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墓前の白百合

Photo:Roz モドル | トジル | ススム

煉獄庭園』の煉獄小僧様より
『琉瑠-Ruru-オルゴール版』

「エレンシアッ!」

 背後から呼ばれた本名にエレンは振り向いた。
 灰色の髪と青い目、髭を生やした太めの初老男性が、エレンを見て目を見開いている。

「帰ってきていたのか!? 今まで何処に行ってたんだ!?」
「あー、その……」

 詰め寄る初老男性の迫力に、エレンは困って頭を掻いている。
 本当ならここでの目的を果たし、薬草を探してもらっている間に仕事を再開し、見つかり次第再び休業してまたすぐ発つつもりでいた。
 この人には会わないでいるつもりだった。 

「説明もせず出おって連絡もせず、どれだけ周りを心配させたと思って……!」

 こんな風に、涙ぐまれてしまうと解っていたから。

「……すみません」

 そっと、初老男性の肩に手をかける。

「すぐ戻ってくるつもりでいたんですけど、あまりにも楽しかったもので。それに連絡がないのは元気な証拠っていいますし?」
「おまえという奴は……」

 相変わらずなエレンの調子。
 こういう時は大概何かしらの隠し事をしている時だ。
 聞き出そうとしても何も言わないだろう。
 諦めて初老男性は溜息を吐いた。

「とにかく立ち話もなんだ。早く家に――」

 初老男性はエレンの手を強く引いた。
 だが――

「いえ、これから寄りたい所があるんで」

 その言葉に、ぴたりと止まった。

「それから宿へ戻って、また行きます」
「……そうか」

 それだけ言って、エレンの手を離した。
 何となくそんな気はしていたのだ。
 それを認めたくなくて先ほど強くエレンの手を引いた。

「やっと帰ってきたと思ったらまたすぐ行くなどといいおって。親不孝ものが」
「いやだな〜。それは俺なんかに使う言葉じゃありませんよ」
「何を言う! 血は繋がっていなくとも儂はおまえを本当の娘だと……!」
「あなたの娘は彼女だけだ。俺は違う」

 言って、エレンは初老男性に背を向けて歩き出す。
 けれど5m程歩いた所で足を止めた。

「けど―――」



「こんなあたしを、本当の娘だといってくれて嬉しかったですよ? お養父さん」

 ―――それは初めて聞いた、エレンシアからの

 そのままエレンは歩き出して行った。
 小さくなっていくエレンの姿は思った通りの方向へ消えていく。
 初老男性は手にしていた手桶を握り締めた。
 手桶の中には前回供えた白百合。
 エレンも大輪の白百合を抱えていた。
 寄りたい所はあそこしかなかった。
 今日は、娘の―――。










 よく晴れた日だった。
 彼女の目と同じ色の青が、どこまでも広がっていて。

「……久しぶり」

 二年ぶりの挨拶をして、エレンは持ってきた白百合を供えた。
 墓石の、前に。

「ごめん、遅くなって。本当はすぐ戻ってくるつもりだったんだけど」

 二年前、エレンがここを出たのはある目的の為だった。
 本当にすぐ戻ってくるつもりだったし、目的をあまり知られたくなかったので説明もしなかった。
 遅くとも一年前の今日、彼女の命日までには戻って来て墓前に報告するつもりだった。

「まだ、目的も果たしてないんだ」

 途中で立ち寄ったエンフィールド。
 あの街があまりにも居心地が良かったものだからつい長く滞在してしまい、シャドウにあんな事件を起こさせてしまった。
 だから一旦ここへ戻って来た。
 世話になったアリサさんの目を良くする薬草を探す為にも。

「薬草を見つけたらまた行くよ。今度こそ目的を果たしに」

『おまえのせいだっ! エレンッ!!』

 声が、脳裏に甦る。

『見てたんだっ!! 雑貨屋でおまえが姉ちゃんにマジックアイテム欲しいってわがままいってたのっ!!』

 それは、普段は引っ込み思案でいつも自分の後ろに隠れてしまう少年のもの。
 けれどその声は、目は、悲しみと怒りに彩られて―――。

『昨日買いに行ってなかったら姉ちゃんは死ななかったんだっ!!』

 周りのシスター達が、今にも自分に掴みかかりそうな少年を止めていた。

『おまえが殺したんだっ!!!』

 少年の頬を伝って、幾筋もの涙が地面へと落ちていた。

「フリーデリーケ……」

 墓石に刻まれている文字をなぞる。

 フリーデリーケ・アウレーリエ・エインズワース 享年17歳

 先程会った養父の本当の娘。
 孤児院にいた自分達にとって、シスターの手伝いに来ていた彼女は姉のような存在だった。

「今でも、悔んでるんだ。あんなこといわなければ良かったって……」

 そう。彼の言う通りだ。
 あんなことを言わなければ彼女は死ななかっただろう。
 生きて、成長して、結婚して、あの憂いを帯びた笑みを浮かべて。
 けれど、今となってはもう、もしもでしかない。
 彼女は、フリーデリーケはもう何処にもいない。
 それが事実なのだから。

「こんなあたしでも許してくれるなら……」

 ―――いつかまた、あたしの隣りで笑ってくれる?

 最後は声にしなかった。
 すれば泣いてしまいそうな気がしたから。

 さあ、と吹き抜く風が、エレンの長い髪を靡かせる。
 墓前の白百合だけがエレンを見ていた。





END


亮祐:管理人です。悠久幻想曲2nd Albm最中のエレンの話しでした。舞台はもちろんエンフィールドではなく、エレン が幼少期からエンフィールドに来る前までを過ごしていた都市です。今回出てきた初老のおじさまはエレンの養父グルドさん(仮名)です。
翔:仮名かよ!!
亮祐:グルドさん(仮名)の小説での出番はこれっきりだろうから、まだちゃんと決めなくてもいいかなと思って……。 ちなみに武器屋を経営してます。 実はこの話、作成中ADVのエピローグでもあります。そっちではもうちょっと短くまとめてます。グルドさんの出番もありません。今回エレンのおねえさんの名前やエレンが孤児院にいたこと等が出せて良かったです。お姉さんといっても本文にある通り、孤児院の手伝いに来ていた人なので血の 繋がりはありません。孤児院なので兄弟達とも血の繋がりはありません。フリーデリーケが死んでしまった詳しい事情は後にエレンが語ってくれますので少々お待ちを。語り聞かせる相手はもちろんあの子です(*´ω`*)ムフフv
翔:気持ち悪!!
亮祐:ちなみにシャドウも兄弟の一人です。もちろん血の繋がりはありません。あったらヤバイよ(※chastise参照)
翔:当たり前だ。
亮祐:あとエレンの髪の毛はエンフィールド出てからほったらかしにしてたのでこの時点では結構伸びてます。元々伸びるのが早い体質なので。腰に近いくらい伸びている。
翔:早すぎだよ!!
亮祐:ではこの辺で。


BGM:琉瑠-Ruru-オルゴール版/煉獄庭園

モドル | ススム

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