針の当に到着した嵐達は負傷したGCの手当てをシルバに任せ、ヒロトを置いて生徒会室へ向かった。
「それで、その子がそうだっていうの?」
生徒会室隠し通路の先にある学園の中枢に四人の姿があった。
一人目は生徒会長の雹。
「ああ。おら、やれよ」
二人目は激。
「やってくれる?」
三人目は嵐。
「……ったく」
そして四人目は爆だった。
面倒くさそうに返事をすると爆は両手をかざし、先程の拳銃をハリセンに変化させてくれる。
「へぇ……」
「な?初めて見んだろ?」
雹に同意を求める激の気持ちはよく分かる。
嵐もはじめて見た時は驚いた。
だからこそ興味をもった。
「これって他の物も創れるの?」
「あ? ああ」
今度はハリセンをナイフへ変化させた。
「へ〜、こんなのもできるんだ」
「まあな」
そしてナイフを消した。
「う〜ん、ライセンス兵器と似てるけど、少し違うみたいだし」
「兵器は念じた武器の形を瞬時に精神開放して具現化させる技で、別の武器に変えるなら一旦解除しねぇとあんねぇからな。こいつは多分、気を使って具現化……」
「それは違うと思うよ」
考案しあってる二人に嵐が口を出す。
「僕が見た感じだと原動力は気とは違う印象だったよ。気にしてはなんかこう、もっと重いような感じだった」
「重いって……どういう意味だ?」
「うまく説明できないけど…なんかこう、重い感じだったんだ」
あの拳銃での攻撃を見た時に抱いた感じは重いだった。
上手く説明できないが何かこう、あれを使うには重い何かを背負ってるような。
そんな感じだった。
「とにかく、そうこうしててもしょうがないよ。今日一日そこらで解明できるものじゃなさそうだし……」
面倒くさそうに雹が溜息を吐いた。
「しょうがないから君にはここに入ってもらうよ。いいね?」
「待て。俺はただそこの書道筆が来いとうるせぇから来てやっただけだ。これ以上ここにいる気は……」
「君、けっこう綺麗な顔してるけど、あくまでもこの学園一の美少年は僕だということを忘れずに」
「きいてんのか、このイカレ男が」
自分勝手に話しを進める雹に爆は今にもキレ出しそうだ。
案の定、その考えは当たった。
瞬時に練り上げた爆の拳銃が火を吹いた。
弾丸は壁に穴をあけ、雹は目を丸くしていた。
けれどその目はすぐに鋭いものになった。
自分の頬からほんの小さな一筋の血が伝っていることに気付いたから。
「どうやら貴様はそのイカれた脳みそに風穴二つは開けんと人の話しが聞けんらしいな」
「……そうだね。でも、その前に君が真っ二つになるけどね……!!」
雹が刀を抜いて飛び掛ったと同時に爆も拳銃を構えなおし引き金を引こうとした。
――が
「ダメですよ、お二人とも」
「「―――っ!?」」
間にいきなりチャラが現れ、二人を動揺させた。
雹は体制を崩し、爆も慌てて拳銃を天井へ向ける。
「こんな所で喧嘩なんかしたら炎さまと現郎さま怒られちゃいますよ? ここは私と眠り姫さまに免じて武器を収めてくださいv」
「……わかったよ」
「チッ……」
二人に怒られる事を恐れたらしく雹は刀を鞘に収めた。
爆も渋々拳銃を消す。
「とにかく、君がここへ入ることを拒否しても針の塔は絶対だから無駄だよ。いいね?」
「ああ……」
爆は嫌そうだったが仕方ないと頷いた。
針の塔の命令が絶対だということは爆もちゃんと分かっているようだ。
「じゃあ学園への編入手続きするから名前と所在国いってよ」
「名は爆。国は……」
「おや、嘘はいけませんよ。涼華さん」
「「「へ?」」」
チャラの言葉に三人とも素っ頓狂な声を出した。
「貴方の名は爆なんて男の名ではありませんよ。あなたの本当の名は涼華さん。れっきとした女性です」
チャラの言葉が爆を余計に不機嫌にさせた。
本当だとすると爆、いや涼華は。
「ちょ、ちょっと待てよっ。…って、ことは何かぁっ!? こいつ本当は女だってぇのかぁっ!?」
「そうですよ?男性だと思ってたんですか?」
「当たりめぇだろっ! こんなドスのきいた声でこんな服で目つきも悪ィしっ! 女に見えっかぁっ!!」
あたふたしてる激の言葉に他の二人も同感だった。
涼華の声は中性的だし、着ている法衣も仏心がある者が身に着ける男性用の物だ。
それにこの目つきの悪さが涼華を女性を思わせなかった。
「けど、そうやって黙ってりゃ見えなくもねぇか。顔だってよく見りゃけっこう美人さんだしなぁ?」
激は涼華の顔をくいっと上向かせ、まじまじと顔立ちを見つめている。
確かに黙っていれば女性に見えないことはなし、目つきも悪いがそれ以外はいわゆる美形に入る綺麗な顔立ちだ。
「なぁ? この後親睦の意もこめてどっか……」
「あいにく、俺は貴様のような男は気に食わん」
口説きだした激の節操なしに呆れていると、その額に涼華の拳銃が押し付けられていた。
後は引き金を引けば間違いなく激の額に風穴が開けられる。
流石の激も正体が分からないこの武器を避け切れるか自信がない。
そう考えて激は渋々涼華から手を放した。
「おい、そこの優男。何で貴様が俺を知っている?」
「私は学園の生徒会書記だけでなく、GCの管理もしてますからね。GC管理者としてこのツェルブワールド全ての子供達の情報もここにあるんですよ」
そう言ってチャラは自分の頭を指差す。
それだけの情報が全てあの頭の中にあるのはにわかに信じ難いが、この男チャラがそんな冗談の類を言うとは思えない。
それにこの男であればそれだけのことは出来るだろうと思えてしまう。
「お望みならあなたに関する他の情報もいえますよ? 所在国はファスタですが現在は世界中を放浪中。歳は14歳。ご両親は……」
「もういい。充分わかった」
涼華は拳銃を消し、激を開放する。
「俺のこれを調べたいならここにいてやる。だが少しでも妙な真似しやがったらすぐに出て行くからな」
「あ、涼華」
そう吐き捨てて出て行ってしまった涼華を追いかけた。
「まってよ、涼華。ねぇ」
何度呼びかけても涼華は止まろうとせず、ずんずんと廊下を歩き進んでいく。
「……どうして偽名なんか名乗ったの?」
「………………」
そう尋ねて、やっと涼華は止まってくれた。
だが何も答えず、こちらへ振り向こうともしない。
「爆だなんて名乗ったから僕も激も、多分ヒロト君も君を男だって勘違いしちゃったんだよ? それに女の子なのにどうして俺だなんて……」
「おい」
やっと口にした涼華の一言には殺気が込められていた。
普通の者なら声を聞いただけで立ち竦んでいただろう。
「死にたくなかったら余計な詮索はするな。いいな?」
そして再び歩き出して行った。
(余計な詮索はするな、ねぇ?)
純粋に、興味を持った。
あの拳銃にも。
彼女にも。
嵐は、涼華の後ろを追いかけて行った。
亮祐:管理人です。実はパソコンのクラッシュのせいでこの回も消えてました。残ってて本当に良かった……。
念のため、言っておきますがこのとき嵐はまだ涼華に興味を持っただけで恋はしておりません。嵐が恋に落ちるのは次です。多分。
翔:確定じゃないのかよ!!
亮祐:ではこの辺で。
BGM:『誰も知らない地図で』/松沢由美