キン肉マン原作&アニメ沿い連載夢小説「Amadeus」

criminal beginning

モドル | トジル | ススム

「キン肉マアァァァンッ!!!」

 マスコットに選ばれたミートをひがんでいると、超人オリンピック開会式開場である国立競技場中に響きそうな大声と共に控え室の扉がぶっ飛んだ。
 キン肉マンとテリーマンの目が声の持ち主の肩で息をしている姿を捕らえた。

「な、なんじゃい? くん」
来てねぇ!?」
ちゃんならナっちゃんやマリしゃんと客席ではないのか?」
「いねぇんだよ! ドコにも! はやく見つけねぇと……!!」
「き、気持ちはわかるが少し落ち着いた方が……」
「落ち着いてられっかあっ!!!」

 口を出したテリーマンが興奮気味のの迫力に思わず身を竦めた。

はなぁ! はなぁっ!!」

 信じらんねぇくらい筋金入りの方向音痴なんだよっ!!

 吐き出されたの言葉にキン肉マンの顔が青くなった。
 この間の、出口に向かう人込みに流されたが元いたレストランに戻っていたのを目の当たりにしていたから。










 人気のない廊下にカツン、カツン、と靴音が冷たく響く。
 黒い軍服を着たドイツの超人ブロッケンマンが一人歩いていた。

 ―――ここを歩くのも今日で最後か……

 ブロッケンマンにはそれが解っていた。
 感傷に浸っているわけではない。
 ただ単にする事がないからだ。
 控え室で時間を持て余すよりも、散歩でもした方がまだマシだと思ったのである。
 曲がり角に差し掛かったとき、足に軽い衝撃が起きた。

「きゃ!」

 何かにぶつかった。
 視線を下に移すと少女が両手で顔を押さえて座り込んでいる。
 ピンクのシャツにデニムのスカート。
 長い漆黒の髪が床についている。
 体格から察するにまだ10歳にも満たない人間の子供だ。
 何故観客席や超人達の控え室からも遠く離れたこの場所に人間の子供がいるのか、ブロッケンマンには解らなかった。
 だが今はそれを考えている時ではない。

「大丈夫か?」

 少女の体を支え、立たせてやる。
 普段ならこんな事などしない。
 無視してその場を立ち去ればいい。
 なのに思わず反射的に少女を気遣う行動をとっていた。
 とにかく早いところ何とかしよう。
 何事もなければ立ち去ればいいし、怪我をしているのであれば医務室を教えて立ち去ればいい。

 だが少女は下を向いたまま一言も喋らない。
 自分がのドイツの鬼と異名を持つ残虐超人ブロッケンマンだからかとも思ったがそうではなかった。
 見たところ少女はアジア系、おそらく日本人だ。
 なのに自分はドイツ語で少女に話し掛けた。
 何を言ったのか解らず途惑っているのだ。
 ならば日本語で話しかければ良いのだが、生憎日本語は得意ではなかった。
 超人は日本語、もしくは英語を主流に会話するが、屋敷の者と少々のマスコミしか関わる事がないブロッケンマンは母国のドイツ語と英語しか喋れない。
 日本のマスコミと会話したことも会ったが、通訳がついているのが殆どだったので殆ど上達しなかった。
 相手が大人なら良いが、子供に通じるとは思えない。
 第一日本語は発音が難しいのだ。

 一方、少女はブロッケンマンの予想通り何を言ったのか解らず途惑っていた。
 体の大きさと逞しさから察するに目の前の男はキン肉マンと同じ超人のようだ。
 オリンピックが始まる前にキン肉マンに会おうと控え室に向かっていたのだが迷ってしまった。
 この人なら控え室がどこか知ってるかもしれない。
 だが、言葉が解らない。

 ―――話したい
 ―――ワカリタイ

 何処からか良い香りがした。
 うっとりするような花の香り。
 ブロッケンマンはこの香りを良く知っている。
 もう二度と嗅ぐことのない香り。
 それなのに、周囲から香っている。
 少女が口を開いた。

「うん。ぶつかった時は痛かったけど」

 流暢なドイツ語だった。
 少女が顔から手を離し、顔を上げる。

「もう、大丈夫だよ」

 にこり、と笑顔を浮かべた。
 それを見たブロッケンマンの顔が固まった。
 その花開くような笑顔と紫電の瞳に、自分の妹の面影が重なったから。

「君の、名は……」
「だよ。おじちゃんは?」
「……ブロッケンマンだ」

 ―――俺は何をやってるんだ……

 すぐにこの場を去るつもりだった。
 それなのに少女に名を尋ね、自らも名乗ってしまった。
 もっと話をしたいと思った。

 それはも同じだった。
 ブロッケンマンは超人のようだし、何よりその瞳が綺麗だった。

「おじちゃんの目、すごくきれい。帽子で隠れちゃうのもったいないくらい」
「……恐くないのか?」
「なんで?」
「それは……」

 ブロッケンマンはそこで言葉を止めた。
 少女を見下ろす瞳の鮮やかな赤。
 見るもの全てに血を連想させる。
 ましてや自分は血を好む残虐超人だ。
 恐れない物は居ない。

 だが目の前の少女にそんな素振りは全くなかった。

「恐くなんてないよ。だっておんなじだもん」
「同じ……?」
「うん。弟のちゃんやおとーさんとおんなじ」
「君の父親もこんな目を……?」
「うん。おじちゃんとおんなじくらいすっごくきれいな色だったんだから」
「だった?」
「おとーさん、死んじゃったから……」

 しまった。
 だったと表現した時点で気付くべきだった。

「おとーさんはね、おかあさんがたちができたって知るまえに死んじゃったの。だから、のこと知らないの」

 寂しそうに少女は笑った。
 その顔にまたも妹の顔が重なる。

「でもね、さびしくはないんだよ。おかあさんもちゃんたちもいるし。育てのおとーさんもいるもん」
「そうか……」
「おじちゃん、本当のおとーさんのこと誰にもいわないでね。知らないってことになってるから」
「知らない?」
「育てのおとーさんが本当のおとーさんってことになってるの。おかーさん、が知ってるってことまだ知らないんだよ」

 疑問が生まれた。
 どうやってこの少女は自分の実の父親の存在を知ったのだろう。
 それに何故ここまでドイツ語を解し話せるのだろう。

「ねえ、おじちゃんって超人、だよね……?」
「ああ」
「やっぱり!おにいちゃんも超人なんだよ。今回の超人オリンピックに出るの」
「そうか。さぞ強い超人なのだろうな」
「ううん、全然」

 0.1秒の即答だった。

「強くはないの。ダメ超人っていわれてるし、オリンピックだってロビンマスクっていう超人さんのおかげで参加できたの。でも、すっごくきれいなの。きらきらしてるんだよ」

 自分達がここに来た時、何も解らなかった。
 不安だった。
 けれど彼が手を差し伸べてくれた。

、おにいちゃんが好き。大好き。だから、おにいちゃんが笑ってくれるなら、はどんなことだってできるよ」
「……自慢の兄だな」
「あ、ううん、違うの。おにいちゃんはおかあさんたちが迎えにくるまでひきとってくれてるの」
「じゃあ君は超人では……」
「違うよ。それにここにくるまで超人のこと知らなかったもん」

 知らなかった?
 確かに人間と比べれば少ないが、それでも知らないなんてまずありえない。
 例えそれがどれだけ遠くに住んでいようと。

「でも、もうダメ超人じゃなくなるの。この超人オリンピックで優勝するんだよv」

 少女が無邪気ににこにこと笑った。
 その笑顔は幼い頃の息子に似ていた。
 それもそうだろう。
 周りからは父親に似ているとよく言われるが、実のところあれは母親似だ。
 笑っていた少女の顔が不機嫌そうに頬を膨らませた。

「あ〜、しんじてないでしょ? 本当だよ! ほんとーにおにいちゃんが優賞するもん!」

 頑なに言い切る少女がひどく微笑ましい。

 ―――こんなところまでJr.に似てやがる……

 可笑しくて笑みがこぼれそうだ。

「優賞したおにいちゃんをみんなが空中で胴上げするんだよっ!」



ちゃんと夢で見てきたもんっ!!」

 緩みかけたブロッケンマンの顔が固まった。
 拍子抜かれたからではない。
 寧ろその逆だ。

「テリーおにいちゃんと、ミートと、キン骨おにいちゃんと、あとは知らない超人さん。あ、でもお客さんとロビンっていう超人さんと細い目の超人さんは見てるだけだったっけ」

 二度と嗅ぐことない花の香り。
 急に流暢に話し出したドイツ語。
 妹や息子によく似た顔。
 何より超人オリンピックの結果を知っている。

「おとーさんのことも夢で知ったんたんだよ」

 ありえない。
 今更こんなこと。

「……ドイツ語は、ドイツ語は何処で……習った?」
「ドイツ語って、今おじちゃんと話してるコレ? これドイツ語っていうんだ」
「知らなかったのか……?」
「うん。さっきはじめて聞いてびっくりしちゃった。でも話したい、わかりたいって思ったらできたよ」

 だが、現にこうして目の前にいる。

「ねぇおじちゃん、実はね、オリンピックはじまる前におにいちゃんに会いたかったんだけど迷っちゃって…。おじちゃんもオリンピックにでるんだよね? おにいちゃんの控え室、しってる?」

 少女が不安そうに上目遣いで見上げてくる。
 これで納得した。
 少女は兄と慕っている超人に会おうと控え室に向かっていて此処へ迷い込んだ。
 だがここは控え室からも客席からも大分離れている。
 寧ろ逆方向だった。

「知ってはいるが……今からではもう間に合わんな」

 時計を見ると超人オリンピック開会式まで時間がなかった。
 出場する超人はもう競技場へ行っているだろう。

 は悲しそうに目を伏せた。
 オリンピックが始まる前に会いたかった。
 会って、元気付けたかった。
 がんばって。
 自分を信じて。
 そう言いたかった。

 ふいに大きな手が差し出された。
 辿って見るとそれはブロッケンマンのだった。

「控え室は間に合わんが競技場へ行けば会えるだろう。子供一人くらい紛れ込んでも関係者で押し通せばなんとかな る筈だ」

 ブロッケンマンの手。
 大きな、手。
 はその手をしばらく見つめ

「どうした?」
「あ、うん。ただ……」

 笑みを浮かべ、その手をとった。

「おとーさんって、おじちゃんみたいなのかなぁって……」

 それが未来永劫忘れることのない、罪の始まりになるとも知らず―――。





END


亮祐:管理人です。やっと…やっとファーターが書けたーーーっ!!!ワーイ♪ゝ(▽゚*ゝ)(ノ*゚▽)ノワーイ♪
翔:かなり時間かかったけどな。
亮祐:スランプだったり、部屋が散らかってたかけるスペースがなかったりしてましたもので…( ̄ω ̄):ウブブッ 思い切ってコーヒーカフェに行ったら結構書けたり。――で、今回ファーターです、ファーター。うちのファーターは他人に一切興味ないお方です。目の前で何かあっても無視する人。でも非常に子煩悩。ドイツ語部分本当はドイツ語でルビふってってやりたかったのですが断念です。知らないドイツ語を流暢に話せたりとまた色々と謎が出てきましたね〜 。もちろん解明するのはまだまだ先でございます。本当はJr.のことなんかも話題に出したりしたかったのですが次の機会に持越しです。そうそう、ファーターの目はと同じく紅色。血の色です。後々重要になる、かなぁ?
翔:かなぁって!!
亮祐:次回は超人オリンピック開会式の模様の予定です。オリンピック編で一番書きたいとこまでまだまだかかりそうですな。ではこの辺で。


BGM:なし。ただ後書きはかぐや姫の神田川を聞いてました。(エ)

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