Everlasting a Conception

秘密

モドル | トジル | ススム

 本日の仕事を終えた五月が自室にいた。
 怒りで体を震わせて。

「〜〜〜〜〜っっ」
「何しけたツラしてやがんだあ?五月」

 普通なら「さあ、ゆっくりしよう」といきたいところだがそうはいかない。
 己の分身、シャドウが当たり前のように姿を現しているから。

「せっかく二人きりだってのにもったいねぇ」
「当たり前だろっ! 俺は疲れてんだ、休ませろっ!! つーか二人きりを強調すんじゃねぇぇっ!!!」

 楽しそうなシャドウに五月は泣きながら怒る。
 それもその筈。
 今日の仕事はかなりの重労働だった。
 ようするにくたくたなのだ。
 ゆっくり休みたいのにこの男、シャドウが姿を現しておいては緊張して休むことが出来ない。

「俺はここでしか姿現せなくてタイクツなんだ。ちょっとは相手しやがれ」
「人の都合も少しは考えろっ!つーかそれは自業自得だろーがっ!!この犯罪者っ!!!」

 言う通りここでは五月に罪をなすりつけ、このエンフィールドを火山によって滅ぼそうとしたシャドウはれっきとした犯罪者だ。
 見つかってしまえば最後、自警団にと捕まり死刑になるのは目に見えている。
 無論、シャドウをかくまっていた事もバレれば五月も唯ではすまない。
 シャドウが姿を現しているとバレるんではないかと緊張して休めなかった。

「とにかくとっとと俺ん中戻れっ! 見つかったらお前も俺もただじゃすまなねぇんだぞっ!?」
「いいじゃねぇか。ここなら二人きりだろ?」
「下にアリサさんやテディもいるのに何が二人きりだっ! 他にも色んな奴が来たりすんだぞっ!?」
「必ずしもここに来るってワケじゃねぇだろ」

 怒る五月とああ言えばこう言うシャドウ。
 決着のつきようがない。

「それにな、五月。俺がタイクツだって理由だけで姿現すと思うか?」
「えッ……」

 シャドウの不敵な笑みに五月の背筋に悪寒が走った。
 嫌な予感がする。

「ちょうどいいところにベッドもあるしな☆」
「押し倒すなーーーっっ!!!」

 本当に楽しそうにシャドウが五月をベッドで押し倒した。
 冗談じゃないと五月は抵抗を始めるが全くもって敵わない。
 そんな時、下からアリサさんの聞こえてくる。

「五月クーン、どうかしたのーっ?」
「どうもしないでーすっっ!! ――って、ドサクサに紛れて脱がすなーーーっっ!!!」
「♪」

 対応する五月にシャドウはナンパ師アレフもびっくりするほど鮮やかな素早い脱がしっぷりを披露する。

「本当に何でもないのーーっ?」
「本当に何でもないでーすっっ!! だからは〜な〜れ〜ろーーーっっ!!!」

 これはもう何でもなくないと言ってるようなものだ。
 結局、何かあると判断され扉がゆっくりと開かれていく。

「こんにちわー、さっちゃん」

 鈍い音が響いた。
 意外なことに、扉を開けたのはアリサさんではなく自警団第三部隊隊長であり五月の従弟の陸月だった。

「陸月? お前が何で……」
「さっちゃんに話しがあってきてみたらものすごい大声が聞こえてきたからね」

 アリサさんが行くより僕の方がいいじゃないかと思って。
 説明して陸月が扉を閉めた。

「ところでさっちゃん」

 陸月がある物体を指差した。

「もしかしてそれ、シャドウ?」
「あ、ああ…」

 陸月の質問に五月が目をそらして返事をする。
 陸月が指差したそれがおびただしい程の血が染み付いた状態で丸まっているシーツだったから。
 しかもその中からは血が付着した褐色肌の腕が一本はみ出ていた。
 先程したにぶい音の正体だった。

「やっぱり僕が来て正解だったねvいくら目が不自由なアリサさんでもこの充満した鉄臭い匂いで分かっちゃってただろうし」

 それに肩にテディが乗ってたと思うよ。
 付け足す陸月の言葉を聞きながら五月はその様子を想像し青くなった。
 本来ならナマ殺しにした後すぐクローゼットにでも放り込むつもりだったがそこまでの時間がなかった。

「――で、話しって何だ?」
「それを話す前に、いいの? アレ」

 陸月が指差したのは先程のナマ殺しにされたシャドウが包まれた血塗れのシーツ。

「いいんだよ。自業自得だ。それに俺かこれに何かねぇかぎりこいつは不死身だしな」

 五月は赤紫色の書物を手にしていた。
 膨大な魔力を放つこの書、実は偉大な魔術師タナトスが残した遺産の一つ、タナトスの書。
 にわかに信じがたいが正真正銘の本物で、これと五月の魔力と負の感情がシャドウを形成しているのだ。
 だからといってナマ殺しにして血まみれになった者を放っておくのは鬼だが(笑)

「ねぇさっちゃん。いつまでシャドウのこと隠し通すつもりなの?」

 その質問に五月は思わず目を見開いた。

「そらおまえ……」
「このまま一生? それはムチャってものだよ」

 言われなくてもちゃんとわかっている。
 このまま隠し通せる道理などない。
 いつかはきっとバレる。

「けどだったらどうしろっていうんだ? まさか全部話せっていうんじゃないだろうな? それこそムチャってもんだろ…」

 五月は俯く。
 出来る訳ない。
 話すことなんて、出来る訳がない。
 シャドウはここでは犯罪者。
 原因は五月にあるのだから―――。

「さっちゃん」

 陸月の呼びかけに五月は顔を上げた。

「いっておくけど、もうみんな気付いてるよ?」

 投げられた言葉に五月は頭部を1tハンマーで思い切り殴られたような衝撃を受けた。
 あまりのショックに真っ青になっている。

「き、気付いてるって……」
「だからさっちゃんが隠してるってこと」

 五月はもう何も考えられなくなってしまう。
 仕舞いには何がなんだかもうメチャクチャで、奇声をあげていた。

「あ、でも大丈夫。さっちゃんが何を隠してるかはまだ気づかれてないから」

 だから安心して。
 続いた言葉で五月はやっと落ち着けた。

「最近ね、みんなが仕切りに聞いてくるんだ。さっちゃんの様子が変だって。何か隠し事でもしてるのかって。本当に心配そうだったよ?」
「そ、そうか……」

 隠し事があると態度に出ていたのだろうか。
 ―――俺としたことが不覚だった
 少し乾いた笑いを発した。

「だからあの事件に関わったみんなには真実を話しておくべきだと思う」

 続いた言葉に五月は黙り込んだ。
 このまま黙っていてもいつかバレてしまうことぐらいとうに分かっている。
 だがこの事を言ったら皆が離れて行ってしまうのではないか。
 そう思うと怖くて言い出すことが出来なかった。

「さっちゃんが話しにくいってことぐらい分かってるよ。一年間、そしてこれからも共にいる仲間だもんね。でも……」



「そんなみんなが、シャドウのことを知ったぐらいで離れたりすると思う?」

 五月は目を大きく見開いた。
 あの事件が起きた時、快く協力してくれた皆。
 皆の中で誰一人、自分を疑ったものは居なかった。

「さっちゃん、どうしてみんなが快く協力してくれたんだと思う? どうして誰一人さっちゃんのことを疑ったりしなかったんだと思う?  みんながそれだけさっちゃんのこと好きだってことなんだよ」

 そっと、陸月の手が五月の頬に触れる。

「大丈夫。みんなさっちゃんのこと大好きなんだもん。シャドウのことを話してもちゃんと受け入れてくれるよ。それに 、僕もさっちゃんのこと大好きだからシャドウのこと黙認してるんだからね」

 そしてフフフと微笑んだ。
 そっと、五月の額へ口を近づけようとしたその時。

「陸月…」

 いつの間に復活していたのか、シャドウがこちらを睨んでいた。
 しかも、嫉妬に狂う男の眼差しで。

「あ、シャドウ。よかったねv 復活して」
「ああ、正にそうだなあっ! あともうちょっとで五月がてめえの毒牙にかかってたところだったぜッ!!」
「毒牙なんて酷いなぁ。僕はただ励ますつもりで額にキスしようとしてただけだよ?」
「それが毒牙なんだよっっ!!!」
「おい、シャドウ」

 声を荒げるシャドウを五月が止めに入った。

「そんなことでいちいちキレるなよ。陸月のキス好きはおまえも知ってるだろ」
「こいつのキス好きはてめえ限定だっ! てか俺がしたら怒るくせによおっ!!」
「それはおまえが唇にばっか迫ってくるからだろっ!!」

 その昔、陸月はよく五月にキスをしていた。
 いくら注意してもやめる気配はまったくないし、場所も額や手の甲と言った挨拶的なものばかりだったので五月も仕舞いには諦めた。
 けれどシャドウの場合、迫るのは決まって唇だった。
 五月はその度に“野郎とキスしてたまるか”と鉄槌をくらわしていた。
 シャドウは何か悪巧みを思いついたような楽しそうな笑みを浮かべた。

「じゃあ、唇じゃなかったらいいんだな……?」
「エッ……」

 再び、嫌な予感が再来した。

「んじゃ早速っ!!」
「だからって首筋を吸うなーーーーーっっ!!!」

 嫌な予感はしっかりと当たった。

「二人とも、そんなに騒ぐと本当にアリサさんたちが……来ちゃったみたいv」
「エッ……」

 五月が振り向くと陸月が言った通り扉の前にはアリサさんとその肩にテディがいた。
 目の悪いアリサさんは今の現状がよく分かっていないらしく首をかしげているがテディはそうはいかない。
 それもその筈。
 五月は今、シャドウによって押し倒されているのだから。

「ギャアァァーーーッ!! なんでここにシャドウがいるんスかーーーッッ!!!」
「お、落ち着けテディッ! これにはワケが……!!」
「よお☆ いつごやの犬っコロ」
「アラ。お友達が来てたの?五月クン。じゃあお茶を……」
「じゃあ僕は砂糖なしでv」

 外に、五月の部屋からこんな五つの声が漏れた。










おまけ

「じゃあ、シャドウクンは五月クンのご兄弟みたいなものなのね?」
「そんな頃から大変だったんスね〜、五月さん」
「♪」
「ねv いった通りだったでしょ?」
「あ、ああ……」

 今まで悩んでいた自分が馬鹿らしくなった五月は複雑な気分で五人と共に茶を飲んでた。





END


亮祐:管理人です。今回シャドウの扱いが惨過ぎるのは御了承ください。五月のシャドウはこーいう扱いが主なので。シャドウの詳しい正体については「書物の中からこんにちわ」にて書いてます。ではこの辺で。


BGM:『夢じゃない』/スピッツ

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