「カイーッ!」
宿の屋上で夕日を見ているカイを見つけたピンクは大声で呼びかける。
「ピンク殿。どうかしたんですか?」
「どうかしたの? じゃないわよ。急にいなくなるんだもの。心配したじゃない」
そっけない返答に少し怒りながらピンクはカイの隣りに座る。
「そう、ですか……」
カイには元気がなかった。
そう。フンベツ山を降りた時、爆が元気になったときから元気がなくなっていたのだ。
「何かあったの?」
「え……?」
「いいなさいよ。何かあったんでしょ?」
「………………」
カイの返答は無言だった。
「ま、話したくないなら別にいいけど」
「すみません……」
「アンタが謝る必要ないわよ。アンタのことだもの。アタシが口挟むようなことじゃないわ」
申し訳なさそうに謝るカイに言い聞かせながらピンクは立ち上がる。
「時が解決してくれることを祈ってるわ」
そして屋上から去ろうとした。
だが
「ピンク殿ッ!!」
「……何?」
カイに呼び止められ、後ろへ振り向く。
「もしかしたら私は、あのままフンベツ山にとどまっていたほうが、良かったかもしれません……」
俯いているカイを見てピンクは不安を覚えていた。
得体の知れない危機感。
―――遅すぎた……みたいね
ピンクがカイの様子がおかしいことに気付かない訳がなかった。
爆が居ない時だけ酷く思い詰めた様な表情で顔を歪める。
何もないわけがなかった。
だからこそピンクは先程覚悟を決めて訊いてみたのだ。
―――が、状況は思っていたより深刻らしい。
―――やはり『アレ』は渡しておいたほうが良いかもしれない
「カイ、これ……」
ピンクはポケットから白い錠剤が入った小瓶を取り出すとカイに渡した。
「これは……?」
「前にヒゲから“アンタに渡しといてくれ”って頼まれたの。そのときはいらないと思ってたんだけど今のアンタには必要みたいだから」
小瓶を見詰めていたカイはハッとピンクを見る。
「いわゆる『精神安定剤』みたいなものだって。ただの気休めにしかならないかもしれないけどないよりはマシだと思うわ」
「………………」
「今のアンタ、普通の状態じゃないと思う」
目を逸らさずに言い切ったピンクをじっと見詰める。やがてカイは薬が入った小瓶を懐に入れ、その場から立ち去ろうとしたが後ろから聞こえてきた言葉に一端足を止める。
「その薬、飲みすぎると副作用で体が重くなるから寝る前とかに飲んだほうがいいわよ」
「……分かりました」
それだけ言うとカイは足を進める。
そんなカイの様子をピンクは見えなくなっても黙って見詰め続けていた……。
亮祐:――って本当にまだ大丈夫だった……。
翔:だろ?
亮祐:でも、次からは確実に暗くなります。お気をつけて……。
BGM:なし