宿屋の部屋に戻ったカイはベッドに横になり、天井を見上げていた。
―――今のアンタ、普通の状態じゃないと思う。
―――平常心など
―――もう失っている
―――あの人と出会ってから
カイは最初、爆のことは炎の後継者としてしか見ていなかった。
だが爆がモンスターを倒そうとして自分ごと突っ込んでいった時に確信したのだ。
―――私は爆殿に恋愛感情を抱いている
だが、カイはあの時に見てしまったのだ。
炎と爆の情事を。
カイの胸にはその時の事が深く突き刺さっていた。
あの時カイは爆のことが気になり、自分だけテントへ戻ったのだ。そしてそこに居なかった爆を見付け、二人の会話を盗み聞きしてしまった。
爆が抱えていた悩みを聞いたときカイは驚いていた。
爆が抱いていた思いを知ったときも。
―――なぜだろう
―――なぜ私は
―――あの時テントへ戻ってしまったのだろう
カイは後悔していた。
何故今頃になって、気付いてしまったのだろうか。
何故今頃になって、爆を手に入れたくなってしまったのか。
カイは最初見守るだけで構わないと思っていた。
だがあの情事を見て防衛は崩れてしまったのだ。
最近では炎に憎しみさえ抱くようになっていた。
―――苦しい
そしてそれと同時に爆を壊したがっていた。
一番守りたい人の全てを、壊したがっていた。
―――壊したい
―――壊してしまいたい
―――全てを壊して
―――自分のものにしてしまいたい
―――でも……傷つけるかもしれない
それでも時より胸から突き上げてくる激情を必死で抑え付けていた。
爆を傷付けたくないという想いだけはカイの中で生きていた。
暴れる激情と愛する感情、この二つが今カイの中で戦っていた。
―――どちらの思いも捨てきれない
―――ならばいっそ両方捨ててしまいたい
「ヂィーヂィー」
気がつくとバクザンが心配そうにカイを見つめていた。
「心配しなくても大丈夫ですよ」
そう言い聞かせるとカイはピンクからもらった薬を思い出し、体を起こすと懐から薬を一粒取り出して水とともに飲み込む。たとえ気休めにしかならなくても今の自分は飲んだほうがいいと考えたのだ。
ピンクとフネンに感謝しながら残っている錠剤を見詰めていると、ふとピンクの忠告が頭の中を過ぎった。
(―――その薬、飲みすぎると副作用で体が重くなるから寝る前とかに飲んだほうがいいわよ)
なぜその忠告が頭を過ぎったのかカイにもわからなかった。いくらなんでも効き目があるという理由だけで飲みすぎるようなまねはしない。
そして薬を枕元に置くと横になる。やがて気分がスーッとするようなしないような気分になったかと思うと、そのままゆっくりと意識を失っていった。
亮祐:暗い、ねぇ……。つーか苦情が来ないか心配……。
翔:だったら書くなよ……。
BGM:なし