼にね。フフフッ

 

BGM:「青嵐血風録」/ALI PROJECT

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