春になると何時も思い出すよ。
11年前のこと。
君との出会いは衝撃的だったね。
色んな意味で。
サーに風が吹く。
GC達の目の前には巨大なトラブルモンスターがいる。
見たこともないその姿。
空気から伝わる威圧感。
「――ったく。なんつーバケモンだ」
さすがの激もヤバイと感じ始めていた。
こっちは数人に対し、あっちはたった一匹。
数的には有利な筈なのにモンスターは一向に倒れる気配すらない。
それどころかこちら側はモンスターの攻撃を幾度となく受け、現在動けるのは激とサーのGCヒロト。
そしてファスタのGC嵐だけだった。
「師匠でさえここまでてこずるとは……」
「麻酔もしびれ薬も効かないね」
「だいたいなんでこんなときにかぎって俺しかこれねぇんだよっ! ウツローは保健室で寝てやがるし、おじょうちゃんは“髪と肌が乱れる”とかいいやがるし、シルバは保健医の仕事があっし、頼みの綱の炎は毒入りのコーヒー飲んで倒れやがるしっ!!
いったいドコのどいつだっ!! 炎に毒入りコーヒーなんか出しやがったのはっ!!!」
「あ、ゴメン。それ僕だ」
「オメエの仕業かーーーーーっっ!!!」
あっさりと白状した嵐の首を激が締め上げた。
「いっとくけどあれ毒薬じゃないよ? 僕が作った新薬だって」
「似たようなもんだろうがっ!!」
「ケンカしないでくださいっ!今はこっちが先ですっ!!」
「そうだな。とにかく怒吐くのは後だっ!」
「今はこっちをなんとかしないとね」
三人は改めてモンスターを見上げる。
巨大なそれは、自分たちのことなど見向きもせず周りの木を押し倒していく。
おそらく、自分達のことなど虫と同じようにしか思っていないのだ。 。
「―――で、どうするの?」
「どーするって、んなもん決まってんだろ?」
激は己の武器である棒を構えた。
嫌な予感がした。
「突撃ーーーーっ!!!」
案の定、そのまま突っ込んだ。
「ちょっ、師匠ーーーーぉっ!!??」
「あ〜あ、行っちゃった」
考えなしに突っ込んでいった激に呆れた。
―――でも、激らしいや
嵐も追いかけようと構えた。
トラブルモンスターが反応したのはその時だった。
何を思ったのかトラブルモンスターは鼻をひくひくと動かすと、突然向きを変え森の奥へ消えて行った。
「急にどうしたんだろうね」
「知るかっ!とにかく追いかけっぞっ!!」
「ハイッ!」
三人もモンスターを追って森の奥へと消えて行った。
嵐達はトラブルモンスターを追いかけて森の奥へ入っていったものの、意外に速いらしいそいつはすぐに見失ってしまった。
しばらく木が薙ぎ倒されて出来た道を走っていると向こうから光が差し込み、その先に出た。
そこは下流だった。
美しい水が太陽を反射し、きらきら輝いている。
「はー、この森にこんなトコがあるとはねー……」
「師匠、嵐さんっ! アレッ!!」
青い顔でヒロトが指差した。
その先には川の中にトラブルモンスターと、その向こうに法衣を纏った者がいた。
遠くなので顔はよく見えないが年頃は激や嵐と同じくらいだろうか。
双方は睨み合い、間合いを取っている。
その者は怪我をしているらしく右腕を伝った血が川を紅に染めていた。
―――危ないっ!
直感的に感じ取った嵐が一番に走り出していた。
闘って判明したことなのだがあのトラブルモンスターには血の匂いを好む性質があるらしい。
先程走り出したのもこの者の血の匂いを嗅ぎ取ったからだろう。
自分らでさえてこずっている一般人に倒せるわけがない。
「逃げろーーーーーーーーっっ!!!」
叫びながらトラブルモンスターに背後から攻撃を仕掛けようとした。
辺りに、銃声が轟いた。
トラブルモンスターが断末魔の声を上げ、ゆっくりと倒れていく。
その先にはその者が左腕を構えて立ちはだかっている。
左腕には白い硝煙を上げている護身用の拳銃が握られていた。
「あ、はは……」
「そんな……」
「嘘、だろ……?」
トラブルモンスターのすぐ背後にいた嵐も、一歩も動けなかったヒロトと激も唖然としていた。
GCやGSの自分達が倒せなかったトラブルモンスターを一般人が護身用の拳銃一発で倒してしまったなんて。
そして更に信じられないことが起きた。
倒されたモンスターが淡い光を放っていたかと思うとノーマルモンスター『パープルドッグ』に姿を変え、何処かへ走り去っていったのだ。
こうなってはもう何も考えられない。
「おい」
不意にその者の声に三人は我に返った。
「この国のGCはどいつだ?」
「あ、僕ですけど……」
手を挙げてヒロトが答えると法衣の者はつかつかとこちらに近付いてきた。
ぼやけてしか見えなかったその者の姿が鮮明になる。
伸びっぱなしの艶やかな漆黒の髪。
目付きは少々悪いものの、その顔立ちは中世的で整っていた。
―――綺麗な子だなー……
三人がそんな事を考えていた時だった。
スパーーーァンッッ!!!
景気のいい音が森に木霊した。
ヒロトがハリセンで思い切り殴られた。
目の錯覚だろうか、法衣の者が持っていた拳銃がハリセンに変化した気がする。
「急に何をっ……」
「やかましいっ!! 自分の国のトラブルモンスターくらい自分で始末しやがれっ!! ムダ弾使わせんなっ!!!」
「あの〜」
「あぁ?」
かなり不機嫌そうな声にびくつきながらも嵐は勇気を出して訊いた。
「そのハリセン、さっきまで拳銃じゃなかった?」
「ああ、これか?」
法衣の者は手にしているハリセンを見せてくれた。
そして三人の目の前でハリセンが一瞬にして先程の拳銃へと姿を変えた。
こんなことが出来るなんてこれはもう只者ではない。
「オメエは誰だ……?なんでこんなことが……」
そう思った時には激が訊いていた。
こんな目立った服装を着用しているのだから学園関係者であればすぐ気付くはずだ。
何より物質化したものをそれと全く関係ない物質へ変化させるなんてそんなライセンスは今までなかった筈。
「知るか、んなもん。物心ついたときには使ってたしな」
あっけらかんとした返答にずっこけた。
「んなワケあっかっ! マジメに答えろっ!」
「俺は至ってマジメだ」
「師匠、落ち着いてっ!!」
激に胸倉を掴まれてビクともしないとは余程度胸があるのか、無知なだけなのか。
ヒロトも必死で宥めている。
「とにかく、オメエのその力について調べさせてからなっ! そうなった以上、針の塔に着てもらうぜっ!」
「あぁ? 針の塔ってツェルブワールドの真ん中にあるアレか? めんどくせぇな」
「んだとぁーーーーっ!!?」
「おさえてくださいっ!!」
無知なだけのようだ。
「だーーっもうっ! 行くぞっ!」
「すみません、すぐ終わると思いますから……」
「……フン」
激とヒロトに言われてその者は渋々付いて行く。
彼の隣りを歩く嵐が切出した。
「ところで君の名前は?」
「あ?」
「だって名前分からなかったら呼べないから。ちなみにサーのGCの子がヒロトくんで、あの髪が書道筆なのがGSの激。んで僕は嵐。ファスタのGCだよ。今日は応援でここにきたんだ」
「応援できた割には弱そうだな」
「僕もそう思う」
変な奴とでも思ったのか法衣の人は怪訝そうな目でこちらを見る。
「――で、君の名前は?」
「……爆」
その者は自分の名を名乗るとそれ以上は何も話そうともせず、無言のまま歩き続けた。
亮祐:管理人です。いくらなんでも炎氏に新薬を盛っちゃダメだよ、嵐さん…。自分が書いた
のだけれども。
翔:自分でいうなよ!!
亮祐:爆母も初っぱな早々ブッ飛び。激もたじたじ。次は再び今の時の理科室です。では続きます。
BGM:『”Knockout Drops”』/森川智之・石川英郎