魁!!男塾

罪 後編

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 時間は俗に言う深夜というやつだった。

 電気がついていないのでこの個室の主は寝ているかと思えばそうではない。

 ベッドの上で体を起こし、暗闇を見つめていたのだ。

 

(・・・・・・)

 

 桃にとって、カーテンを開けても暗闇である新月の晩は都合が良かった。

 暗闇は考え事をするには最良な環境なのだ。

 桃は暗闇に慣れ、ぼんやりと見える己の両手を見つめる。

 

(俺は、あいつを・・・)

   ―――ガチャ・・・

 

 不意に扉が開いた音。

 よく見えない筈なのに、桃はその名を声に出す。

 

「赤石、先輩・・・?」

「・・・よくわかったな」

 

 思ったとおり、その者は赤石だった。

 暗闇の中、証はまっすぐベッド脇へ移動する。

 

「調子はどうだ?」

「おかげさまで。・・・ん?」

 

 よく見てみると赤石の手には一升瓶が握られていた。

 

「先輩、それは?」

「酒だ。景気付けにな」

 

 酒を見せられ、桃は唾を飲み込む。

 だがからドクターストップをかけられている以上、飲むわけにはいかない。

 

「先輩には悪いんですが、教官に“飲むな”と止められているんで」

「あ?そんなハズ・・・」

 

 そこまで言って赤石はハッと気付いた。

 ハメられたのだ。

 あのに。

 昼間“桃が目覚めたから酒でも持っていってやれ”と言われた時、何か違和感を感じたがこれだったのだ。はあれでも保健医だ。意識を取り戻したばかりの怪我人の元へ“酒を持っていってやれ”などと言う訳がない 。

 

「そういえば、昼間教官が“あとでいいもん用意してやる”っていってたがどういう意味だったんだ・・・?」

 

 桃の呟きで赤石は確信した。

 間違いない。
 その“いいもん”は俺だ・・・。

 そこまで気付いたとき、赤石は鍵をかけられているのではないかと思って確かめようとしたがやめた。

 桃は怪我人だし、だって保健医なのだから、まさかそんなことをさせるために自分をハメさせたワケではないだろう。

 ・・・多分。

 

「ま、まあ、とにかく俺は飲ませてもらう」

 

 桃の疑問を打ち消すように言うと赤石は置いてあった椅子の上に座り、懐からぐい飲みを取り出す。桃も何も言わずに一升瓶を受け取り、証が持つとまちょこに酌をした。

 そして赤石はぐい飲みに口を付け、一口飲む。

 

「・・・赤石先輩」

 

 そこへ桃が声をかけたので赤石はぐい飲みを口から離した。

 だが何故か桃はそれ以上喋ろうとはせず、ただ自分の両手を見詰めるだけでしかない。

 それでも赤石は桃が自分から話すまで待ち続け、桃はやっと口を開いた。

 

「俺は、伊達を救えなかった・・・。伊達が俺から手を離したとき、ほんの少し、手を伸ばせば・・・」

 

   ―――さらばだ、桃っ!

   ―――だ、伊達・・・!!

 

 とっさの出来事だったので手を伸ばせなかったなんて、単なる言い訳でしかない。手を伸ばして掴めなかったとしても上へ登らずに伊達を助けに行くべきだったのだ。

 それなのに自分は・・・。

 

「俺が、伊達を殺したんだ・・・」

 

 そんな自分を、桃は許せなかったのだ。

 

「・・・てめえはどうしてほしいんだ?」

 

 その言葉に桃はハッと顔を上げる。

 

「“助けに行くべきだった”と罵ってほしいか。それとも“それがそいつの望んだことだ”と慰めてほしいか」

 

 ああ、そうだ。

 

「桃、俺は罵りも慰めもできん。てめえの迷いくらい、てめえで始末しろ」

 

 こういう人なんだ、赤石先輩は。

 自分ですべきことには決して手を貸さない。

 

「だがこれだけはいってやる。おまえには帰ってくる義務があった。一号のためにもな」

 

 だがいざという時には、一番頼りになる人なのだ。

 

「オス、先輩」

「・・・・・・」

 

 赤石の言葉のおかげで桃はいつもの笑みで返事をすることが出来た。

 だが赤石は己が発した言葉を消したかった。本当なら慰めるべきだったのだろう。

 だがそれは自分の性分が許さなかったのだ。

 こういう時、赤石は己の性分が嫌になってしまう。

 

 その時

 

「・・・先輩、やっぱり俺ももらいます」

 

 そう言って桃は赤石の手からぐい飲みを取ると、そのまま一気に飲み干してしまった。

 ちょうど、赤石が口付けた所で。

 

「も、桃っ・・・」

「やはり人間我慢はいけませんね。少しくらいならバレませんよ」

「そうじゃなくて・・・」

「え?あ、そういえばぐい飲みもう一つあったんですよね?すみません。俺これ使いますから先輩もう一つの方使ってください」

「いや、もういい・・・」

 

 “何を言っても無駄だ”と悟り、赤石は桃からぐい飲みを取り上げた。

 今のは間接キスというやつだった。直接した訳でもないのに、自分はこんなに動揺しているのに、桃はどう見ても普段のままだ。

 今夜が新月で本当に良かった。

 今、自分の顔は間違いなく真っ赤だっただろうから・・・。

 

「帰るんですか?」

「ああ」

   ―――バタン

 

 そして赤石は一升瓶とぐい飲みを持って部屋から出ていった。

 一人になった桃はそのまま横になる。

 赤石のおかげで気が少し楽になった。

 そういえば・・・。

 

「何で、真っ赤になってたんだ・・・?」

 

 自分が酒を飲み干した時、赤石の顔が真っ赤になっていた。先程はさほど気にしなかったが今考えてみれば動揺してたみたいだし・・・。

 

「まあ、いいか」

 

 “きっと酒が回っていたのだろう”と考えて桃は眠りについた。

 

 

 

 

 その頃、桃の個室の前では

 

(口を付けるべきか、このまま洗うべきか、どうするきか・・・)

 

 赤石が桃の口付けたぐい飲みを見詰めながらもんもんとした気持ちで立ち尽くしていた・・・。

 

 

 

 

 

END


亮祐:“早くちゃんとした赤石×桃を”と思ったけど、やはり赤石→桃。しかも赤石ストーカー一歩手前・・・。

翔:おまえ・・・。

亮祐:でも書きたかったことは果たしてるんです。 第一に「伊達 を助けられなかった事で悩む桃」第二に「その桃に活を入れる赤石」。そして最後に「せめて赤石×桃っぽいモノ」。

翔:ポイかよ・・・。

亮祐:でも最近、これを赤石サイド・桃サイドで分けて書き直せば「夏〜」の方におけるんじゃないかと思ってるんですよ。勿論桃サイドを「夏〜」へ。

翔:いや、それでも微妙だと思う。

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