キン肉マン原作&アニメ沿い連載夢小説「Amadeus」

幼き女神 降りし時  3

モドル | トジル | ススム

『泣かないで』

 声が聞こえる。

『大丈夫』

 歌を歌うように滑らかで、すとんと人の心の中まで入り込むように澄んだ声。
 聞いたことのない声。
 けど、知っている声。

『あなたは一人なんかじゃないから』

 私はこの声を何処で聞いたのだろう。





「おにいちゃん?」

 の不思議そうな声でキン肉マンは我に帰った。

「どうしたの? キン肉マンさん。急にぼーっとして」
「そうや、キンちゃん」
「牛丼が冷めるぞ」

 キン肉マンに目を向け昼食を食べているマリとナツコとテリーマンを見て、今の状況を思い出した。
 夜が明けてテリーマンとナツコ、そして途中出会ったマリも引き連れ警察へ行くことになった。
 だが途中キン肉マンと子供達の腹の虫が鳴り、時間も昼前だったので丁度近くにあったデパートのレストランで昼食をとることになり今に至る。

「ほれ、与作の裸踊りでも見て元気出せ〜」

 そして何故か与作さんもいた。

「どうせ王子のことだからろくでもないことでも考えてたんですよ」
「なんじゃとー!」
「おさえるんだ、キン肉マン」
「ほれほれ〜」

 ミートが投げた言葉に暴れるキン肉マンをテリーマンがおさえる。
 与作さんはまだ踊っている。

 騒ぐ四人をよそにナツコとマリは子供たちに牛丼の味の感想を聞いている。
 は笑顔で美味しいと答えていた。
 は、ただキン肉マンを見ていた。

 やがて全員のどんぶりが空になった。
 キン肉マンが爪楊枝で歯の掃除をしていると声がした。

「待つだわいなーーーっ!!」

 出入り口にキン骨マン。
 その後ろにイワオがいる。

「キン肉マンッ!今日こそはおまえを……」

 キン骨マンの顔が若干固まった。
 キン肉マンの傍に見慣れない二人の子供がいたから。

 子供の方もキン肉マンを直視していた。

「おにいちゃんだれ? おにいちゃんたちのお友達?」
「つーか骨と岩じゃん」
「バカにするなっ! 僕はキン骨マンっ! 怪獣軍団のリーダーだわさっ!」
「その一の子分イワオだっ!」
「やっぱ骨と岩じゃん」
「「違うーーーーっ!!!」」

 の言い様にキン骨マンらはジタバタする。
 キン肉マンらも子供にあしらわれている二人を笑っていた。
 ただ一人、だけをのぞいて。

「すごいね」

 の一言に笑い声がぴたりと止まる。

「リーダーってまとめ役でしょ? まとめ役って大変だもん。すごいね、おにいちゃん」

 笑みを浮かべる。
 愛らしく、美しい笑顔。
 花開くような。

「そっ…そうなんだわさ〜!」

 突然キン骨マンが泣き出した。
 周りが凝視しているのにだけが平然とキン骨マンに近付く。

「イワオといいオカマラスといい、どいつもこいつもまとめるのが大変で〜!」
「泣かないで、おにいちゃん」
「う〜、お譲ちゃんは優しいだわさ。お名前は?」
だよ。それから弟のちゃん。おにいちゃん、泣かないで。大丈夫。」
ちゃーん!」

 を抱きしめてキン骨マンは更に泣いた。
 よっぽどうっぷんが溜まっていたのだろう。
 大の大人が泣いてもは馬鹿にすることなくキン骨マンの頭を撫でていた。
 その様子に暫く放心していたが、状況を整えようとテリーマンが話しかけた。

「キン骨マン、何しに来たんだ?」
「そうだっただわさ。キン肉マン! 今日はいつもよりスリリングないたずらをしかけただわさ!」
「スリリング?」

 スリリングとはどういうことなのか。
 首をかしげているキン肉マンにキン骨マンは説明をはじめた。

「このデパートに、爆弾を仕掛けておいただわさっ!」
「「「「「なんだってえぇっ!?!?!?」」」」」

 思いがけない言葉に5人が立ち上がった。
 周りにいた客たちも騒然となる。

「おお、そりゃ大変だ〜」

 やはり与作さんは踊っていた。

「爆弾が作動するまであと15分っ! それまでに逃げないとお陀仏だわさっ!」

 言い切ったと同時に大きな衝撃音と共にビル全体が揺れた。
 テリーマンが揺れで体勢を崩したナツコとマリとミートとを庇う。

「大丈夫か!? キン肉マン!」
「大丈夫じゃないぞい〜…」

 心配するテリーマンの目に、無様に倒れ机から落ちたどんぶり全てを頭で受けたキン肉マンが写った。

「ほれほれ〜…」

 与作さんは転んでもなお踊ろうとしていた。

「大丈夫か!?!」
「うん。キン骨おにいちゃんが守ってくれたから」
「ななななんで本当に爆発したわいなっ!?」
「爆弾ならちゃーんと起爆装置押しておきましたよ。先生忘れてたから」
「おバカッ! 本当に起爆させるやつがあるかっ!!」

 キン骨マンのキン骨DDTがイワオに炸裂した。
 どうやらキン骨マンは初っから爆発させる気は毛頭なかったらしい。
 ただキン肉マンを困らせようとしただけのようだ。

「はやく逃げないとっ!」
「でも今爆発したんやったらもう大丈夫と違う?」
「そ、そうね!」
「そ、それが、複数仕掛けちゃっただわさ〜」
「大変じゃ〜っ!」
「大変な時は与作の裸踊りじゃ〜」
「みんな落ち着くんだ! とにかく外へ……!」

 再び大きな衝撃音と共にビル全体が揺れる。
 周囲にいた客達も皆悲鳴をあげながら一目散に外へ駆け出して行った。

 悲鳴や怒声が周囲を支配している。
 周囲は我先にと外へ出ようとする人達と、それを誘導する警備員でごった返していた。

 その中にキン肉マンらもいた。
 人込みに揉まれて離れ離れにならないようキン肉マンはミートの手を、ミートはマリの手を、テリーマンはナツコの手を、ナツコはの手を、与作さんはイワオの手を、イワオはキン骨マンの手を、キン骨マンはの手をひいている。
 爆発に巻き込まれるかもしれない恐怖と周囲の尋常ではない様子がお互いの手を強く握り締めさせた。

 外まで残り半分といった所で再び衝撃音と共にビル全体が揺れる。

「あっ!」

 衝撃でキン骨マンの手が緩んでしまい、の手が離れてしまった。
 が口を開いた瞬間、あっという間に小さなその姿が人込みに飲まれて消えていく。

ちゃんがはぐれちゃっただわさーーーっ!!」

 叫んだキン骨マンの顔が真っ青になった。

「そりゃてえへんだ〜」
「テリー!ミートを頼むっ!」
「あ!キン肉マン!!」
「キンちゃんっ!」
「王子っ!」

 人込みの流れを逆うキン肉マンに呼び止める声など届かなかった。










 元いたレストランの中にはいた。
 皆と逸れた後、このまま人込みの中にいれば外に出られる筈と考え流れに身を任せたが何故か全く逆方向にたどり着いていた。
 爆発で崩れた瓦礫が周囲に散乱している。
 は肩で息をしてその場に座り込んだ。
 あまりの人ごみに満足に呼吸が出来なかった。
 それに元々人込みに慣れていないのだ。
 こんなにたくさんの人を見たのも初めてだ。
 とにかく早く外へ行かなければならないのに、危険だということがには解らなかった。
 こんなことは今まで一度もなかったから。

ちゃん!」

 その姿を見つけたキン肉マンがの元へ駆けて行く。

 二人の距離が近付いた時、爆発音と共にビル全体が揺れる。

 キン肉マンが体勢を崩したそのとき、一部の天井が崩れ、その頭上に大量の瓦礫が降りそそぐ。
 逃げようにも、もうそんな暇もない。

「スグルおにいちゃんっ!!」

 がキン肉マンの元へ駆け込む。
 その小さな手が触れた瞬間、大きな閃光が走った。
 光は床を、天井を、降り注ぐ瓦礫を包み込んでいく。
 そして徐々に拡散していく意識。
 最後に、煌びやかに靡く白銀の髪と神秘的な紫電の瞳をもつ昨夜の美しい女の姿を捉えた気がした。










 青白い闇夜に浮かぶ白銀色の満月がひどく美しい。
 屋根に登ったキン肉マンが一人冷たい夜風を全身に受けて月を見上げている。
 頬に冷たくきらりと光るものが一筋伝った。

『泣かないで』

 ざあ、と風が辺りを吹き抜ける。
 同時に、背を暖かい感触が埋めた。
 うっとりするような花の香りが周囲に充満している。

『大丈夫』

 歌を歌うように滑らかで、すとんと人の心の中まで入り込むように澄んだ声。
 聞いたことのない声。
 けど、知っている声。

『あなたは一人なんかじゃないから』

 そうだ。
 ミートと出会う前の夜、私は泣いていた。
 いつものようにダメ超人と罵られて、
 一人が寂しくて、
 この広い世界で私しかいないように錯覚して、
 いつもなら月を見ていれば少しは気が紛れるのにこの日だけは違って、
 ただ寂しくて、
 苦しくて、
 そして風を感じて―――

『いつかあなたを囲うほど大勢の仲間が出来るから』

 風に靡く長い髪が視界に入る。
 青白い闇の中を白銀の髪が煌いていて。
 後ろからまわされた腕がキン肉マンをそっと抱きしめた。
 雪のように白い肌は透けている。
 けれど恐くはなかった。

 あの時はわからなかった。
 この声を、
 このぬくもりを、
 この香りを、
 この存在を。
 けれど、今ならはっきりわかる。

『だから泣かないで』

 ゆっくりを、後ろへ振り返る。

 煌びやかに靡く、絹糸のように細く背丈より遥かに長い白銀の髪。
 柔らかそうな薔薇色の唇。
 神秘的な紫電の瞳。
 雪のように白い肌。
 うっとりするような花の香り。
 そして、この世の者とは思えぬその美貌。
 誰をも恍惚と魅了せしめるその美しさ。
 昨夜の女がそこにいた。

『泣かないで』





『おにいちゃん―――』










「おにいちゃん……!」

 初めに見えたのは白い天井と心配そうにキン肉マンを見つめる

ちゃん……」
「王子!」

 ミートに抱きつかれ、初めて傍にいたことに気付いた。

「ひどいですよ、王子! 僕がどれだけ心配したと思って……!!」
「ミート……」
「大丈夫ですか? キン肉マンさん」
「気分はどうだ?」
「よかったわぁ、気が付いて」

 ミートだけではない。
 マリとテリーマンとナツコもいる。

「ほれほれ〜」

 裸踊り中の与作さんもいた。

 キン肉マンは何がどうなっているのかわからなかった。
 気がつけば白いベッドの上に寝ていて。
 ミートなんか今にも泣きそうだ。

 呆けているキン肉マンにテリーマンが説明する。

「ユーが奥へ向かった後、大きな爆発が起こったんだ」

 キン骨マンがいうにはそれが最後だというので駆けつけた五分刈り集団と共にビル内へ戻った。
 火薬の量がそんなに多くなかったらしく全壊は免れたが、それでも中は酷い有様だった。
 所々の天井は崩れ、周囲は瓦礫が散乱していた。
 その中に二人がいた。

「あれはもう、奇跡としかいいようがない」

 そこは損傷が激しく、周囲は瓦礫で埋め尽くされていた。
 それなのに横たわる二人には怪我一つなかった。
 それどころか二人の上には瓦礫どころか塵一つなかった。

 まるで何かに守られたように。

 そして二人を病院に運んだがやはり怪我等一切泣く、先に目覚めたとキン肉マンが起きるのを待っていた。

 キン肉マンは体を起こし、を見る。
 の服は可愛らしかったエプロンドレスではなく、白いブラウスと紺のジャンパースカートというシンプルなものになっていた。

ちゃん、服が違うぞい」
「あ、うん。服、やぶれちゃったから」
「破れた?」
「ケガはなかったんだけど、ちゃんだけ服が破れていて……」
「それは近所で買ってきたもんや」

 マリとナツコの言葉を聞いて何か忘れていることに気付く。

 ―――私はあの時、瓦礫が崩れて来た時、何を見た…?

「見た時は本当に驚いたわ。内側から圧迫されたみたいに破けていたから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・……」

『スグルおにいちゃんっ!!』

 あの時の光景が脳裏に甦る。
 小さな手が触れた瞬間、大きな閃光が走った。
 光は床を、天井を、降り注ぐ瓦礫を包み込んで、
 そして徐々に拡散していく意識の中でキン肉マンは見たのだ。
 煌びやかに靡く白銀の髪と神秘的な紫電の瞳をもつ美しい女の姿を。
 それにまだ教えていない本名を呼んでいた。

 慌てて再びを見る。
 神秘的な色合いの紫電の瞳がキン肉マンを見上げている。

 昔見た、昨夜の女と同じ紫電の瞳が―――

 そこへ病室の扉が開いた。

「西隅田川署の五分刈りだ。を連れて来たぜ」

 五分刈り刑事と共に今まで不在だったが入ってきた。

くん、話は終ったのか?」
「話し?」
「ちょうど警察の世話になったから昨夜のことを話しておいたんだ」

 テリーマンが五分刈り集団に話をした後、本人から事情を聞くことになりが今まで話をしていた。

「親が見つかるまで、どっかの施設ってとこに入るんだってさ」
「え………」

 の顔が悲しそうに歪む。
 その手はキン肉マンの手を握っていた。

ちゃん」

 意を決してキン肉マンがに話を切り出す。

「パパとママが見つかるまで、私と一緒に暮らさんか?」

 会いたかった。
 あの女に、
 あの時優しく慰めてくれた女に。
 この少女と一緒にいれば会える気がした。
 それ以上に少女の傍にいたかった。

「いいの?」
「私は構わんぞい」
「でも………」

 がちらりとに目を向ける。
 昨日からは誰に対しても警戒していた。
 おそらく五分刈り集団にも本当の事を話していないだろう。

「オレもいい」

 予想とは逆の言葉がに投げられる。

「その人だったら、いい」

 その瞬間、の顔に花開くような笑顔が浮かぶ。

「おにいちゃん!!」

 声を上げてはキン肉マンに飛び込むように抱きついた。
 よほど嬉しかったのだろう。
 満開の笑顔がまぶしかった。

「ところで、一つだけききたいことがあるんだが……」

 テリーマンにはきいておきたかったことがあった。

「ユーたちは超人かい?」

 二人の捜索にはも一緒だった。
 テリーマンが先陣をきるまえにが彼らを押しのけて先へ行こうとしてしまい、危ないから外で待っているようにと周りが止めた。
 ところがは目の前にあった一トン近くはあろう瓦礫を素手で軽々と退けて―――。

 ―――足手まといにはなんない。

 周りが呆ける中、そう言ってのけた。
 と協力して瓦礫の除去を行ったおかげで作業はスムーズに進み、早く二人を見つけることが出来た。
 あれほどの怪力をただの人間が持ち合わせているわけがなく、超人と考えるのが自然だった。

「そ、そう! そうだよ!」

 余計なことをが言う前にが言い切った。
 超人が何なのか知らなかったが言われた通りにしておけばこの先何かあっても言い逃れることが出来るだろうと思ったから。

「そうだったんですか」
「二人とも超人だったのね」
「なんや、それやったらはよいうてくれれば良かったのに」
「そ、それと、オレあんたに謝りたい」
「へ?」

 はキン肉マンを指差していた。

「オレ、最初ろくに話さなかったから……。別にアンタのこと警戒してたワケじゃないんだ。ただ……」



「アンタが、本当にのいうとおりの人だったから……」

 から話を聞いた時、まさかと思った。
 そんな奴、そう簡単にいる訳がない。
 多分、大げさに話しているだけだと。
 けれど昨日実際に会って本当だと知った。
 だから戸惑った。

「だから、ゴメン」

 深々と、申し訳なさそうに頭を下げる。
 そんなの頭にキン肉マンは軽く手を置いた。

「意味はようわからんが、別に気にしとらんぞい」
「五分刈りさん、構いませんよね?」
「まあ、時々様子を見れるならいいぜ」
「よかったなぁ〜、二人とも」
「とにかくこれでミーたちとも話をしてくれるわけだ」
「………ミートとマリねえちゃんとナツコねえちゃんはいいけど、アンタは微妙かも」
「ワッツ!? 何故!?」
「だってアンタ」

 前に子供蹴っ飛ばしてるし

 の言葉にその場にいた全員盛大に吹き出した。
 塞ぎこんだテリーマンはに慰められていた。

 こうして子供達はキン肉マンに預けられ、キン肉ハウスで暮らすことになった。





END


亮祐:管理人です。無駄に与作さん裸踊りさせすぎました。
翔:本当に無駄だよ。
亮祐:しかもアデランス中野さん出してなかった……。とにかく原作&アニメ沿い連載夢小説出会い編、めでたく終了です。今回で出会いが明らかになったわけですが、謎も増えました。前回のがガードが固かった理由も正確に判明しなかったし……。 が警戒していたのは、警戒していたのではなく戸惑っていたということで今は納得してください。えー、副題「幼き天使 舞い降りし時」実はこれ、仮題だったりします。王位編が終了するまでにはちゃんとした副題つけますのでご了承くださいませm(_ _)m次回からはやっと超人オリンピック編。ヒートアップしていきますよ〜。ラーメンマンとかブロッケンマンとかブロッケンマンとかブロッケンマンとか…。
翔:独逸ばっかりか。
亮祐:ロビンはもうちょっと先でヒートアップする予定なもので。ではこの辺で。


BGM:『あたしがアリスだったころ』/ALI PROJECT

モドル | トジル | ススム

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