学園の帰りにここへ寄るのがボクらの日課だ。
「じゃあ」
「俺はいくからね」
「うん」
「俺が来るまでいい子に待ってなさいね」
「うん」
「いってらっしゃい、咲ちゃん」
ニチジョウカ
―――チリンチリン
「おはようございまーす」(←夜間職の挨拶は夜でもおはよう)
「おはよう、亜唯くん。いらっしゃいv」
「美麗はまだ来てないけど、何か飲む?」
「じゃあいつもの……」(目の前のカウンターに座る)
「瓶入りのブァンタのオレンジジュース下さい」
「亜唯くんって初め来た時からそれ飲んでるわね。好きなの?」
「うん」
「だってこれ美味しい」
「瓶だと炭酸きつくないし、100%じゃないから酸っぱくないし」←炭酸苦手。100%も酸っぱくて飲めない
「そう」
―――チリンチリン
「おはようございまーす」
「ごめんママ、ちょっと遅くなって」
「いいのよ。学生さんは学業に励まないと」
「おはよー、美麗」
「おはよ。――って、いっても、学園でいつも一緒なんだけど」(
亜唯の隣に座る)
「やっぱ公園のトイレで着替えるとなると大変ね。クサいし、狭いし」
「ふ〜ん」
「ここで着替えればいいのに」
「お客と鉢合わせしたらどうすんのよ! スッピン見せたくない」
「あっ!!」
―――ガチャンッ!!(グラスが落下)
「す、すみませんっ!!」
「大丈夫? 郁保」(立ち上がる)
「立ちくらみ?」(一緒にグラスを拾う)
「いや、ただに手がすべっただけ。危ないから座って……」
「気をつけろ」
「無理はしない方がいいからな」
「あ、恵」
「恵」
「具合が悪くなったらいって休ませてもらえ」
「わかってるよ」
(郁保、向こうへ行く)
「お仕事は? 夜からでしょ?」(席へ戻る)
「大丈夫。帰りでも十分間に合うからな」(亜唯の隣に座る)
「フーン……」
―――カラン カラン
「いらっしゃいませ〜。あら、榊さん」
「この不景気の中、ここだけは相変わらず儲けているようだね」 「それはもう、榊さんのおかげですよ」
「二人も、相変わらずここに入り浸っているようだ」(亜唯と恵に目を向ける)
「あ、榊さん」
「どうも」
「いらっしゃいませ、榊さん」
「こんちわー、榊、さん……」(ひくついた笑顔で)
「やあ、保都くん。相変わらずヤクザは苦手かい?」
「ま、まあ……。ははは……」(乾いた笑い)
「アンタねぇ」
「そんなんじゃここでバイトできないわよ?」
「夜のここで働くならヤクザに慣れんとな」
「一般人になれるっつー方が無茶だろっ! それに俺は昼間の喫茶店専門で今日はたまたま夜の方してるわけだしっ!!」
「ハハハ、亜唯くん達が来てここも賑やかになったものだ」
「ボクも入ってるの?」
「ああ」
『half&half』は中等部一年生の時から通ってるなじみの店。
「亜唯くん」
「明日も学校なんでしょ? あまり遅くならないようにね」
「うん」
この人は梢ママ。
この「half&half」のママさん。
キレイでとても優しい人。
ここ「half&half」は高級クラブ。
だけどちょっと変わっててて、名前の通り半分女の人、もう半分がニューハーフのホステスさんのクラブだ。
ママも、女の人なのかニューハーフなのか、ボクも知らない。
「じゃあ、ごちそーさま」
「はい」
そして昼間はママの息子さんが喫茶店を営んでいる。
「そういえば平日は美麗目当ての客来ないね」
「あら、そんなことないわよ?」
「あたしのお客さんは、平日9時半頃にならないと入らないことちゃんと知ってるのよ」
美麗は、ここのナンバー1ホステス。
女の子を差し置いて男の美麗がナンバー1になるのはスゴイと思う。
「だからもうそろそろ来……」
―――カラン カラン
「美麗ちゃーんv」
「ハーイv」(スマイル)
「いらっしゃいませv」
「(ほんとだ……)」
「接客ができるなんて美麗はスゴイや」
「すごくないだろう?」
「まあ、亜唯からしてみれば凄い事か」
恵は雛城一の情報屋。
ホステスと情報屋の違いはあるけど二人そろって1番。
「じゃあ、私はこれで」(立ち上がる)
「そう。頑張ってね」
「はい」
―――カラン カラン
「いってらっしゃーい」
「ところで亜唯くん。今日は咲夜は一緒じゃないようだが」(いつの間にか亜唯の隣に座っている)
「この後の予定は?」
榊さんは組の偉い人で、オジサマって感じの人。
中等部からの顔なじみ。
そして
「んー、榊さんには悪いけど……」
「あんまちょっかい出さないでもらえます?」
「今日は待ち合わせで来ただけなんで」
「咲ちゃん」
「帰るよ、亜唯」
「え?」
「でも―――」
「仕事も終わったからね。明日も学校があるんだから」(扉の前まで移動)
「君も相変わらずつれないな、咲夜」
「………」
「たまには―――」
「父さんと呼んでくれればいいものを」
「遠慮しときます。籍上は他人だし」
咲ちゃんの本当のお父さんだ。
(咲、一足先に退出)
「じゃあ榊さん、ボク帰ります」(立ち上がる)
「久しぶりに君と語らえると思っていたが、残念だ」
「…………」
「榊さんは、咲ちゃんのこと好き?」
「ん?」
「―――好き?」
「ああ、好きだよ」
「よか―――」
「それに」
「君のことも」
「さか―――」
―――ぐい!
「!」(後ろに咲夜)
「咲ちゃん」
「帰るよ」
―――カラン カラン(二人、出てく)
(榊、ため息)
「―――で」
「君はいつまでこちらを見てるのかな?」
「!」
「すみません……」
「誤る必要はないよ。心配だったんだろう?」
「二人とも」
「………………」
† † †
「「……………………」」(二人歩く)
「咲ちゃん」
「ん?」
「なんで榊さんのことお父さんって呼ばないの?」
「戸籍上は他人だけど、血は繋がってるんだし。榊さんのこと嫌いなの?」
「嫌いじゃないよ」
「だったら……」
「でも父さんとは呼べない」
「他の組の奴らに俺のことがバレたらあの人にとって不利になるデショ。養子縁組するんなら別だけどその気もないし 」
「でも―――」
「榊さんは咲ちゃんのこと好きだっていってたよ」
「―――知ってる」
BGM:「聖少女領域」/ALI PROJECT