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● スクール・デイズ --- 06.どうしても どうしても ●

 向こうでは電車が通っている。
 下の草原では親子連れがいて。
 そんなのどかな風景を座っている常葉昌人が見ていた。

「まだ10時か……」

 ぼんやりと呟いた。

 本日は平日。それも午前中。
 完全なさぼりだ。
 ここ最近、昌人は学園をサボっていた。
 原因は、先日十夜との間にあった事だ。

『一緒に死んでやったら、悠里が自分のこと好きになってくれるかもって思ったから?』

『昌人がどんだけ悠里を好きでも、悠里は絶対昌人を見ない。だって』

『悠里は男で、ゲイとかじゃないから、同じ男の昌人を好きになんてならない』

 あの日以来、昌人は学園に行っていなかった。

「さぼりか?」

 かけられた声に昌人は瞬時に後ろへ振り向いた。

「―――悠里……」

 男子の制服に長いスカート。
 芦屋悠里がそこにいた。
 久しぶりに会う悠里は髪が全体的に少し伸び、前髪なんか顎辺りまで伸びてサイドに分けていた。
 いつものようにスカートの両ポケットに手を突っ込んで、昌人を見下ろしている。

「退院、したのか……?」
「ああ」

 返事をして悠里は昌人の隣に移動する。

「学園は明日からだ。今日は挨拶だけしに行った。そしたらおまえが最近来てねぇって聞いたから」

 帰りがてら、昌人を探してここに来たと言う事だろう。

「髪、伸ばしたのか?」
「気分転換にな。悪くねぇだろ?」
「ああ」

 聞かれながら笑みを浮かべられて、昌人も笑んで答えた。
 けれど次の瞬間にはもう笑みは消えていた。

「残ったか?」
「え?」
「傷跡」

 そう言われて昌人は理解した。
 二人で手首を切った時の傷のこと。
 昌人の左手首の傷は完全に癒え、出血は多かったが傷は浅かったので傷跡も残っていなかった。

「いや―――」
「俺は残った」

 言いながら悠里は右手をポケットから出して昌人に見せた。
 白い手首には大きな傷跡がくっきりと残っていた。
 悠里にだけ残った傷跡。
 それがあの時の悠利は本気で死ぬつもりだったという証のように思えた。

「俺は死ななかった。おまえも」
「ああ」



「だから、生きる」

 風が、ざあ、と吹き抜いた。
 首に巻いた二人の赤いネクタイが靡いて。

「生きて生きて、抗う。そうすることにした」
「悠里……」
「だから、悪かったな。付き合わせちまって」



「これは俺の問題で、おまえには関係ねぇのにな」
「オレは……」
「おまえは」

「死ぬつもりなんかなくて、ただ俺のことが好きで」

 ―――違う。

「俺を放っておけなくて、死ぬのが怖くて」

 ―――違う。

「だから病院へ駆け込んだ」

 ―――違う。

「俺はもう死のうとなんてしない。だから―――」
「違う……」
「昌人?」
「違うっ!!」

 思わず、昌人は叫んでいた。
 もう、止まらなかった。

「違う! オレは死ぬのが怖かったんじゃない、許せなかったんだ! 一緒に死んだら、おまえがオレのこと好きになってくれるんじゃないかって! そんな気持ちで死のうとした事が許せなかったんだ !!」

 正直に話して。
 頭の中がぐちゃぐちゃで。
 涙まで出てきてしまって。
 情けなくてかっこ悪くて。
 昌人は俯いて隠すように片手で顔を覆った。
 そんな昌人に悠里は溜息を吐く。

「バカだな」

 そして、その隣に座った。

「人間なんだから、そういう下心だって持つだろ」

 視線は前のまま昌人の頭にぽん、と手を置く。

「でも、好きにはならない」
「わかってる」

 悠里はそんな奴じゃない。
 それくらいわかっている。

「けど、オレは、おまえが」

 ―――好きなんだ。

 その言葉は出なかった。
 どうしても、どうしても。
 それが解っているのか悠里も何も言わなかった。





END


亮祐:管理人です。最後の方、ぐだぐだになってしまった感が強くて否めない。
翔:前回も似たような事いってるぞ。
亮祐:補足説明ですが前回と今回は昌人達が中等部一年生だった時の過去、一年前の話です。だからネクタイの色がサウンドノベル収録「永遠の眠り」と同じ赤なんです。 雛城学園は学園ごとにネクタイの色が違うので。ではこの辺で。


BGM:悲しみの向こうへ/いとうかなこ

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