Photo:veil モドル | ススム

● スクール・デイズ 短編集 --- 01.おれと鵬子と煙草のキス ●

 今日、俺は

「なに?」

 妹が煙草をふかしてるところと出くわした。

「別になんでも……」
「ふ〜ん」

 答えると俺は妹の隣に座り、馴染みの煙草『MILD SEVEN Lights』を咥える。

「ねえ、驚いた?」

 火をつけた途端、タイミングを見計らっていたかのように妹が訊いてきた。
 俺は、我が妹ながらこの女に惹かれている。
 凍刃 鵬子
 オレの双子の妹。
 同じ雛城学園定時制高等部の二年C組。
 女よりも俺ら男とつるんでいる。
 鵬子の鵬は想像上の大鳥から取ったもので、親父たちが色んな意味で大きな子に育ってほしいという願いから「鵬子」と名付けられた。
 だが鵬子自身はその名前にコンプレックスを感じていて、自らを「鵬」と名乗り、周りもそう呼んでいる。
 小5の時、鵬子とよんだ上級生(男)がその場で左腕を折られたのだ。(ちなみにそこは教室で大騒ぎになり、警官による現状注意だけで済んだのが奇跡だった)
 ―――誰が、「鵬子」だって?
 あのときの鵬子の目、今でも覚えてる。
 今思えば俺はあの時から鵬子に惹かれていたのだ。
 小学生だったオレが何故“恐い”と思わずに惹かれたのかは分からないが。
 性格は……
 性格は、俺にも不明。

「別に……」
「なーんだ。てっきり『カワイイ妹が煙草に手を出したショックでブッ倒れる』かと思ったのに」
(ぐっ……。図星だ……)

 カンが鋭いと思えば

「ところでさー、最近仲間の一人が見つめてくるから見つめ返してやるとそっぽ向いちゃうんだけどなんでだと思う?」
「(そいつ好きなんだよ、おまえのこと……)」

 恋愛に関してはかなり鈍い。

「知るかよ、んなこと」
「うーん、何でかなー? 別に俺、何もしてないしー……」

 髪は長いが、服装や喋り方は男っぽい。

「ま、いっか」
「(いいのかよ……)」

 切り替えが早いかと思えば

「そういやー、女の中にもそいつと同じような子がいるんだよねー」
「(ヲイ……)」

 引き摺ったりもする。
 本当に、訳が分からない。

「おい、おまえそのタバコ―――」

 ふと気が付いた。
 鵬子が吸ってるその煙草。

「ああ、『HOPE』だけど、なに?」

 あっけらかんというなよ。

「それオレが知ってる中じゃ一番重いやつじゃねーか。もっと軽いやつ吸えよ」
「双太が吸ってるやつくらい? ムリムリ。軽すぎて逆にむせる」

 悪かったなっ。
 どうせオレが吸ってる煙草は軽いやつだよっ。

「心配しなくても『一日一本』って決めてるし。小4から吸ってるからなじんでるし」
「なにぃっ!?」

 小4って9・10歳あたりじゃねーかっ!
 オレでさえ中2だったのに……。
 どんな肺してるんだ…?

「全然気づかなかった…」
「そりゃタバコ吸った後は必ずセッケンで手ェ洗ってたしね。服にも消臭スプレーもしてたし」

 まめ、なんだな……。

「けどさ……」
「ん?」

 鵬子が身を乗り出してくる。

「こうしてたら気づいてたかもね」

 気付いた時には、鵬子のドアップ。
 重なったお互いの唇。

「…ん……」

 口内に入ってきたぬるりとした感触。
 俺は反射的に目を瞑った。
 やがてゆっくりと離れていった。

「感想は?」
「……苦ェ」
「でしょ?」

 鵬子とのキスは『HOPE』らしきタバコの味がした。
 軽い『MILD SEVEN Lights』しか吸ったことのない俺にはまだ苦すぎる。
 確かにこうすれば苦味で気付いてた筈だ。
 けど

「だからってフツー兄妹でキスするか?」
「それもそっか」

 オイオイ……。

「けど好きだったら別にいいんじゃない?」
「………え?」
「だから」



「好きなんでしょ? 俺のこと」

 頭の中が真っ白になった。

「いつから気づいてた……?」
「小5のときかな。6年の骨折ったときからなんか『オレを見る目が違うなー』って」

 初めからか……。

「……気持ち悪いって、思ってたのか?」
「ん〜?」
「俺たちは兄妹だろ。普通気持ち悪ィって……」

 いっそのこと振ってくれ。
 そしたら、諦めてみせるから。
 でも

「別に、人の気持ちは自由なんじゃない?」

 そう言って、いつもの笑みを浮かべてくるんだ。
 チクショウ。放せなくなるじゃねーか…。

「いいのか?」
「そんかわり、そうカンタンには落ちないけどね」

 宣戦布告ってワケか……。
 いいじゃねぇか。
 こうなったら、絶対落としてやる。
 俺なしじゃ生きけてないくらいに。
 覚悟しろよ、鵬子。



 そこで俺はあることに気付いた。

「なんかあのキス、妙に上手かったような気がすんだけど……」
「そう? 俺からは初めてしたんだけど、そんなにヨカッタ?」

 もう……ほんとコイツ、オレより大人じゃん……。
 落とせねぇかも……。





END


亮祐:管理人です。煙草吸いながら思いついたもの。ちなみに思い・軽いはタバコの成分のタール・ニコチンがどれくらいはいってるかで。一度重いの吸ったら今まで吸ってた軽いのは吸えなくなるのは管理人談です。


BGM:なし

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