鋼の錬金術師

出会い

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「誰が豆つぶドちびかーーーーっ!!!」

 怒声と共に飛び交う物々と離れる人々。

「ボクは弟のアルフォンス・エルリックでーす」
「オレが“鋼の錬金術師”っ!!“エドワード・エルリック”ッ!!」
「し……」
「失礼しました……」

 弟のアルフォンスとは対照的に兄のエドワードはまだ怒りが収まらずにいた。

「あーっはっはっはっはっ!」

 その時、今の状況に相応しくない盛大な笑い声。
 自分達が座っていた席の隣りに二人組みの青年が座っていた。
 太陽に照らされ光輝く長い黄金色の髪を傍らで結わえ、同じ色の瞳が特徴的な青年と肩ほどまでの闇よりも暗い漆黒の髪と瞳を特徴的な青年。
 大笑いしているのは前者の方だ。
 この二人、エルリック兄弟がくる前からその席に座っていたが、まさかあの騒ぎの中逃げもせず今の状況で笑っているとは。

「無理も無いよ。この人たちの言う通り本当にちびなんだから」

 周辺の空気が氷点下に達した。
 エドワードの頭に怒りの四つ角が一つ。

「ねぇ、おちびくん」
「だ……」

 最後のその一言で、キレた。

「だれがミジンコどチビかーーーッ!!!」

   ―――バキャアアァァァッ!!

「おぐッ!」

 エドワードの右ストレートが見事に決まった。
 もちろん、右腕は機械鎧なので力を加減して。

「兄さんっ、いくら何でも初対面の人に失礼だよっ。すみませんっ、兄さんがっ……」
「だ、大丈夫か?」(汗)
「いや、こっちにだって非ィあるし……」
「こんにちは、おじさん。あら、今日はなんだかにぎやかね」
「おっ、いらっしゃいロゼ」

 そこへ長い髪の明るい少女が駆け込んできた。
 店主は先ほどの騒動の後でも冷や汗をかきながらロセと呼んだ少女に対応する。

「今日も教会に?」
「ええ、お供え物を」

 “いつものお願い”というとロゼはこちらへと視線を移した。

「あら、見慣れない方が…」
「錬金術師さんだとよ。探し物しとるそうだ」

 “ども”とエドワードは軽く会釈しておく。

 店主は頼まれた物を全て紙袋に詰め終えるとロゼに渡し、代金を受け取った。

「探し物見つかるといいですね。レト神の御加護がありますように」

 ロゼは笑顔で向こうへと走り去っていった。

「ロゼもすっかり明るくなったなぁ」
「ああ。これも教主様のおかげだ」

 ロゼの後ろ姿を見ていたが周りの男達が言う教主と言う言葉が少し気になった。

「へぇ?」
「あの子ね……」
「身寄りの無い上に去年恋人までなくしてすっごい落ち込んだんだよね」

 話そうとした店主を差し置いて話し出したのは先ほどの黄金色の髪の彼だ。
 右ストレートを喰らったというのにすっかり回復している。

「そこを救ったのが創造主たる太陽神レトの代理人コーネロ教主の教えってワケ。生きるものには不滅の魂を、死せるものには復活をってね。その証拠が『奇跡の業』ってやつ。何なら君らも探し者ついでに見に行ってみたら?けっこう面白いもの見れるよ」
「ふ〜ん……」

 正直、エドワードはそんなもの信じていない。
 もとより無宗教だし、錬金術師としても神といった曖昧なものは信じていないのだ。

「『死せるものに復活を』ねぇ……。うさんくせぇな」

 そう言って溜息を吐いた。

「うん、俺も同感」

 彼の思いがけない言葉にすっ転んだ。

「同感って、あんたここの人じゃねーのかよ……」
「あいにくね。君らと同じ旅行者だよ」
「そのわりにはさっきの人についてくわしかったみたいですけど……」
「ここにきたとき一番親身になってくれたのがロゼでね、町の人から色々聞いたんだ」

 アルもそれを聞いて納得した。

「こんなこと街の人らの前でいうのもなんだだけど、俺は神様ってのは人間がよりどころにしてるもっとも曖昧な存在と思ってるんでね」
「あんた神を冒涜する気かいっ!?」

 店主を含めその場で聞いた町の住民全員が彼を睨みつけた。

「身体に障害がある者。生きたくても生きられなかった者。生まれて来れなかった赤ん坊。軍に殺されていったイシュヴァール人」
『?』

 先ほどの言葉と何の関連のない事を口に出した彼に店主たちは頭を傾げる。
 エドワードとアルフォンスにも何の関連があるのか判らない。

「本当に神様とやらがいるなら、もっと早くその代理人を寄越してくれればそんな人間いなかったのにね」
「それは……」
「もしこの世の中に神様とやらが本当に存在するなら……」



「嘲笑ってるんじゃない?そんな宿命から懸命に抗っている人間を、ね」

 陽気そうで綺麗な笑顔とは裏腹に、口から出た残酷な暴言。
 背筋が、ゾクリと、した。

 だが街の住民はそれを聞いて黙っていられない。

「アンタッ!!」
「おお、怖い」

 わざとらしくいうと彼はひらりと立ち上がり、連れの青年と共に地面に置いていた荷物を手に取った。

「邪魔したね、主人」
「行っちゃうんですか?」

 カウンターに金を置いている彼にアルフォンスが話し掛ける。

「いや、もうちょこっと滞在するつもりだよ。おもしろいことが起こりそうだしね」
「???」

 彼が言う“おもしろいこと”とははいったい何だろうと思ったがそれだけでは全く判らなかった。

「じゃあねー。おちびくん達もがんばれよー」
「ちびっていうなーーーーっ!!!」

 彼は再びエドワードの逆鱗に触れるようなことを言いながら連れの青年と共に去って行った。

「不思議な人だったね」
「無礼な野郎だっ」

 荒ぶる感情を落ち着かせながらエドワードは先ほどの青年が話していた『奇跡の業』について考えてみる。
 もしかしたら自分たちが探している物と関係しているのかもしれない。

「行くぞ、アル」
「行くってドコに?」
「教会だ」

 “とりあえずまずはあのロゼに話を聞こう”と兄弟は教会を目指した。










「……おい」
「…………」
「おい」
「…………」
「おいっ!!」

 俺の呼びかけに前方を歩いていたこいつはやっと足を止めた。

「何?」
「いいのか?名も名乗らずに別れて」

 キツそうな顔で俺は睨む。
 けれどこいつは笑みを浮かべていた。

「元々ここに来たのはあの二人に接触するためだろ」
「いいんだよ、あれで。あまりにもしつこいと返って不信感もたれるしね。こういうのは時間をかけないと」

 そう言ってこいつは再び歩き始める。
 言い分も判らないわけではない。
 けれどどうしても焦ってしまうのだ。
 今はどんな小さな情報でも欲しい。
 例えどんな手を使ってでも、この目の前にいるこいつの為にあれを―――

 名を呼ばれてふと我に戻った。
 こいつは余裕たっぷりな笑みを浮かべていて

「時間はたっぷりある。肩の力抜いて自分のペースでやってけばいい」

 ぽんっと頭に手を置かれた。
 そんなこいつの行動に、俺は照れ臭くなってしまった。

「……それで、これからどうするんだ?」
「いった筈だよ。もうちょこっと滞在するつもりだって」



「おもしろいことが起こりそうだしね」

 そう言って目の前の人物、は愉快そうに笑った。




END


亮祐:ついに始めてしまったハガレン夢小説。 しかも夢主エドたちに名乗りもせず。陽気な夢主とヘタレっぽい夢主2ですが以後お見知りおきを。


BGM:『メリッサ』/ポルノグラフティ

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