「お、起きたみてぇだな」
教官のが桃を見下ろすように顔を覗き込んでいる。
桃が目覚めたその部屋は天井も壁もっ白い個室だった。
「教官、ここは・・・?それに、俺はどうしてここに・・・?」
訳が分からなかった。
確か自分は三号生の声を聞いた後、ちゃんと麓まで降りてきた筈。それなのに何故、この見知らぬ部屋にいるのだろうか?
「覚えてねぇのか?お前あのあと倒れたんだぜ?出血も酷かったしな」
「――っ!富樫たちはっ!?」
自分よりも大怪我を追っていた富樫、虎丸、Jの姿がどこにも見当たらないことに気づき、桃はハッと体を起こす。
「安心しろよ。あいつらなら別室の大部屋だ。おまえは一人のほうがいいかと思ってな」
「・・・教官、ここは・・・」
―――ガチャ
この部屋の事を訊こうとした途端、扉が開く音がした。
「目覚めたようだな、桃。さっそくだが体温と血圧を測らせてもらう」
入って来たのは体温計と血圧計を持っただった。
分からなかった。
は二号生副教官の筈だ。
それなのに、これではまるで・・・。
「安心しろよ。は元々、ここにくる前は医者だったからな。でねぇとこんな施設は作れねぇって」
「じゃあ、ここは・・・」
「ああ。ここは男塾の施設だ」
そう言っては桃の口に体温計を咥えさせ、血圧計のカバーを腕に巻いてシュッシュッと空気を入れる。
「男塾の隣、入院塔。入院するほどの大怪我を負った塾生が入れられる塔。別名、経費節約のために作られた所だ」
「塾生の入院費も馬鹿にならねぇからな」
男塾の赤字問題はこういう所にもきているようだ。
「桃、お前の怪我は他の三人よりはマシだがそれでも全治一ヶ月だ。しばらくはここにいてもらうぞ」
「二週間は経ったから、あともう二週間だな」
「二週間・・・」
あれからそんなに経っていたのか・・・。
それを聞いて桃はあの驚羅大四凶殺の事を振り返っていた。
目の前で倒れていく三人を見るのはとても辛かった。
だがもう一つ辛いことがあった。
それは・・・―――。
「桃」
体温と血圧をカルテに書き留めていたの呼びかけで桃はハッと意識を取り戻す。
「当たり前のことだがいっておく。酒を飲むな。傷に障るし、何よりお前は未成年者だ」
―――バタン
そう言うとはここへ入って来た時のように体温計と血圧計を持って部屋から出て行った。
「じゃ、俺もそろそろ帰らせてもらうか。保健室にいねぇと親父がうるせぇからな」
そう言うとも扉に手をかける。
「ああ、そうだ。桃」
だが一度立ち止まり
「あとでいいもん用意してやるから、楽しみにしてろよ」
―――バタン
そう言ってから部屋を出た。
桃にはその意味が分からなかったが、それよりももう一つの辛い事が重くのしかかっていたので、の言葉について深く考える所ではなかった。