―――鮮血が、降り注いだ。
その場に佇むは幼い少女。
―――どおして、忘れちゃってたの?
ただ呆然と立ち尽くして。
―――どおして、思い出せなかったの?
血に染まった、二人の超人を目の前に。
「おじ、ちゃん……?」
―――そうすれば、こんなことにはならなかったのに。
「さあ、はじまりましたっ! 選手入場ですっ!」
アナウンサーの声と共に世界各国の超人オリンピック代表選手が入場する。
その中にはの姿があった。
プラカードを持って、西ドイツ代表ブロッケンマンと共に歩いている。
開会式に潜らせる方法としてブロッケンマンはにプラカード持ちをやってもらっていた。
「どうだ? いたか?」
「ううん」
後列、前列と見回すがキン肉マンは何処にもいなかった。
「あ!」
前方に、テリーマンが見えた。
ファンに笑顔で手を振っている。
もテリーマンに呼びかけながら手を振った。
こちらに気付いたテリーマンは目を丸くした。
キン肉マン側のがブロッケンマンのプラカードを持っていたから。
その間にナツコが中野さん含む駆け寄るテリーマンファンを投げ飛ばした。
「あれは?」
「おにいちゃんの友達のテリーマンおにいちゃんだよ」
「そうか……」
ブロッケンマンは声援に手をやっている。
それを見ながらは考えていた。
超人オリンピックの決勝でキン肉マンと試合する相手がロビンマスクだということは知っている。
だとすれば、テリーマンはいつ負けてしまうのだろう。
キン肉マンと試合して負けるのだろうか。
「決勝でおにいちゃんとロビンマスクって超人さんが試合するってことは、そのまえにテリーおにいちゃんは負けちゃうってことだよね。おにいちゃんに負けちゃうのかな? おじちゃんはどう思う?」
ブロッケンマンは何も答えなかった。
変わらず声援に手をやっていたが、その瞳は別のものを見ているようだった。
「おじちゃん?」
不思議そうなの声にブロッケンマンが我に返る。
「ああ……さぁ、な……」
ブロッケンマンはうまく答えることが出来なかった。
気になったはブロッケンマンが見ていたものに目を向けた。
後列を、ラーメンを持った一人の超人が歩いている。
「そしてその次は、中国の隠し兵器といわれるラーメンマンですっ!」
「人類は麺類! 中国四千年の歴史あるよ!!」
夢で見た細い目の超人だった。
アナウンサーとラーメンマンの声を聞きながら、ブロッケンマンが何に気をとられていたか解らず、は首を傾げた。
「そして最後、主催国日本の代表はこの人っ!キン肉マンでありますっ!!」
アナウンサーの紹介と共に笑顔で歩いてくるキン肉マンが現れた。
にこぼれんばかりの笑顔が浮かぶ。
「おにいちゃんだ!」
「あれが……」
「おにいちゃんっ!」
プラカードを持っていることも忘れ、キン肉マンの元へ駆け寄ろうとする。
次の瞬間、キン肉マンに野次とゴミがぶつけられた。
幸い、寸でのところでブロッケンマンが止めてくれていたのでにはその被害は及ばなかった。
野次とゴミが止まったところですぐさま駆け寄った。
「おにいちゃんっ!!」
声にキン肉マンが気付くと同時に抱きついた。
「ちゃんではないか」
「大丈夫? いたい?」
ゴミをぶつけられて出来た傷にそっと触れる。
「いたいのいたいのとんでいけー♪」
少女は歌う。
優しく撫でながら。
「いたいのいたいのとんでいけー♪」
少女は歌う。
彼の怪我が早く治ってくれるよう。
良い匂いがした。
うっとりするような花の香り。
キン肉マンの眼に、少女と白銀の女の姿が重なった。
急にぐい、と引っ張られた。
ブロッケンマンが少女の両脇に手を通して引き寄せていた。
「そろそろ始まる。急いだ方がいい」
「うん。おにいちゃんも早く」
「お、おお!」
ブロッケンマンの後に続いてもキン肉マンも続いた。
超人オリンピックの開会式が始まった。
委員長の挨拶が終わり、ロビンマスクの選手宣誓も終わり、聖火ランナーのミートが聖火台目指して走っている。
テリーマンはと、僻んでいるキン肉マンの元を離れ、ブロッケンマンに近付いて英語で声をかけた。
「はじめまして、ブロッケンマン」
「貴様は……テリーマンといったか」
「私をご存知でしたか」
「たまたま聞いていただけだ」
冷ややかな声で返される。
テリーマンはのことを聞きたかった。
ドイツの鬼といわれるブロッケンマンが今日初めて会ったばかりの子供にプラカードを持たせる訳ないと思ったから。
「あの子とはいつ知り合いに?」
「さきほどであったばかりだ。会いたい超人がいるといったから連れて来た。それだけだ」
「本当にそれだけで?」
「……何がいいたい?」
「ドイツの鬼と呼ばれる貴方が会いたい超人がいるからって初対面の子供をわざわざ連れてくるとは思えなかったので」
「何をいわれようとあの子と会ったのは今日が初めてだ」
「……あの子は迷子でしてね。親を探そうにも何も話してくれない。今はキン肉マンが弟のくん共々引き取っている状況です。いくらあの子が超人といえど寂しいでしょうし、親も心配しているでしょう」
揺さぶりをかける。
この男に情が効くとは思っていない。
けれどあの少女のことであれば効くのではないかと思った。
「だから何か知っているのであれば……」
「…………ではない」
ブロッケンマンから声が漏れる。
独り言のような声。
その瞳には僻んでいるキン肉マンを慰めているの姿。
「超人などではない。あの子は、我がブロッケン一族の……」
その時、キン肉マンがいる方から乱闘騒ぎが起こった。
キン肉マンと中国代表のラーメンマンが殴り合っている。
テリーマンは慌ててキン肉マンを止めに向かった。
ブロッケンマンが漏らした言葉の意味が気になったが、彼にとってキン肉マンの方が最優先だった。
後に、ブロッケンマンが漏らした言葉の意味を知るのは数年を要することとなる。
亮祐:管理人です。今回やっと視点の話となり、めでたくキン肉マンとの再会を果たしましたー。続いての予選とかは多分はしょると思いますが。
翔:省略かよっ!!
亮祐:えー、おそらくお分かりになったと思いますが、アニメのDVDを手に入れつつありますので今回から原作&アニメでいきたいと思います。前の分もアニメ含むものに修正です。
前回同様日本語以外で会話してる所はナナメ表記で表現しております。最後に行われたテリーとファーターの会話。ファーターは前回初対面ですが何者なのか気付いているのです。ここで一つネタバレを。冒頭の独白。これがオリンピック編で一番書きたいシーンの一部です。おそらくバレバレだったと思いますが。「criminar」はこのシーンを含め、4・5話で終了の予定です。でも次回は何を書くか決まっていなかったり…。
翔:予定は未定かっ!!
亮祐:では続きます!!
BGM:アニメ「キン肉マン」ヒーローオリンピックの巻